第268話
気絶したシーナに張られた結界に縋り付いていたスゥとルーナだったが、ヨルクがセルヴァンを引っ張って近付くと気配に気付いたスゥが青褪めた顔のまま振り向いて立ち上がった。
それに気付いたルーナも泣き顔で立ち上がる。
「座って話そう。
・・・何があったか説明してくれるか?」
ヨルクの言葉にルーナは涙を腕で拭いて、まっすぐにヨルクを見た。
「シーナは、ご主人さまとの模擬戦に負けました。
その時にご主人さまが差し出した手を握ることを拒否しました。
・・・ご主人さまが礼を言っても、シーナはご主人さまに礼を返しませんでした。
師範はその礼を欠いた行動に怒っていました。
ですが、ご主人さまが師範に抱きついたため、師範はその場で叱る事はしませんでした」
「師範がご主人を別荘に送って行かれたあと、師匠に許可を得て私たちがシーナを責めました。
模擬戦でご主人が『何を教えていた』のか。
私は攻撃の際に目の前の対象に集中してしまうため、周囲の注意が
「私は攻撃したあと、次の攻撃に移るのが遅い。
身体がついていけないから、その隙を襲われやすい。
ご主人さまは私たちの気付かない『悪いクセ』も教えてくれました。
私は攻撃の時に大きく腕を振ったりという『無駄な動きが多い』と・・・模擬戦で教わったのです」
スゥとルーナは『正しく』判断出来ている。
それなら、シーナはどうなんだ?
〖 彼女たちとは違い、シーナは判断出来ていません。
模擬戦開始後、1分もしないで倒れました。
ヨルクなら知っているでしょう。
さくらの小さな『けりっ』を 〗
「・・・ああ。足が動けるようにリハビリしてた時のアレか」
そう。足のリハビリでさくらはボールを蹴っていた。
それが残っていたのか、ヨルクがそばを通る時に蹴っていたのだ。
足を動かす練習のため、足はほとんど届かなかったが、数十回に一回、ヨルクに足が届いてさくらは喜んでいた。
ヨルクは、わざと『ギリギリ足が届く位置』を通っていたのだ。
そして、さくらの前に背中を向けて座り、さくらに蹴ってもらっていた。
背中に当たる弱い『けりっ』が気持ちよく、さくらも『目標』があるためボールを蹴るより喜んでいた。
そのうち、ドリトスやセルヴァンも背中を蹴ってもらっていた。
スゥとルーナは『足が動けるようにリハビリしてた』と聞いて驚いた。
しかし、以前『病気で寝たり起きたりしていた』と聞いていたため、そのせいで身体を動かすことも出来なかったのだと自分たちで答えを導き出していた。
「じゃあ。シーナは『足に問題あり』と言うことか」
「はい。ですが、シーナは認めませんでした。
ご主人さまに四方八方から攻撃を受けていたために、その場から一歩も動けなくされました。
そして、それまで攻撃してなかった足を蹴られて、バランスを崩して倒れたのです。
それをご主人さまが『卑怯な手を使った』と恨んで礼を欠いたのです」
〖 さくらは『シーナは負けて悔しいんだよ』と言って気にしていません。
さくら自身も、『何故あそこまで足を動かそうとしなかったのか分からない』と言っています。
本来、攻撃する時は動きやすいように足を前後左右に開きます。
ですが、シーナは『ほぼ直立不動』でした。
ちょうど、大人が小さな子供を相手にしているように 〗
「ああ。それは俺も気になった。
しかし、さくら自身は楽しそうにしていた。
まるで『子供が大人に遊んで貰っている』ようだった。
ただ・・・あの小さく弱い蹴りでバランスが崩れるとは思わなかったが」
「私たちも、シーナが下半身の特訓をしていなかったことに驚きました」
〖 彼女の武器は槍です。
私たちが指導していた時は、ちゃんと下半身の強化もしていました。
しかし、私たちの指導を受けなくなり下半身の強化を怠ったのでしょう。
元々「槍に下半身の強化は必要がない」という意見でしたから 〗
「ハンドくん。シーナの槍は?」
〖 『木の槍』です。
そうそう。以前、シーナに『鋼の槍』を持たせた時・・・あの時からさくらを『小馬鹿』にしていましたね。
その頃から『さくらをバカにしていた』という訳ですね 〗
「ハンドくん?
その『鋼の槍』ってどんなヤツだ?」
〖 さくらが、巻き込まれた『装備屋』のトラブルを最小限で済ませ、さらに『店の乗っ取り』を未然に防ぎ、店主の身を守りました。
その礼として大量に贈られた武器のひとつです 〗
「ちょっと待てー!
何、さらっと『大変なこと』を言ってるんだよ。
何なんだよ。『さくらがトラブルに巻き込まれた』って!」
〖 大丈夫です。
さくらがスリ団に気付いて魔法でスられた財布を取り返し、さくら曰く『三段の串団子』に落とし物として渡しました。
それは従業員の給料だったらしく、大変感謝して『礼をしたい』と言われたが断り、近くにいた警備隊を呼んで店まで護衛させました。
露店を見て回っていた時に入ったのが装備屋。
そこで『さくらの上着』を見つけました。
そしてその店が『串団子』の店でした。
さくらの肩掛けが珍しかったらしく、『いくらでもカネを出すから譲ってくれ』と言われました 〗
「アレはオレの羽衣を陽の光に弱いさくらのために譲ったんだぞ!」
〖 はい。その串団子ことザーニも商人魂が
さくらが「父から譲られた物だ」と言ったら、謝罪されました 〗
それまで
〖 その時はそれで終わりましたが、そのやりとりを見た従業員のひとりが、さくらの羽衣を奪おうとしました。
さくらが店の商品を盗んだと警備隊に通報したのです。
その時、さくらは武器屋にいました。
警備隊員が話を聞きにきましたが、『訴えがあったから』という理由で来ただけで、決して疑った訳ではありません。
その前に、店の周囲でスリ団が集まっていたため、警備隊に『不審な子供たちがいる』と通報してましたから。
さくらもそれが分かっていたから、誤解を解くためにザーニの店へ戻りました。
そこで、ザーニは『自分が肩掛けを欲しがったことで警備隊に訴えられた』と思ったようです。
ですが、さくらを訴えた従業員がウソツキで『この騒動の原因だ』と教えたら、すぐにその従業員は問い詰められ自白魔法をかけたらアッサリ自白して捕まえられました。
その従業員がスリ団の一味で、周囲に集まった子供たちがスリの実行犯だと警備隊の隊長に話したら『捕縛の嵐』でした。
取り逃がした連中は私以外の
その感謝と謝罪、そして『武器屋の店主』が幼馴染みということで『アレもこれも』と競って選んだ結果、大量の武器がさくらに送られました。
のちに、スリ団を取り仕切っていた貴族がザーニの店の乗っ取りを計画してたのも判明したので、それも含めた結果、見合った『等価交換』となりました。
『鋼の槍』はその時に貰った『普通の武器』のひとつです 〗
「・・・『普通じゃない武器』もあるのか?」
〖 普通に売ってる『レアな武器』や、一部の店なら普通に売ってる『超レアな武器』や、普通の店では売られていない『超絶レアな武器』や、オークションでも滅多に出ない、まず普通の店では売られるはずのない『逸品』が 〗
「それは・・・大丈夫なのか?」
〖 既に全品点検済みです。
この無人島でさくら自身に試させました。
その上で、私のアイテムボックスにしまってあります。
さくらには自分の武器以外には『レア以下の武器』しか持たせていません 〗
「ああ。オレが恐竜島に調査に行けなかったり、セルヴァンやドリトスが魔法の研究で
〖 はい。さくらには『どんな武器か』を確認してもらい、『レア以上は間違って使うと危ない』と分かってもらいました。
ドリトスと相談し『本当に危険な武器』はドリトスに預けてあります 〗
さくらなら、『一度試したら気が済む』だろう。
その上で『これは危ない物』と分かれば、ハンドくんが〖 預かります 〗と言えば納得するだろう。
ハンドくんがちゃんと武器に詳しいドリトスと相談していたことにも驚いた。
さくらの冒険旅行の後ろで、安全のために色々な人たちや神々が動いているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。