第281話


途中で『ちょっとした』トラブルがあったさくらは、今度は冒険者ギルドに顔を出した。

先にスゥたちが宿の空室を確認して予約してくれたため、急ぐ必要はない。

この町に来るまでに見つけた薬草や、倒した魔獣の肉や牙などの素材を売るためだ。

『依頼書』を確認すると、薬草や素材で依頼が出てるのがあったため、その依頼書をビッピッピッと掲示板から剥がしてカウンターへ持っていく。

パーティの場合、誰かが代表でギルド証を渡せば、パーティ全員に同じ記録が残る。

そのため、私がギルド証を提示する。

それだけでハンドくんのギルド証にも記録が追加される。

先に来て待っていたスゥとルーナたちも、同じように掲示板から依頼書を剥がして私の後ろへと回る。


此方こちらの依頼を受けます」


「すでに素材はお揃いですか?」


「はい」



そう言った途端に、受付嬢が「きゃー!」と大声を出した。

・・・ウザい。


「いつの間に『未発見の迷宮』をこんなに踏破したんですか!」


ハイテンションになっている受付嬢の大声で、他の職員もワラワラと集まってきて、私のギルド証を確認している。

・・・何、勝手に『迷宮記録』の詳細を開いてるんだよ。

ギルド職員の規則に、『本人の許可がなければ、各項目の詳細を見ることは出来ない』ってルールがあるだろーが。


「えー?ギルド証発行したの『最近』ですよ」


「ちょっと!たった短期間こんだけで、どれだけの迷宮制覇とか『巣の殲滅』をしてるんだよ!」


「ギルド証か鑑定石がおかしくなってんじゃねーのか?」


職員連中の騒ぎに、ギルド内にいた冒険者たちも遠巻きに集まってくる。

『遠巻き』なのは、シーナが周囲に『睨み』と『凄み』を効かせたからだ。


「おい!『何処に迷宮があった』か教えろ!」


「・・・さっきから、オレが黙ってれば好き勝手言いやがって。巫山戯ふざけんじゃねーよ」


私のいかりを含んだ声音こわねに、ギルド内がシンと静まり返る。


「ギルドは、何時いつから他人ひとの『個人情報』を許可なく漁り、大声で公開するようになったんだ?

それに何だ?『迷宮の場所を教えろ』って命令しやがって。

お前らは信用出来ん。とっとと『ギルド証』返せ」


私が手を出すと、受付嬢が慌てて私のギルド証を掴んで返却を拒否した。

他の連中は、カウンターに乗せていた薬草や素材を『カウンターの向こう』へ隠した。


「窃盗・横領の現行犯」


言葉と共に、受付嬢の手の中にあった『私のギルド証』を『引き寄せおいで』魔法で取り返す。

受付嬢が慌ててカウンター越しから掴みかかろうとしたが、「ドロボーが」と睨みつけるとビクッと身体を大きく震わせた。

私の出していた薬草や素材は、もちろんハンドくんたちが回収済み。

連中は『レア素材』を失いたくなかったんだろうね。

でも『依頼品』なんだから、ギルドの物にならないのに。


『ギルドが『用意した』として、依頼人から報酬を『横領』する気だったのでしょう。

あの報酬は『金貨1枚』でしたから』


うわっ!あっくどーい。


カウンターに近い職員が、消えた素材に気付いたのか、慌てて周囲を探している。

残念だけど、ハンドくんが『ハンドくん専用のアイテムボックス』にフォルダを作って、取り返した素材をすべて移しちゃったからないよ。




「何を騒いでいる」


『ギルド証』も回収出来たし、このままギルドから出ようと思ったら、奥の部屋からちょっとガタイのいい男性が出てきた。

・・・なんだ?コイツ。


『此処の『ギルドマスター』ですね』


・・・ねぇ。ハンドくん。


『もう済んでいます』


・・・さすがハンドくんだね。

でも『ギルド』の方はどうしよう。

なくなると『みんなが困る』よね。


『そちらもすでに手配済みです。

何も知らないギルドよりは良いと思い、『ユリティア』のギルドに事情を説明しました。

3日もあれば着くそうですよ』



私とハンドくんがチャットで話している間、ギルドマスターは職員たちの『保身に走った言い訳』をウンウンと聞いていた。

・・・お前らの誰か一人でも、そこにある『鑑定石』に触れてみな。

賞罰欄に『銀板に無礼を働いた』って出るから。

『虚偽』の罪状が『もれなく全員』についていってるけどね。

だって、ギルドマスターに『ウソ』を言ってるイコール『銀板に罪を着せている』んだもん。

銀板への無礼は『申告制』じゃないんだよ?

・・・あの人たち。どんどん『罪状』が増えていってるよ。


なんで『冒険者』イコール『銅板か無板』と思うのかなー?

銀板でも、旅をするならギルドに入るよね〜?


『自分を『判断基準』にしているからでしょうね』


・・・私のせいで『罪人』が増えていく。


『今まで隠れて不正を働いていた連中が『正当な罰』を受けているだけです。

さくらが『銀板』のため、今まで『証明』出来ずに揉み消されていった・・・表に出なかった『犯罪』が暴かれているのです』


いやー良かった。良かった。と、手を叩いて喜ぶハンドくんたち。

・・・『良かった』の?


『ユリティアの『ボズ』を忘れましたか?

『正しいこと』をしたのに、不正が蔓延していたせいで『批判』されて苦しめられたのですよ。

それを、さくらがエンテュースで『正しいこと』をしたため、それが伝わったユリティアでも『考え』が変わり、ボズは救われました。

さくらが『正しいこと』をすれば、それが他の町や村に広がります。

今まで苦しめられていた人たちが、救われるのです。

ほ〜ら。『良かった』でしょう?』


・・・あれ?ホントだ。


さくらはすっかりハンドくんの言葉を信じている。

そんな話をしていたら、彼方アチラの『話し合い』も終わったようだ。


「この者たちの話だと、キミは『新しい迷宮』の場所をタダでは教えないと脅したらしいな」


うっわー。私の嫌いな『上から目線』。

はい。『悪いヤツ』確定。


「なに寝惚けたことを言っているのですか?

寝言ならベッドで寝てる時に言いな。

「起きてる」というならお前が言ってるのは妄言もうげんだ」


私の言葉に、ギルドマスターはピクリと顔が引きつったよ。

自分が間違ったことを言っている自覚はあるみたいだね。


「そもそもの『問題』をすり替えないでください。

オレの『個人情報』を大声で公開し、『新しい迷宮の場所を教えろ』と怒鳴りつける。

挙げ句の果てに『ギルド証の返却』を求めたら、そこの受付嬢が『窃盗』。

ついでにそこのカウンターに乗ってる『依頼書』に書かれた薬草や素材をカウンターに出していたけど、それも『横領』・・・しましたよねぇ?

そんな、常識もない。口も軽い。

『力ずくで脅せば言うことをきく』なんて思っている非常識なキチガイ連中に誰が何を話すのですか?。

それに『新発見の迷宮の場所を、逐一ギルドに報告しないといけない』という規則はありません。

無礼を働いて、『脅迫』や『恐喝』、『窃盗』に『横領』をする相手に払う礼儀など持ち合わしていません」



私の言葉に驚いたギルドマスターが職員たちを振り返るが、誰ひとり、目を合わせようとしない。

その時点で『私の言葉が真実』だと気付いたようだ。

遠巻きにして見ていた冒険者たちからも、口々に話が漏れ聞こえる。


「俺たちの情報も公開されているんじゃないか?」


「そう言えば、俺、「ここの迷宮に行ったのなら珍しい素材ありましたよね」って言われたぜ。

すでに別の町で売却済みだったけどさー。

半年たった今でもグチグチ文句言われるぜ」


冒険者たちも『今までもおかしな言動があった』ことを口にする。


「カウンターに乗せていたレア素材とか『隠してた』よな」


「ギルド証は取り返してたけど、素材とかはまだ『カウンターの中』だよな」


彼らはさくらの事も口々に証言し出す。


「相手が『子ども』だから『脅せば言うことを聞く』と思ったんだろ」


「ギルドマスターが現れなかったら、『暴力』で聞き出してたよな」


さすが冒険者。

ギルドの職員たちを見てきたからか、的確に指摘している人もいた。

そのうち、「おい!『獣人3人を連れている冒険者』って・・・」と声があがったが、そのあとは小さな声で『ごにょごにょごにょ』「えぇっ!」『ごにょごにょごにょ』「マジかよ・・・」という言葉が広がった。


みんな『人気者』なんだねー。


『『さくらも』ですよ』


私の名前、出てないよ。


『直接、名前を出していないだけですよ』


周りの様子に、自分たちの方が『立場が悪い』ことに気付いたようだ。


「とりあえず『奥の部屋』へ・・・」


「イヤです」


拒否したら、ムカついたようで睨みつけてきた。


「うわっっ!コッエー!殺意乗せて睨んできたよ」


「い、いえ!そのようなことは決して・・・」


「『他者の目』が気になるのは『ギルド側』であって、オレたちは『何も悪くない』から気にならない。

それに『他者の目』がなければ、暴力で『解決』しようとするだろう?

その目論見が外れたから殺意を向けたんだろ?」


ギルドマスターはひと言も反論しなかった。

ただ周囲の冒険者たちからは冷ややかな視線を受けて、冷や汗で身動きが出来なくなっている。



ギルドマスターが『睨んできた』のだから、そうする気はあったと思われる。

・・・まあ。『そんなこと』になっても、『ユリティアの悪夢ふたたび』か、強制参加の『飛距離選手権城壁外ホームラン』だよね。


『この人たちは、『迷宮の場所』を知りたがっていたから、『着の身着のまま』で迷宮の中に転移飛ばしたら、泣いて喜んでくれますね』


あ!そうしたら『迷宮の場所』も知ることが出来たし、『攻略』も出来るし、『ボス戦』に勝てば『迷宮踏破』も出来るよね。


『失敗したなー』と純粋に残念がるさくらはきっと気付いていない。

ハンドくんたちが『着の身着のまま』で送る『理由』を・・・


職員は『お仕着せ』を着ている。

そんな彼らは『装備品』はおろか、『冒険に最低限必要なもの』も持っていないのだ。

アイテムボックスなんて高価なものは持っていない。

そんなもの着けていれば『横領し放題』だ。

そしてここは珍しく、冒険者の経験がない者たちがギルドの職員として働いている。



そんな着の身着のまま状態で迷宮に送られれば、攻略どころか1日も生き残れない。

たとえ『職員全員』が揃っていたとしても。

それに『さくらたち以外』に存在が知られていない迷宮。

それも、すでに『制覇済み』した迷宮なら、さくらたちが『ふたたび訪れる』可能性ははるかに低い。

ハンドくんたちは『本人たちの望み通り迷宮に送った』だけで罪は問われないだろう。

もちろん、罪を問われたとしても、創造神たちがハンドくんを『有罪』にすることはない。

ハンドくんたちの『主人』であるさくらが罪を問われても、『有罪』にすることは天地がひっくり返ってもありえない。


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