第207話


中央広場でハンドくんの誘導で『古道具』の露店に向かった。

『古物商』と言ったほうが近いだろうか。

青鈍色あおにびいろ』に変色した古物を並べていたが、閑古鳥で『素見ひやかし客』すらいない。

それどころか、通り過ぎる時に「古臭い」と陰口を叩く者までいる。


イヤなら無言で立ち去れっつーの!


私が興味を持って座ると「おや?何か『面白いもの』でも見つけたのかな?」と店主のおじいさんが声をかけてきた。

そんな私に聞こえるように「これだから貧乏人は」とクスクス笑う大人たち。



「興味ない奴らは、とっとと散った!散った!」



店主は手にしていた本を指で挟むように半分閉じて、周りの大人たちを追い払う。

さくらはその様子をちらりと見て、目の前にある『鉄の筒』を指さして「これは何?」と尋ねる。



「ン?そいつは『この箱』に入っとったんだけどな」



何に使うもんか、よく分からないんだよ。

店主が見せてくれた箱には、赤い『ビロード』が張られており、色々な丸ガラスが並べられていた。



「ンー?っとコレとコレかな〜?」



さくらはその中からガラスを2枚出して、筒の両側にはめ込む。

それをそのまま片目にあてて周囲を見回す。



「あったり〜♪」



嬉しそうに笑って、そのまま店主に手渡す。

さくらのように片目に筒をあてると「おおお!」っと驚きの声を出した。



此方コッチでは何ていうのかな?」

「オレの所では『遠眼鏡とおめがね』って呼ばれていたよ」



さくらと店主のやり取りに、大人たちは遠巻きにしながら興味を持っているようだ。

しかし、先程さんざんバカにしたばかりのため、恥ずかしくて近付く事もできない。

『遠眼鏡』をシーナが借りて目にあてて後方の広場を見て「な!なんですか!」と慌てる。



「遠くにいる人が『目の前』に現れました!」


「そう。それを覗けば『遠くにあるものが近くに見える』んだ」



この世界には、身体強化の魔法に『遠見えんみ』がある。

『目に魔力を集めて遠くのものを見る』魔法だ。

ちなみに『中位級』で見える範囲は100メートル。

『上位級』でも500メートルいかない。

それも魔法だから『魔力』が必要だ。

しかし、この『遠眼鏡』で見ると魔力なしで『遠く』まで見る事ができる。

さくらの部屋にある『家庭用望遠鏡』は『星まで見える』のだから。


ちなみに『遠眼鏡』は、今でいう『望遠鏡』や『双眼鏡』のことだ。

いま目の前にあるのはその中の『単眼鏡』。

『片目で見る』から『単眼鏡』という。

『両目で立体視できる』ものが『双眼鏡』。


筒の見た目から『遠眼鏡』だと気付いたけど、レンズがなければ使えない。

そしてこのレンズの『組み合わせ』と筒の『長さ』を変えるだけで遠近の距離が更に変わる。



「おいボウズ。礼にコイツをやるよ」


「オイオイ。コイツは金貨1枚はするだろ」


「なーに。ボウズならコイツの『正しい使い方』が出来るだろ」



モノは『正しく使われない』と意味がない。

店主はそう言って、押しつけてきた。

確かに金持ちがしまいこんでいては『宝の持ち腐れ』だ。

ハンドくんからも『受け取った方が店主の立場を守れます』と言われたため「では有難く頂きます」と受け取って腰のポーチにしまう。

その時になって、腰のポーチが『アイテムボックス』だと知ったようで、遠巻きからざわざわと声がした。

『アイテムボックスを持っている=家が一軒建つほど高額=金持ち』という『この世界』特有の図式が、周囲をざわつかせたのだ。



「シーナ。此処で何か『ほしいもの』があったんだろ?」



顔を上げて背後に立っているシーナを見上げると「え!何故それを」と驚いていたが「さっきの『ハンドくんの行動』を読み取ることが出来た『ごほうび』だ」というと顔を赤らめて「その『みどりのヒモ』を・・・」と指をさした。

鮮やかな花緑青はなろくしょう色の糸で組まれた『組み紐』で、両端がタッセルのような束になっている『丸打紐』だ。

他にも、銀朱ぎんしゅ色の『平打紐』と、赤朽葉あかくちは色の『角打ち紐』があった。


どれも50センチくらいの長さだ。

彼女たちの武器に使う装飾紐に丁度良いだろう。



「その紐3本貰えるか?」


「こんなので良いのか?」


「ああ。彼女がその色を『気に入った』ようだからな」


「じゃあ1本で銀貨3枚。あわせて銀貨9枚な」



普通なら『高い』と思われるだろう。

しかし『防汚』や『防腐』など『紐が傷まないための魔法』と共に『上位クラス』の『危険予知』が付与されている。

それを考えたら『銀貨3枚』でも安いくらいだ。


ハンドくんからアイテムボックス経由で銀貨9枚をもらい店主に渡す。



「はい。ありがとよ」



銀貨を受け取った店主から、紐を受け取るとアイテムボックスにしまう。

此処で武器を出してつける訳にはいかないからだ。

陽も傾いて来たため、店主は『店じまい』を始めるようだ。

邪魔するわけにいかないため、さくらたちも宿へ戻ることにした。


下の2人が、屋台に未練があるようだったが「じゃあ。オレとシーナだけメシ食いに戻るか」と置いて行こうとしたら慌てて追いかけてきた。

もちろんハンドくんたちに『ピコピコハンマー』で『おしおき』されたのは仕方がないだろう。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る