第295話


〖 さくら。今から『お仕事』をしてもらいたいので『ヒナルク』の姿になってもらえますか? 〗


ここ最近は外へ出かけず、朝からタブレットでゲームをしていたりジグソーパズルをして過ごしている。

そんなさくらに、今朝はハンドくんが『ゲーム禁止』を言い渡した。


「今日1日中?」


〖 そうですね。

まずは身分証の確認。

それで終わると思いますが・・・終わらなければ連中が無能な証明でしょう。

ここまで上がって来るのに足腰が疲れて、階段を踏み外して落ちなければいいですねえ 〗


「あ。ハンドくん、落っことす気だ」


〖 いえいえ。『銀板所持者』相手に一体何を疑うというのでしょうねえ。

そして、従者のスゥにインネンでもつけようものなら、タダで済まされないですねえ。

なにせ、『銀板の従者』は銅板所持者より上の立場ですからねえ。

そんなバカに『何かしらのご不幸』が降りかかっても『仕方がない』でしょうねえ 〗


あ〜。楽しみですね〜。と言いながら、手ぐすね引いて待っているハンドくん。

この階のみ、階段を上がると扉があり、そこから先が私たち専用のフロアだ。

壁と扉に防音機能が掛かっているから音や声は外へ漏れないのに、どうやって入る気だろう?


「スゥたちには教えた?」


〖 はい。すでに警戒中です 〗


あ、『警戒』なんだ。


〖 それはそうでしょう?

彼女たちは獣人です。

そんな彼女たちに『どんな態度を見せるか』という所ですよ 〗


「スゥは銀板所持者の従者だから、下手な態度を取ればアウトだよね」


〖 その時は私たちで押さえつけます。

・・・ああ。来ましたね。

準備はいいですか? 〗


「・・・・・・・・・面倒メンドい」


〖 終わったらスイーツにしましょうね 〗


「・・・・・・頑張る」


ハンドくんに出されたミルクティーに口をつけていると、ドアがノックされてハンドくんが来訪者を招き入れた。






「はじめてお目にかかります『女神に愛されし娘さくら様』。私はロンドベルと申します」


王都から来たという男性は、ドアが開くとすぐに後ろの人たちに指示を出して1人で入ってきた。

そしてドアが閉まるとその場で跪いて頭を下げたまま挨拶をしたのだ。


〖 何故、『女神に愛されし娘』だと分かった 〗


ハンドくんが警戒している・・・?

違うか。『相手が何を考えているのか』を聞き出そうと思っているだけだ。

信頼するに足りる者かどうか。


「今は王城にて軍師として召し上げられましたが、その前は王都内の神殿にて『神聖騎士団』に所属しておりました。

神官の中でも武術に秀でた者が、神殿を守るための自衛に作られたのが神聖騎士団です。

私はその中で策士さくしと呼ばれる作戦を立てる立場におりました。

その策士としての頭脳を見込まれて、王城に軍師として買われました。

・・・あのクソジジイ。

俺を金貨5千枚で売りやがって。

あのブタ親子を肥やすために農村がどれだけ苦しんでいるというんだ。

それで親が死んで孤児になった俺たちを引き取って恩を着せて無理矢理神官にしやがって」


バッコーン!という音が鳴り響き、恨み言を呟き始めた男性が床に顔面をぶつけた。


「・・・ハンドくん?」


〖 大丈夫です。

紙のハリセンで手加減もしました。

・・・正気に戻れましたか? 〗


「は、はい。申し訳ございません。

思わず当時のことを思い出して暴走してしまいました」


額と後頭部を両手で撫でながら謝罪している男性ことロンドベル。

・・・うん。『悪い人じゃない』ね。


『そうですね。ちょっと抜けていますが』


裏もなさそうだね。


『さくらはどう思いますか?』


ハンドくんがいいならいいよ。


〖 ではロンドベルに尋ねます。

『女神に愛されし娘』だと分かって、この先どうするつもりですか?

大々的に公表して王都へ連れて行き王様にでも会わせますか? 〗


「あ、いやいや。

あんな『存在自体無能』な国王なんて、ただの『お目よごし』なだけで、会うだけでけがれてしまいます!」


床に直接座り込んだロンドベルは、大きく息を吐くと「ひとつお伝えします」と言った。


「思い出したくもないでしょうが・・・エンテュースで捕まったジョルトという名の『クソったれ野郎』ですが。

あれは『クズボケ』こと『この国の最大級の恥さらし』こと『最悪の汚物』ジョウイェント国王に目をつけられて王城に閉じ込められた女性の庶子です。

女性が亡くなって城から追い出されましたが・・・気持ち悪いことに『父親に性格も根性もそっくり』です」


「うわー。アレと同じクズが国王なんだ・・・マジキモい」


「はい。嫌になったでしょう?会いたくないでしょう?

それでですね。その『マジキモい』のが、「どんな奴か見てこい」と言ったんです。

それで「役に立ちそうなら無理矢理連れて来い」と言いやがってですねえ。

その時に「一緒にいる獣人は殺してきて構わん」とまで言ったんですよ。

そんなの聞く気はないですが」


〖 では国王になんて伝える気です? 〗


「ああ。『まだ少年でした』と伝えます」


〖 それでは、いま隣の部屋で起きている事件はどうしましょう? 〗


ハンドくんの言葉にロンドベルが勢いよく立ち上がった。


「大丈夫だと思う。

『事件になる前』に鎮圧したんでしょ?」


〖 もちろんです。

そこで、そいつらは必要でしょうか?

いなくなったら誰か困りますか? 〗


「いいえ。私の命令に従えない者は必要ありません。

ご家族も『さくら様に攻撃の意思あり』で罪を犯されて王都を追われるより、行方不明になってもらった方がいいでしょう」


〖 では、今は無傷で解放しましょう。

ただし、彼らは明日の朝には『集団逃亡』して行方不明になっています 〗


「それは上々じょうじょうですね」


なんだろう。

ハンドくんとロンドベルが意気投合してる。



まあ、『悪いことした連中』にはお気の毒ということで。

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