第290話


500枚近い依頼書をさばいたハンドくんは、さらに3つの山に分けて上には『何の素材がいくつ』というリストを書き出した。

そのおかげで、シーナたちのアイテムボックスだけでなく、スゥのアイテムボックス内も、ハンドくんに預けているのも、ほぼ全部が片付いた。

ひときわ大きな山のリストを見たさくらは「ここで出す?」とハンドくんに確認する。


「ご主人。何が書かれているのですか?」


スゥがリストを確認すると、薬草やツノにキバ、魔獣の肉。

一見、普通の依頼と変わらない名前が羅列されていた。

違うのは依頼個数だった。


「薬草に10万本に魔獣の塊肉かたまりにくが・・・3千!?」


スゥが驚くのも仕方がない。

アイテムボックスは最大50個までしか入らない。

いくら纏めたと言っても、個数は異常だった。

依頼書を確認すると、その時点で上限の50個を依頼していた。

・・・これでは通常の冒険者では依頼を受けられない。

滞納するのも仕方がないだろう。

テントなど様々な物もアイテムボックスに入っているのだ。

そのため、ドロップアイテムや素材を入れられるのは40個が限度だろう。

追加で中古の冒険者用アイテムボックスを購入していないと出来ない依頼だ。


「数はいいけど・・・纏めて出すと保管場所とか大丈夫か?」


「はい。ギルドには専用のアイテムボックスがあります。

ここで小分けで出して頂けましたら、アイテムボックスに入れていきますので、個数の確認も保管場所も間違いなく出来ます」


「じゃあ、まず薬草から出そうか。

ハンドくん。お願い」


〖 はい。ではコチラの空いている机に出していきます 〗


「お願いします」


さくらたちの冒険者用アイテムボックスは、サブリーダーで登録しているハンドくんが管理している。

そしてハンドくん専用アイテムボックスもフル稼働している。


ハンドくんから依頼品をすべて預かったバティは、個数を確認するとリストと共に転送した。

数が多いため、ユリティアで確認してもらうためだ。


「申し訳ございませんが、支払いはユリティアで確認後ということで宜しいでしょうか?」


〖 それでかまいません。

私たちはここで数日泊まりますので 〗


「そうそう。

それに今から『横領云々』で忙しくなるだろ」


「はい。お心遣いありがとうございます」


そう言ったバティから部屋の鍵を渡される。


〖 それでは20日間。

3人は瘴気の浄化と勉強に励みなさい 〗


「「「 はい!」」」


無人島で『瘴気の危険性』を知った3人は、定期的に瘴気の浄化をするようになった。

今回、長期休暇をとることになった理由も理解している。


・・・『女怪獣の襲撃回避』ではない。

初めてこの町に来た時、宿で休めず瘴気の浄化が出来なかったからだ。

休むことなくダンジョンに潜りに行った分、瘴気が蓄積されていた。


「ルーナの状態によっては延長になるが・・・その頃には宿屋が開店するだろう」


「すみません・・・ご主人さま」


「いや。仕方がないだろう。

スゥ。シーナ。ルーナを頼むぞ」


「はい。お任せください」


部屋割りは銀板所持者のさくらは最上階。

スゥは従者のため、さくらの隣の部屋。

『部屋が足りない』ことを理由に、シーナとルーナはスゥの部屋を『間借り』することになった。

間借りの代金は一泊銅貨3枚。

ギルドの宿の二人部屋と同じ代金をさくらに支払う。


「それでは、ごゆっくりお過ごし下さい」


「ありがとう」


ハンドくんが鍵を受け取るとスゥに鍵を渡す。

『3人は一緒に行動をとる。そのため鍵はひとつでいい』とハンドくんに伝えたからだ。

スゥが『従者』だということは知られているだろう。

そのため、下手なことはして来ないと思われる。

しかし、どこにでもバカはいる。

3人で行動していれば、少しはトラブル回避ができるだろう。



この宿の最上階のワンフロアすべてが、さくらのように『銀板の冒険者と同行者』が泊まる用に設計されている。

まあ、さくらの場合は銀板用でなくても気にしないが。


〖 今回空いていたのはこの部屋だけです。

『銀板専用だから空いていた』とも言えますが 〗


「銀貨5枚だっけ」


〖 そうです。

その代わり、キッチンも揃っています。

スゥ。あなたたちの部屋にもキッチンはついています。

外で食べたいものがなければ、食材を買ってきて作ることも可能です 〗


「はい。分かりました」


「スゥ。この前作ってくれたスープ、作り方教えて」


「じゃあ、後で買い物に行こうか」


「まずは休憩してからよ。

特にルーナ。私たちの中であなたが一番瘴気の影響を受けているんだからね」


「じゃあ、ルーナ。

部屋で休んでから出かけよう。

もし今日行けなくても、明日でも明後日でも行けるよ」


「そうだね」



3人はちゃんと考えて行動が取れるようになっているようです。

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