第236話
宿に戻ったさくらは、部屋でスゥにテントと寝袋を渡す。
この大陸で使われている『結界石』も8個渡す。
キッチンも購入したスゥは、自分で料理出来るようになるつもりらしい。
共闘で行動を共にしても、食事やテントなどはもちろん別になる。
「別に今まで通り一緒でもいいよ」
「師匠がいる今だから、ひとりで出来ることや分かっていないことを知りたいです」
パーティと共闘では、今まで通り一緒に行動するが、様々なところで違っている。
さくらがスゥに『一緒でいい』といったのは、スゥが護衛のためだ。
以前、シーナは『食事を好きに選ばせてくれる』『屋台を自由に散策させてくれる』ことに恐縮していた。
しかし、『従者』の彼女たちの食事や宿泊場所を与えるのは『契約』なのだ。
それをしない場合、賃金が払われる。
ダンジョンの外に捨てられて、『従者失格』になるまでの24時間。
それがシーナたちに与えられた『銀貨』だった。
ただ、スゥがなった『護衛』は食事などとは別に賃金として銀貨1枚が支払われる。
食事も、護衛なら貰った賃金で好きに食べられる。
そのため、食事代が賃金上乗せで支払われることになる。
「ご主人。師匠。一度ダンジョンで『正しい共闘関係』を教えて下さい。
どこまでが許されて、どこで線引きされるのか。
それを知らなければ、私は『図々しい』『馴れ馴れしい』と陰口を叩かれるだけです」
〖 分かりました。
今度行くダンジョンで、完全な線引きを試してみましょう。
ですが、指導は続けますし、ご主人も私も前線に出て戦います。
戦闘には『分担』があります。
まずは右翼左翼に分かれて戦う方法です。
魔法攻撃の際に注意することも、実戦で覚えていきますよ 〗
「はい!お願いします!」
ユリティアに戻って3日目。
今日はスゥの希望で初心者用ダンジョンへ向かうことになった。
攻撃魔法メインで挑戦するためだ。
「ん〜?ハンドくん。私は『おやすみ』?」
〖 当たり前です。
ダンジョンを崩すつもりですか? 〗
「・・・ハンドくんもじゃん」
〖 そうですよ。
今日の目的はスゥの魔法を練習するためです 〗
「あ、あの。ご主人、すみません」
〖 いいんです。
このワガママご主人は『思いっきり魔法をぶっ放したい』だけですから 〗
ハンドくんの言葉にスゥの表情が固まる。
以前見せてもらった魔法は・・・すでに『災害クラス』だった。
そしてハンドくんは言わない。
今日はドリトスとセルヴァンが無人島を使っていることを。
そのため、ハンドくんの『無重力空間』にさくらを閉じ込め、プカプカふわふわと楽しんださくらは、そのまま眠ってダンジョンを2つクリアしたのだった。
「ご主人、寝てますー」
〖 スゥも体験してみなさい 〗
「えっ?あっ!師匠!」
スゥは初めての『無重力空間』を10分間体験して、これが『全身運動』だと理解した。
〖 どうでした? 〗
「身体のバランスを保つのがとても大変です!
それに『まっすぐ立とう』として足を踏みしめようとしても、地面がないためチカラを入れれば入れるほど引っくり返って逆さまになってしまい立っていられません。
ご主人みたいに座ってみようとしても、『何もない』ため身体が安定しません」
〖 身体で一番重いのはどこかわかりますか? 〗
ハンドくんの質問にスゥは手足をジッと見たり、身体を捻ってみたりしても答えが出ない。
「スゥー」
目を覚ましたさくらがスゥに『おいでおいで』と手招きをする。
呼ばれて近寄ったスゥの頭を撫でながら、「いーっぱいお勉強してるから、知識がいーっぱい詰まって『おもーく』なってるね〜」と笑う。
「・・・え?ご主人・・・?え?あっ!
師匠。もしかして一番重いのは『アタマ』ですか?」
〖 はい。正確です。
スゥは何とか『頭を上』にもっていこうとするから、
もう一度入れるので、ご主人みたいに『だらけ』てみなさい 〗
ハンドくんに無重力空間に入れられて、今度は座ってみる。
バランスを崩して背中側へと倒れるが、そのまま大の字になってみる。
「あれ?感覚がおかしい・・・?」
〖 此処は『無重力空間』です。
上も下もありません。
『逆さま』というのは周囲が見えるからです。
今度は周囲が見えないようにしますから、気にしないで動いてみなさい 〗
担当のハンドくんに無重力空間の周りが目隠しされると、今度は立ち上がる。
ふらついた気がしたが、やはり『立っている感覚』も残っている。
猫種のため、感覚は良い方なのだが、不思議な感覚に身体が慣れるのに時間が掛かっていた。
その頃、スゥから見えなくなっていたさくらとハンドくんは・・・
「だらけ〜〜〜」
〖 ・・・それ以上『だらけ』てどうするのです? 〗
「さらにだ〜ら〜け〜〜〜」
〖 私のかわいいさくらちゃ〜ん 〗
「は〜い♪」
ハンドくんの呼びかけに、笑顔で手を上げるさくら。
〖 甘えんぼのかわいいさくらちゃ〜ん 〗
「は〜い♪♪」
さくらの頭も頬も愛しく撫で回す、左右のハンドくんたち。
「きゃ〜!」
満面の笑みで喜ぶさくらに、ハンドくんたちはさらなる愛しさを募らせていた。
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