第296話


「それで・・・師匠が一瞬で気絶させてくださいました」


スゥの報告を聞いて、ロンドベルは大きく息を吐き出した。

まあ、簡単に言えば「獣人は殺せ」と言われていたようで、スゥたちの部屋に入った連中は実行に移そうとして『ハンドくんたちが眠らせた』そうだ。

・・・紙のハリセンで。


〖 アイツらはこのままロンドベルに引き渡します。

あなたたちは手を出さない。いいですね? 〗


ハンドくんの言葉に3人は頷いた。

不満はあるだろう。

しかし、スゥたちにとって、師匠ハンドくんの指示は絶対だ。



〖 ロンドベル。

『ジョルトの一件』は他言無用に願います。

あの子たちに聞かせるにはまだ早すぎます 〗


「そうだな。

あの子たちのココロのキズはまだ癒えてない。

あの時の恐怖を思い出させたくはない」


「・・・はい。分かりました」


ハンドくんの隠された言葉を、ロンドベルは一瞬で理解した。

一番聞かせたくないのはさくら様なのだと。

では、ハンドくんはすでに知っているのだろう。

『すでに、王都に連行されたジョルトは仲間たちと共に公開処刑された』ことを。

さくら様が神々に愛されているのであれば、ハンドくんが『神々から直接お聞きになった』という可能性がある。

だからこそ、王都より離れたこの地で知り得たのだろう。


「ハンドくん。この連中、起こすの?」


〖 いいえ。このまま放り出します。

ロンドベル。この者たちは何処に泊まるのです?

この町に宿はありませんよ 〗


「ええ。そのため中央広場の露店街より北に王族専用の別荘があります。

そこに従者用の館もあり、そこを使うことになっています」


〖 では、その入り口に放り出しておきましょう 〗


「お手数をおかけします」


ハンドくんたちが一斉に動いて、ハンドくんたちが築いた人山ひとやまを一瞬で転移させて片付けました。


「皆さん。お騒がせしました」


スゥたちに向けて頭を下げるロンドベル。

目を丸くして驚いていたスゥたちだったが、すぐに我に返ったスゥが「頭をお上げ下さい。私たちは大丈夫です」と声をかけた。


「なぜ私たちにあたまをさげられたのですか?

私たちは獣人ですよ?」


「ええ。ですが、獣人とはいえ、あなたは護衛でしょう?

他のお2人もヒナルク殿の『共闘仲間』と伺っております。

それに、どのような種族であろうとも『国民のひとり』に違いありません。

そして無礼を働けば、上に立つものとして相手に謝罪するのは当然です」


ロンドベルの言葉に驚いて・・・さくらに視線が集まる。


「エンテュースの神官たちや神官長、警備隊やユリティアのボズや女将のように『獣人だからと言って差別しない』

ただそれだけだ。

・・・いい加減、馴れろ」


さくらが苦笑していると、ロンドベルも彼女たちの事情に気付いたのか「ゆっくりでいいので馴れて下さい」と笑う。

その表情に緊張していた3人も肩の力を抜いて微笑んだ。


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