第195話



「だったら、ハンドくんたちは『さくらのマンション』にも出入り出来ると言う訳か?」


ヨルクの質問に、数人の神が失笑する。

ドリトスやセルヴァンからも『呆れた目』を向けられて、「なんだよ!」とムキになる。



「ヨルク、お前・・・ハンドくんたちが『何処でご飯を作ってる』か分かっているか?」


「あ?ンなの『鉄扉とびらの向こう』だろ?」


「じゃあ、その『向こう』は『何処に繋がってる』か知っておるかね?」


「何処って・・・・・・・・・あれ?何処だ?」


ウーンと腕を組んで悩みだすヨルク。

衝立目かくし』の向こう側が気になって覗いた時に『鉄扉』があった。

直後に、ハンドくんからハリセンを受けて、セルヴァンにゲンコツを落とされて、目いっぱい叱られたが・・・



〖 『さくらのマンション』の一室です 〗

〖 そこに『台所クッキングルーム』を用意しました 〗


「あ?じゃあ、さくらが『おやつ』や『料理』を作りに『いなくなる』のは、そこに行ってるからか?」


〖 そうです 〗

〖 王宮の調理場を確認しましたが、『さくらには危ない』ので、使い慣れた『元の世界』のコンロや器具を使ってもらっています 〗


「オレたちがそこに入ると?」


〖 別に『死にたい』なら止めませんよ? 〗

〖 ですが、不衛生なので『自殺』なら他所よそでして下さい 〗


「部屋の『清浄化』がしてあるのは、リビングと繋がっている『さくらの部屋』だけだ」


創造神の言葉に他の神々も小さく頷く。


「『ちょっと覗く』ってだけでも?」


〖 あっという間に死ねますよ 〗

〖 数秒、苦しみますが 〗

〖 『好奇心』だけで死にたいですか? 〗


「死にたくねーよ!!」


「だったら二度と『鉄扉をくぐろう』とするな」



セルヴァンの言葉に「なんでそれを知ってる!」と驚いたが〖 一度や二度ではないですよね。扉を開けている時は『結界』を張っていますけど 〗とハンドくんに指摘されると「やべぇ。バレてた」と呟く。


「お前って奴は・・・何を考えているんだ」


「結界に触れれば、張った相手に気付かれて当然じゃ」



〖 一度うっかり、『結界を張り忘れ』てみましょうか? 〗

何時いつ『死んでもいい』ように、『さくらへの伝言』を残してくださいね 〗

〖 さくらが『ヨルクがいなくなった』と嘆かないように 〗

〖 まあ。・・・その前に『さくらの記憶』から『完全に』消しますので、どうぞ安心しておき下さい 〗


けるかー!!!」


「ちょっと待って下さい。その時は『ヒナリさんも一緒』なんですよ」


「アラ?それは『大丈夫』よ」


ヨルクをトコトン揶揄からかって楽しんでいるハンドくんをジタンが止めようとする。

そんなジタンを、笑いながら見ていた神々が止めに入る。

いつもハンドくんに『ヨルクと同じこと』をやられている神々だったが、『自分以外』がハンドくんの『標的ターゲット』になっているのを楽しんでいるのだ。

・・・『明日は我が身』なのを都合よく忘れて。



「『ヒナリの記憶』も一緒に消されるか・・・」


「『さくらに魔法を編み出して』もらってヒナリを守れば大丈夫よ」


「ヒナリに『結界を張る』だけでも一応は大丈夫じゃないかしら?」


〖 残念ながら・・・『ヒナリの問題』もキレイに片付いてしまいましたね 〗

〖 では、心置きなく『って』らっしゃい 〗


「待て待て待て待てー!!!」


いままで『さり気なく』ヒナリまで巻き込んでいたのか!


〖 ひとりでは寂しいでしょうから『心中』を勧めていたのですけど 〗

〖 残念ですが、ヒナリは『のこしてく』ことになりそうですね 〗


「『字』が違う!『字』が!!」


「ヨルク。貴方は今までも、気付かないでヒナリさんを『巻き込んで』いたのを自覚していますか?」

「ハンドくんが結界を張っていなかったら、『お二人』ともすでに亡くなっていた可能性があったのですよ」


「・・・・・・へ?」


ジタンの言葉に、ようやくヨルクは『ヒナリを危険にあわせていたのが自分自身』だと気付いたようだ。

驚いた表情で周囲を見回すヨルク。

ハンドくんが何度もヒナリを『巻き込んで』話をしていたのは、すべて『自分が気付かないでヒナリにも危険にあわせていた』事実を気付かせるためだ。

それに気付いていたドリトスは苦笑し、セルヴァンは呆れたように大きなため息を吐く。

神々も「あら。やっと気付いたのね」とクスクス笑う。



「マジでオレのせい?」


〖 そんなに心配しなくても大丈夫です 〗

〖 さくらからヨルクの記憶を消す『ついで』に、ヒナリからもヨルクの記憶と存在を『キレイさっぱりスッキリすっぱり』と、跡形あとかたもなく徹底的に消して差し上げますから 〗


「だから何でそうなるんだよ!」


〖 ああ。そうでした。『大切なこと』を忘れていました 〗

〖 『翼族の族長一家』や『幼馴染みたち』からも、ヨルクの記憶を消さなくてはいけませんね 〗


「『消す相手』を増やすなー!!」


「でしたら、二度と『バカなこと』はしないで下さい」

「さくら様やヒナリさんを『悲しませる』気があるのでしたら、『その時』を待つ必要はありません」

「いますぐ『この場』で『トドメ』を刺してあげます」


〖 『遺体ぬけがらの処理』でしたら、いくらでも『方法』はあります 〗


「ちょうど運良く、さくらもヒナリも『この場』にはおらんからのう」


「『記憶を消す』のにちょうど良いな」


「待てっ!マジで待てって!」



ジタンの『静かないかり』に『便乗』して、『悪ノリ』するドリトスやセルヴァンにヨルクは慌てる。

・・・ハンドくんは間違いなく『本気』だ。



「もうしない!覗いたりしないから!」


ゴメン!と手を合わせて謝罪するヨルクは、〖 何でも『いうこと』を聞きますか? 〗というハンドくんの『脅し』にアッサリ屈する。


「ハンドくん?ヨルクに『何をさせる気』かね?」


〖 大したことではないです 〗

〖 ただ、恐竜たち彼らの『話し相手』が必要なので 〗


[ はなしが通じないのに? ]


[ ぼくたちの『こえ』が分かるの? ]


〖 ヨルクには『声』が分かりませんよ 〗


「じゃあどうするつもりだ?」


神に『通訳』をしてもらっていたセルヴァンには、ヨルクが『役に立つ』とは思えなかった。


〖 『声が分からない』から良いのです 〗

〖 此処は『無人島』ですから『言葉』が聞こえたらすぐに分かります 〗


「それは『犬種』である俺の方が適任ではないか?」


セルヴァンの言う通り、『犬種』は耳がいい。

しかし、引き継ぎを済ませて引退した今でも、セルヴァンやドリトスには『残務処理』が残っている。

ジタンは『国王代理』で連日忙しい。

今も、休むのが下手なジタンは『執務補佐官』に仕事を取り上げられて此処へ来た追い出されたのだ。

さらに、戴冠式を終えて国王になれば、『いま以上』に忙しくなる。

そして・・・ヒナリには肉食恐竜たちの『食事風景』を見せられない。

必然的に『ヨルク以外』に適任者はいないのだ。



〖 ヨルク。島の珍しい植物を『調査』してみたくないですか? 〗


ハンドくんの『誘惑』にピクリと反応を見せるヨルク。

『見たことのない』植物に興味を持っているし、魔獣島は『何処よりも濃い瘴気』が集まる。

そこで『さくらの世界の植物』を育てて『瘴気の影響』を調べてみたい。

・・・それには『魔獣たちから身を守る』必要がある。

ヨルク自身は強い。

しかし『調査に集中』していたら、魔獣の襲撃に意識がいかなくて襲われる可能性が高い。

それを防ぐために、護衛ボディガードとしてティラノたちに守ってもらう『見返り』に、『話し相手』になればいい。

恐竜たちも『意思を伝える』相手がいることで、『念話』の練習になるのだ。


〖 もちろん『言葉が聞こえない』状態では、『話し相手』は無理です 〗

〖 ですから、ヨルクは『調査に集中』出来ます 〗

〖 『声』が聞こえたら『返事』をするだけで良いのです 〗


「何か『問題』が起きたらどうなる?」

「『瘴気で狂った魔獣が集団で襲いかかってきた』とか」


〖 その時は遠慮なく『魔獣のエサ』になってくれて構いませんよ 〗


「だから『遠慮する』って!」


「そうだな。ヨルクなんか食ったら、さすがに魔獣でも『腹を壊す』な」


「そんな魔獣を恐竜たちが誤って食べてしまったら、恐竜が死んでしまいますよ」


「島には『腹下しの草』とか『解毒作用のある草』は存在しとるのかね?」


「そういえば、ないかも知れませんね」


「あとで『虫下し』と一緒に植えておきますわ」


「そうね。胃もたれなどの『薬草』も植えておきましょう」


女神たちまで『ヨルクいじり』に参戦しだしたようだ。


「オレを『毒』や『虫』と一緒にするなー!」


〖 『消毒液』や『最強の殺虫剤』を別荘に用意しましょうか 〗

〖 さくらが『バイ菌』にけがされては困りますから 〗


「ヨルク・・・『バイキンクン』なの?」



『別荘島』から、目を覚したさくらとヒナリが来ていたようだ。

さくらが思い浮かべたのは『可愛いキャラクター』だった。

ハンドくんは分かってて『言わなかった』ようだ。

落ち込んでしゃがみこむヨルクを横目に、セルヴァンはさくらを抱き上げる。


「よく眠れたか?」


「うん。ヒナリと一緒にいっぱい寝たよ」


「起きたらハンドくんたちから『此処にいる』と聞いて・・・」


そして、安全のために『しゃぼん玉を斜めにカットした』不思議なものに乗って、『無重力魔法』でプカプカ浮いてここまで連れてきてもらったそうだ。


「ほれ。恐竜たちが『一緒に遊ぼう』と待っておったぞ」


さくらよりもはるかに小さい『ヴェロ』たちが、首を傾げたり「グァ?」と鳴いたりしながら、セルヴァンたちの周りに集まってきていた。

ドリトスの言う通り、『言葉』が分からなくても『いいたいこと』が分かるようだ。

苦笑しながらセルヴァンがさくらを下ろすと、小型恐竜たちがさくらを囲む。

さくらが笑顔で抱きついたり撫でたりしていると、大型の『アンキロ』が近付いてきた。

ハンドくんたちがさくらをその広い背に乗せる。


「ヒナリ。さくらと一緒に行ってくれるか?」


「はい。分かりました」


さくらをひとりにしたくない。

それは誰もが、もちろんヒナリも同じ気持ちだ。

ヒナリがアンキロの上で座っているさくらのそばへ飛んで行くと、さくらが嬉しそうに両手を伸ばした。

そんなさくらをヒナリは愛しそうに抱きしめる。

「キュウ・・・」と寂しそうに鳴いた、後方に伸びたツノをもつ『パラ』に、「あとで『海』に入ろーね」と頭を撫でると返事をするように「キュルルルー」と嬉しそうに鳴いた。

アンキロは背中にヴェロたちも乗せて森の中へ、島の中心へと向かっていった。

『安全に遊べる広い場所』まで、さくらたちを運んでくれるようだ。


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