第267話


無人島での特訓を理由に、瘴気で弱ったさくらの身体を回復始めてすでに10日。

さくらの身体は、ほぼ完全に回復していたが、スゥたちの特訓が続いていた。


「セルヴァンは〜?」


〖 お昼に戻ります 〗


「スゥたちは〜?」


〖 まだ怒気を自由に扱えないため『無人島生活』続行ですね 〗


「仕方がないわ。

セルヴァン様が教えてくれたでしょ?

『怒気を上手く扱えないと、自我を失って憤死する』って」


「・・・・・・どの口が言うんだか」


「だあれの話よ」


そ〜ぞ〜し〜ん


「「え?!」」


笑って言うさくらに驚くヨルクとヒナリ。


〖 そうですねえ。

あの『アストラムの天罰騒動』は、ただ我を忘れた創造神がブチ切れただけです 〗


「あん時にいっぱい『記念写真』撮ったんだよね〜」


〖 ちゃんとプリントアウトして部屋や牢の壁に貼り付けてあげましたよ。

今は『移転した研究所』のアチコチに飾ってあります 〗


「あー!あれはハンドくんの仕業かー!」


ハンドくんの言葉に声を上げるヨルク。

ヨルクの話だと、ジタンの視察前に下見に行ったそうだ。

その時に『みっともない姿のエルフ』の写真が壁や扉に貼り付けられていたらしい。


〖 ステキな写真だったでしょう?

あれは、自分たちエルフ族の『現在いま置かれている現状』が誰のせいかを分からせるためです。

二度と逆恨みでさくらを襲わないように。

もちろん『次』はありません。

全一族を『生きたまま』下層大陸に叩き落とします 〗


「ハンドくん。

『大陸間飛距離コンテスト』するの?」


〖 それは面白いですね 〗


「『面白い』でやるな!」


〖 『さくらが楽しそう』で十分じゃないですか。

それに何ごとも『試し撃ち』は必要ですよね〜 〗


するなすな〜〜!!」


ハンドくんとヨルクの会話を楽しんでいたさくらを、ヒナリが背後から抱きしめる。


「もうすぐ、さくらはまた『冒険』に行くんでしょ」


「・・・うん」


「だから、今は楽しみましょ」


「今日は恐竜島で遊ぶの?」


「そうね・・・くだもの狩りをしましょうか」


〖 ヨルクは『瘴気の研究』と『瘴気の研究』と『瘴気の研究』のどれがいいですか? 〗


「ちょっと待て!

どれも『瘴気の研究』じゃないかー!」


〖 違いますよ。

『瘴気と植物の研究』と『瘴気と影響の研究』と『瘴気と大地の研究』です 〗


最初は『魔獣島』の研究、最後は『御用牧場』の研究。

ヨルクにもそれは分かった。

しかし、2番目が分からなかった。

わざわざ『影響』とつけていると言うことは、『さくらに聞かせたくない』のだろう。


「・・・ハンドくん的にはどれがオススメだ?」


〖 そうですねー。2番目でしょうか 〗


やはりハンドくんは2番目をやらせたいのだろう。

ヨルクは大きく息を吐いて「じゃあ2番目」と答える。


〖 はい。ではさくらはヒナリと『恐竜島』。

ヨルクは『瘴気の研究』・・・と言うことで 〗


「はーい。行ってきま〜す」


「ヒナリ。さくらを頼むぞ」


「分かったわ」


ヒナリにも、ハンドくんがヨルクに何か調べさせたいのだと気付いたようで真面目な表情で頷いて、さくらの後を追いかけて行った。



「で?オレに調べさせたい事はなんだ?」


〖 ・・・スゥたち。いえ『シーナ』のことです。

瘴気を溜め込んでいるのか。

さくらに対し『攻撃的な態度』を繰り返します 〗


「セルヴァンが『怒気の鍛錬』をさせた時か?」


〖 いえ。『彼女たちの大陸』にいた頃からです。

最近は特にひどく、敵視するようになりました。

そして、先日。さくらとの模擬戦でシーナは負けました。

あの時、セルヴァンにさくらを別荘ココへ連れて行ってもらってから、ルーナとスゥから責められました。

それに対しショックを受けていましたが、さくらへの憎悪を募らせています。

・・・あの日から、さくらへの嫉妬ではなく憎悪が膨らんでいるのです 〗


「それは確かに『瘴気の影響』もありそうだな。

それでセルヴァンは?」


〖 ・・・実際に見れば分かるでしょう 〗


「・・・分かった」



ヨルクが了承すると、セルヴァンたちのいる無人島に転移していた。

ドス黒いモヤの中にいた。

完全に空気がよどんでいる証拠だ。


「おい、セルヴァン!」


「・・・ヨルクか。何しに来た」


「『何しに』じゃねえよ!

何なんだよ!この『空気の悪さ』は!」


ヨルクが浄化魔法クリーンを繰り返し掛けるが、すぐに空気が澱んでしまう。


「ハンドくん!オレだけじゃ無理だ!

神に頼んで貰えるか!」


「無理だ。ヨルク。

『原因』が瘴気を放出し続けている」


「・・・それは『シーナ』か」


「ハンドくんに聞いたのか?」


「オレが聞いたのは『シーナがさくらに憎悪を募らせている』ということだ。

それで『瘴気の影響があるか調べてくれ』と言われた。

ハンドくんの話では、以前から様子がおかしかったらしい」


「以前から・・・そうか。そうだったのか」


「ハンドくん。シーナを寝かせて結界を張ってくれ。

『原因』を閉じ込めれば何とかなるだろ」


〖 スゥとルーナはどうします? 〗


「シーナから離してくれ。

閉じ込めるのはシーナだけでいい」


ヨルクが指示すると、ドンッと大きな音が響くと同時に白色の光が見えた。

・・・ハンドくんの結界の色だ。


ヨルクがクリーン魔法を使うと、金色の光が無人島全体に広がり、一瞬で浄化された。

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