第219話



あの『初めてのダンジョン攻略』からすでに3日。

毎日、日帰りできる距離のダンジョンに入っては魔獣と戦い、踏破数を増やしてレベルアップも順調に進んでいった。

3人は解体作業も上手くなった。

一体に掛かる時間も初日と比べると半分も掛からなくなり、初日が地下3階の小規模ダンジョンで8時間掛かって地上に戻っていたのが、地下8階でも5時間で地上に戻れるようになった。

ちなみに、ダンジョンの最奥、ボス部屋に鎮座するボスを倒すと開く小部屋の床に現れる魔法陣に乗ると地上に転移されるようだ。

私たちは、魔法陣を使っていない。

安全のために『ハンドくんの転移魔法』で地上に戻っているからだ。


『大事なさくらに、不確かな魔法陣を使わせる訳にはいきません』


ハンドくんの説明では、ダンジョン内に用意された魔法陣は、『人の手で作られ固定化されたもの』らしい。

そして、一応定期的に整備されているが、古いものだと『千年前のもの』もあるそうだ。

そりゃあ、ハンドくんの転移魔法の方が信用出来るからね。

怪しい場所に飛ばされたくないもん。




「お客さん方、やはり10日で町を出るのかね?」


女主人にそう聞かれたのは、町が気に入れば滞在を延長すると言っていたからだろう。


「ちょっと『ダンジョン巡り』に出るだけです。

此処はダンジョンが多いのですが、そろそろ中規模のダンジョンを回って、中で泊まったりするので。

野宿するにしても、ダンジョンの中と外では色々と違うことや注意することを教えたいと思っています。

それに魔獣肉を使って料理も教えたいので。

戻るのにふた月は掛かると思いますが、それも良い経験になればと」


そう話したら、「それでしたら、何時でも戻られるよう部屋は空けておきます。なあに。今までも使ってなかった部屋ですからね。通常の部屋より割高なんですから、使う人なんかいませんよ」と豪快に笑われた。

確かに、広めの部屋に続き部屋付きで、如何にも『主人と護衛お付きの人用』仕様だもんね。

でもそういう人の場合、銀板用の宿を使うらしい。

では、なぜ銅板用の宿にこんな部屋があるのかというと、『護衛付きの商人』のためらしい。

冒険者ギルドが買い取ったレアアイテムを、専任で買う商人が存在しているそうだ。

さらに『ギルドにレアアイテムを多く売っている冒険者と直接交渉して、優先的に買い取らせてもらえるように説得するため』に滞在する商人もいるらしい。


・・・迷惑な話だ。


そう思ったのは私だけではないらしい。

自由を好む冒険者たちは、『商人に飼われる』のを嫌う。

そのため大抵の交渉は決裂するのだが、だからといって諦める商人は少ないそうだ。

粘り続け、冒険者がその町をあとにすると追いかけて追い回す。

それこそダンジョンにまで付き纏う。

そのため、冒険者や行商人の間では『リッチ』と呼ばれている。

冒険者に際限なく金をチラつかせたり、積んだりする姿が『金の亡者』と言われているのと、どんなに断られても『見つけた相手は死んでも逃さない』という粘着質な性格から、『アンデッド』の意味合いも含まれている。

つまり『商人に化けた魔物』ということだ。


「やだなー。そんなのが現れたら」


ハンドくんに話を聞いた時の、私の率直な感想。

それにハンドくんは〖 大丈夫です 〗と即答してくれた。


〖 私たちには『自動車』があります。

馬車なんかより速いですからね。

ついてこられませんよ 〗


「でもダンジョンの中にまでストーカーされたら?」


〖 その時は遠慮なくダンジョン内に放置しましょう。

さくらが結界を張って寝ている間に『魔獣のエサ』になったとしても、それは自業自得です。

私たちが気にかける必要も、助ける必要も、守る必要もありませんからね。

せめて『見えないところ』で勝手に自分の人生を片づけてくれたら、なんの問題もないですね 〗


「それって問題にならないの?」


〖 なりませんよ。っていうか、何の問題になると思いますか?

冒険者に付き纏ってダンジョンの中まで追いかけたんですから。

先程も言った通り、そんな相手を冒険者が守る必要はありません。

我が身を守れないなら、大人しくダンジョンの外で出てくるのを待っていればいいだけです。

それにダンジョン内で説得するという事は、魔獣を引き寄せる事になります。

そんな『迷惑者』が、たとえ魔獣や魔物に殺されても『自業自得』なんですよ。

冒険者に集る害虫は、冒険者を狙う魔獣や魔物に『間違って』襲われても仕方がない 〗


「・・・創造神たちも同意?」


〖 ・・・・・・。

ハァ・・・。

そのまま伝えますよ。

『さくらの冒険を邪魔した時点で万死に値する。

遠慮なくダンジョンの奥深くに置き去りにすればいい』

『商人には商人のルールがある。

冒険者に直接交渉するのは禁止されている。

そのルールを破り、尚且つ承諾するまで付き纏うとは嘆かわしい』

『許されないことをすれば、それ相応の罰をその身に受けるのは当然じゃ』

・・・以上です 〗


「最初のは創造神?

でもその後は『商売の神』?」


〖 創造神。商人の守護神。最後はドリトスです 〗


「え?ドリトス?」


〖 ちょうどリビングにいたので、話を聞いていたそうです。

ちなみにヒナリは『さくらの邪魔をする人がいたら、遠慮なく『金ダライ』を落としなさい!』

ヨルクは『別に死んでも問題ないよな?』

その言葉に創造神たちは肯定しました。

セルヴァンからは『ハンドくんの転移魔法で『地下迷宮牢獄コーティリーン』に投げ込めばいいのではないか?』

これには私も賛成です。

欲を消す作用があの牢獄にはあります。

完全に大人しくなったら、何処かの町の中に放り出せば良いでしょう 〗


「ハンドくん。・・・『おんもへポイッ』は?」


〖 そうですね。『コーティリーンにポイッ』をして、大人しくなったら『城外ホームラン』をしましょうか。

一発で隣の町や村に入ったらホームランということで 〗


「ご褒美は?」


〖 コーティリーンに入る時に、罪人らしく神罰を掛けてもらいますが、ホームランの人には更に罰を追加で。

ヒットなら追加の罰は1つですね 〗


「アウトの人は?」


〖 すでに魔獣の巣に飛び込んでいますから、人生そのものが『アウト』ですね 〗


ハンドくんの言葉に「あーあ」と言いつつも楽しそうに笑うさくら。



さくらは知らない。

冒険者ギルドでさくらを嘲笑った冒険者たちが、すでに罰を受けていることを。


嘲笑わらったお前ら全員、夜になると同時に『地獄へ落ちろ』」


このさくらの『言葉』を受けた全員はこれから長く苦しむことになる。

陽が落ちると、眠っている時は『悪夢』。

起きている時でも『幻覚』に襲われ続けるのだ。

彼らは夜が近付くと怯えるようになった。

必死に起きているが、夜が明ける頃に浅い眠りにつく。

そして『各々にあった悪夢』に襲われる。

『心に深い傷』をもった者には、その時が繰り返し再現される。

途中で目を覚ますことはない。

「これは夢だ」と理解していても、『夢の最後』まで逃れることが出来ないのだ。

・・・現実世界に戻れても、幻覚に襲われ続けるのだが。


昼夜逆転の生活をして疲れが取れずに精神的に不安定になった彼らに、『冒険者』など続けられるハズがない。

もちろん、神殿に事情を話して調べてもらった者もいたが、魔法がかかっている様子も『天罰』を受けた様子もなかった。

ただ、鑑定石を用いて調べた訳ではなく『神にお伺い』したものだ。

神が『さくらに加担』しているとは誰も思わないだろう。

それに神は嘘をいていない。

さくらがかけたのは『暗示』であって、『魔法』ではないからだ。

そう。『親のいない子に酷いことを言ってしまった』と後悔した彼らが、罪の意識から暗示にかかったのだ。


賞罰欄に『天罰』が追加されているのが判明し、すっかり衰弱した彼らが神殿に保護されたのは、その後に起きる『騒動』からひと月後だった。

彼らの懺悔ざんげを聞いた神が、改めて『天罰』をくだしたのだ。

それは『自分に何もかかっていない』と知った者たちから『罪の意識』が消え、中には『自分たちを苦しめた原因』であるさくらに『危害を加えよう』と計画したからだ。

もちろん、事前にハンドくんが悪意を察知し、神々も予知していたため、反省をしない冒険者たちには、さくらのかけた『暗示』を解除して『天罰』へと切り替えた。


彼らが自由だと『喜んでいられた』のは2時間もなかった。

『思い込み』とは怖いものだ。

神は『魔法はかかっていない』と言ったが『何もかかっていない』とは言っていないのだ。

日が暮れていくと、これまで通り『幻覚』が「まいど〜」とニコヤカな笑顔でやってきて、夜通し『君を眠らせない』とばかりに『ミッドナイト・パーティー』を開催。

心算こころづもりが出来ていなかった彼らは、パニックを起こして大騒ぎ。

・・・そして『騒動』が起きた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る