第232話


一日かけて話し合いをする予定だったのが、スゥから『これ以上の話し合いは必要なし』との意思を確認したため、シーナとルーナの姉妹は『別行動』か決定した。

ハンドくんが事前に手配したため、2人をユリティアのギルドへ連れて行って手続きを確認したハンドくんは、銀貨3枚を渡してそのまま戻ってきたそうだ。


〖 もうひとりとレベルに差が出来てしまい、一緒に行動するには無理な状況になったため、パーティを分けます 〗


そう言って来たのは『最後のお情け』だ。

別行動する2人が『必要以上の非難』を受けないようにするためだ。

ただ、実際に2人はレベルと実力が伴わない。

スゥのように『実戦で上げた』のではなく、『パーティボーナス』でスゥが倒した魔物の経験値を分けてもらい、レベルが上がっているだけだ。

実戦に参加していても、トドメを刺せたのはシーナは10体に1体。ルーナに至っては5体にも満たない。

決して、短剣ではトドメが刺せない訳ではない。

それはスゥの武器も短剣だったからだ。

傷つけるだけでも経験値が貰えるのだから、トドメを刺せなくても強くはなれたはずだった。

しかし、途中からルーナは『逃げ回る』ようになり、シーナはルーナを庇って動かなくなった。

・・・そりゃあ、トドメを刺せるのはスゥだけになるし、実力もレベルも上がるよね〜。


〖 それに甘えて何もせず、鍛錬すら自主的にしなくなりました 〗


「武器の熟練度で強くなるって教えたはずなんだけど・・・。

別の言い方をすれば、武器を強くすれば、レベルが低くても一撃で倒せるってことなんだけど。

それも教えたよね〜?」


〖 教えましたね。それも何度も。

それを覚えているか否かは、本人たちの『ヤる気があるか否か』ですね 〗


「まあ、あの2人は武器を新しいのにしたからね。

熟練度はリセットされたし、強化は鍛冶屋にお金を出してやってもらわなきゃね」


〖 スゥの希望通り、私たちは手出し口出しをしません。

それに『必要なこと』でしたら、今まで十分教えてきました。

これからは、自分たちのチカラで生きのびてもらいましょう 〗


冷たいかもしれない。

セルヴァンの事があるから、このような結果になって後悔してるのかもしれない。

・・・でも、『契約をたがえた』という事実があり、それに対しての罰を受けなくてはならない。

その上で、『自らの行動』を反省しなくてはいけない。

その際に『ご主人に叱られた』などという言い訳を使った反省ではいけない。

『何が悪かったのか』を正しく理解し、そして反省し行動を改める。

それが出来なければ、いつまでも『同じ失敗を繰り返す』。


「・・・ちゃんと反省出来たら、『共闘』という形でまた一緒に旅が出来るといいね」


〖 それは大丈夫でしょう。

元々シーナは自意識過剰ですが、それさえ直せば『成長』出来るでしょう 〗


「ルーナは?」


〖 彼女は『幼い』だけです。

スゥが自立を自覚して精神的に成長したように、ルーナも『キッカケ』があれば成長するでしょう。

ただ、その邪魔をしているのは『シーナの存在』です。

もし戦闘で『守る者』がいなければ、成長するしかありません。

今までスゥという『戦える者』がいましたが、これからはシーナとルーナだけです。

シーナが戦う以上、ルーナは『庇われるだけの存在』ではいられません 〗


今回のことが2人の成長に繋がれば、きっと『この先』も真っ直ぐ生きていけるね。


さくらは信じている。2人の成長を。

そして、ハンドくんたちが『手出し口出しをしない』と言ったが『見守りをしない』と言わなかったことを。




バシュッ!という音と共に、目の前のコウモリが真っ二つになって床へ落ちた。


「ご主人、すみません!」


「コッチは気にしないで、スゥは目の前の敵に集中しなさい」


「はい!」


いま入っているダンジョンの魔物たちは、結構な確率で『二部構成』でやってくる。

ちなみに『上の段』と『下の段』だ。

大抵、ウルフやウサギが現れて戦闘が始まる。

少し遅れて・・・というか、音を感知してだろうか。

コウモリが集団でやって来る。

スゥはどちらとも戦えるが、時々、スゥの攻撃を躱してさくらの前までやってくる。

そんな敵は、さくらが光線レーザー銃で撃ち落としたり鵡鳳で一刀両断にしたり。

ハンドくんたちのハリセン攻撃を受けることもある。


「上のコウモリたちを倒したらダメかな?」


〖 此処はスゥに任せましょう。

ゲームみたいに『順番に襲ってくる』のではなく『一斉攻撃』もあり得ることを覚えなくてはなりません。

そちらは『危険察知』を使っているので、上手く対処出来ていますね 〗


「うーん。失敗したね。

『追放組』がいる時に此処に入っていれば、『気配察知』と『危険察知』がどれだけ大切か身を持って体験させられたのに」


〖 それはどうでしょうね。

このダンジョンから出たら忘れてると思いますよ。

ごはん食べたら。もしくは寝たら忘れている可能性もありますね。

何より『ダンジョンを出たら使う必要はない』と考えるかもしれません 〗


「私もそう思います」


スゥがハンドくんの言葉に同意しました。

スゥの背後はすでに魔物の姿はありません。


「何より、『ご主人や師匠が助けてくれる』と思っているため、使う必要すら感じない可能性が高いでしょう。

元々、私たち獣人は敵の動きを『本能』で察知出来ます。

きっと、2人だけになった今でも、その本能に頼って、気配察知も危険察知も使ってないと思います」


「スゥは本能と2つの察知。

何方がいいと思ってる?」


「察知の方です。

本能は『自分に向けた気配』に敏感になり、身体が無意識に動くだけです。

そのため、攻撃態勢に入っていても身体が無意識に反応してしまうため、身を躱すタイミングが遅れて攻撃を受けてしまいます。

ですが、気配察知は『どこに魔物がいる』か。

危険察知は『どの魔物が襲ってくる』か。

たとえ、それが『自分以外に向けた気配』でもハッキリと分かります」


〖 スゥはやはり『分析力』が高いですね。

ただ、詰めが甘い所が難点でしょうか 〗


「そうだねー。

スゥ。『次のお客さん』が顔を見せてるよ」


スゥに注意を促しながら、さくらは光線レーザー銃でベア2体の眉間を撃ち抜く。

同時に振り向いたスゥがそのまま駆け出して行き、残りのベアを倒していった。

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