第278話
「シーナ。アレがそう?」
「はい。そうです」
さくらの愛車で街道を走っていると、先の道がふた手に分かれていた。
その手前で車を止めて全員で歩いて近付く。
左右に分かれた矢印には『エバステン』と『ギルモア』とある。
以前、ここまで来たもののどちらが『正しい道』か分からず引き返したのだ。
「ねえ、ハンドくん。
地図には『ギルモア』って町も村もないよね?」
〖 ありませんよ。
あるのは『犯罪者たちのアジトの
「もぬけの殻?マヌケの抜け殻?」
〖 どちらかと言えば『マヌケ』ですね。
捕まった仲間が口を割る前に消してしまおうとして、警備隊の待ち伏せにあって一網打尽になりましたから 〗
「人はそれを『おマヌケ』という。
というより、こうやって『悪党のアジトはコチラ』なんて看板出している時点でバカ丸出しだよね〜」
「ご主人さま?それはどういうことですか?」
「ん?ルーナは分からない?」
さくらに聞かれても、何のことか分からないルーナ。
「じゃあ。悪い人がいて『悪い人の家はコチラ』と看板が出ていたらどうする?」
「近付きません!」
「私は警備隊に報告します」
ルーナの即答に続いてシーナも答える。
「スゥだったらどうする?」
「確認のため近くまで行きます。
その際、危険察知と気配察知を使います。
アジトが本当にあるなら、危険察知で分かるはずです」
〖 残念ながら、3人の中で一番正しいのはシーナです。
スゥ。もしアジトに『
魔導具を装備している場合も考えられます。
さらにアジト周辺に気配察知の魔導具を設置していれば、スゥは簡単に捕まっていますね 〗
ハンドくんの言葉に、ルーナが離れないように隣に立つスゥにしがみつく。
「ハンドくん。『今はもうだれも』いない?」
〖 はい。設置された魔導具もそのままです。
行ってみましょうか 〗
「そうだね。
3人は、どこにどんな魔導具が設置されているか観察してみるといいよ。
・・・で、ハンドくん。
この立て看板は取り外した方がいい?」
〖 そうですね。片付けてしまいましょう 〗
そう言うと、ハンドくんはヒョイと引っこ抜いてアイテムボックスに片付けた。
「あれ?破壊しないの?」
〖 破壊してそこら辺に投げ捨ててしまったら、『興味を持った無鉄砲な誰かさん』が行ってしまうでしょう? 〗
「そうだね。何も知らない人が行っちゃったら危ないよね」
ハンドくんは
もちろんハンドくんたちは調査済み。
放置されていた武器や防具、魔導具やお宝の数々はハンドくんが回収済み。
それは神々も承諾済み。
あっさり許可された理由は、すべてをジタンやドリトスたちに渡すつもりだったからだ。
それらは、使っていない無人島のひとつに置かれている。
どんな経緯でハンドくんが手に入れたか聞いたヨルクは「ヒナリにも調査に加わってもらおう」と言い出した。
「ヒナリは前より責任を持って行動してる。
植物の研究も、オレとは違う観点で意見を言ってくる。
オレは『瘴気の研究』から意見を言うが、ヒナリは『植物そのもの』から意見を言ってる。
ヒナリは植物の個性や特性を研究しているんだ。
・・・だから大丈夫。
それに、調査はハンドくんが必ず一緒で『ヒナリひとり』にならないだろ?」
「そうだな。ヒナリも『さくらの家族』だ。
それに武器は主にドリトスの管轄だからな。
危険は少ないだろう。
ヒナリにはアクセサリーを主に担当してもらおうか」
「オレとジタンは魔導具やアイテムを受け持つ。セルヴァンはドリトス様と一緒に武器と防具を頼む。
オレたち3人は、そっちの分野はあまり知識がないからな」
「分かった。・・・ハンドくんたちも協力してもらえるか?」
〖 分かりました。ですが気をつけて下さい。
触っただけで起動したり・・・ 〗
「おい。大丈夫なのか」
〖 死ぬことはありません。
防犯機能のため、大音量が鳴ったり。
睡眠薬の混じった煙が噴射されたり・・・ 〗
「ホントーに大丈夫なのか?」
〖 ほとんどは魔導具やアイテムのことです。
ヒナリの方は・・・まあ『なんとかなる』でしょう 〗
「おい!」
〖 アクセサリーは『使用者の身を守る』機能がついています。
・・・つまり起動すれば『そばにいるヨルク』が風魔法で切り刻まれたり、みじん切りにされますね 〗
「オレ限定かよ!」
〖 何を言っているんです?
ここへヒナリひとりで来させるつもりですか? 〗
「ああ。大抵の場合、ヒナリと一緒にヨルクも来るな」
「・・・そう言うことか」
〖 ・・・まあ、『そういうこと』にしておきましょう 〗
「おい!」
〖 そう言えばリーダーからの伝言です。
『そこに置いてあるすべては、後ほど家を送るからその中も自由に調査してヨルクは吹っ飛んでくれればいい』だそうです 〗
「ちょっと待て!
何でオレが『吹っ飛ぶ』んだ!」
「・・・つまり、『家に仕掛けが眠っている』ということだな」
直後に島の中央に現れた大きな二階建ての家。
ヨルクが玄関を開けようとしてノブを握ると『ぽーん』と空中へ吹き飛んだ。
すぐに背中から羽根を出して勢いを弱めたため、5メートル弾き飛ばされただけで済んだ。
〖 この扉は『登録していない者が触れると吹き飛ばされる』という防犯機能が付いていました 〗
「先に言え!」
〖 先に言ってしまったら『面白くない』じゃないですか 〗
「ちょっと待てー!
白手袋に右手!」
「ハンドくん。さくらは?」
〖 今は車で移動中です。
もちろんすぐ戻ります。
こんな『面白そうなこと』は、直接見ないとツマラナイじゃないですか 〗
「そんな
スッパーンッという音をヨルクの後頭部で響かせたハンドくんは、大切なさくらのそばへと戻って行った。
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