第208話
食事の前に宿へ寄ると、「少し前に
・・・フム。疑問があるからと言って、仕事を終えて帰ったばかりのボズを出させて『話を聞く』のは失礼だろう。
なにより、屋台を諦めさせたせいで更にお腹をすかせているスゥとルーナに『おあずけ』させるのも気の毒だ。
女主人に『隣の食堂で食事をしてから『メモの理由』を聞きたい』旨の伝言を頼んで、そのまま内扉から隣の食堂へ向かう。
扉を開けると同時に『酒場本来の活気』で溢れていた。
「おっ!『宿の客』か。席は
宿の客用のテーブルは別にあるらしい。
指し示されたテーブルにスゥとルーナが駆け寄り、2人並んで腰掛けるとすぐにメニューを開く。
向かい側にシーナと腰掛けると、困った表情でメニューを差し出してきた。
2人は『名前以外は読み書き出来ない』らしい。
この店のメニューは文字だけでイラストはなかった。
隣に座るシーナを見ると「私は読み書きが出来ます」とのこと。
読み書きは『教会』で教えられていたらしいが、2人は『サボっていた』ようだ。
それは特に珍しい事ではないらしい。
村では、兄弟で『読み書きが出来る』のが1人いれば十分だったらしい。
普段はシーナが読んで2人に説明していたそうだ。
「今後のことがあるから、『読み書き』が出来ないと困るな」
「「えー!」」
「お前ら。・・・ニセの契約とかさせられたらどうするんだ?」
「契約の書面に『悪いことをします』と書かれているのに、口頭の説明が『良いことをします』と書かれていると言われて名前を書くのか?」
「まあ・・・『正義の味方』が『
「『奴隷への道』まっしぐらか」
そう言われてシュンと落ち込む2人。
この2人は『弱者に優しい正義の味方』になりたいのだ。
そのためには『騙されない』ことも必要だ。
そして、いくら『識字率が低い』とはいえ、最低限でも『読み書き』と『簡単な計算』は出来ないと困るだろう。
日本では、木の板に単語が書いてあり、裏にイラストが描かれている『オモチャ』があった。
それを『
『ジタンに提案してみます』
『まず『試作』を作ってもらい、この2人で『試して』みましょう』
うん。お願いね。
落ち込んでいる2人に『その話はまた今度』と伝えてメニューを開いてテーブルに置く。
すると身体を乗り出してメニューを覗く2人。
「何が食べたい?」と聞くと声を揃えて「「ニク!」」と返ってきた。
シーナが『チキンステーキ』や『魔獣肉ステーキ』、『ハンバーグステーキ』『ミートボール』など、メニューを1つずつ読み上げていく。
こちらの様子を確認していたのか、各々が食べたいものを決めると男性店員が近寄ってきた。
「何にするか決まったか?」
「スゥは『チキンステーキ』!」
「あの・・・『魔獣肉ステーキ』を」
「はーい!『ハンバーグ』!」
3人が次々と注文していく。
店員は、『
「で?アンタは何にする?」と聞かれて「今日の『オススメ』は?」と尋ねると「『ミックスグリル』だな」と返ってきた。
肉や魚を香草と一緒に焼いた料理らしい。
「じゃあ。オレはソイツと、それに合う『ワイン』を頼む」
「この子たちにはジュースを」
「『ユルのジュース』を3つお願いします」
シーナが慌てて口を挟む。
どうやら『飲み物は有料』という女主人の言葉を覚えていたようで、『一番安いジュース』を選んだようだ。
今日は2人の面倒を押し付けていたし、シーナの好きにさせよう。
さくらの料理は『香草を混ぜたパン粉を纏ったとり肉をグリルしたもの』と、『香草の香りを纏わせたサーモンのムニエル』をダッチオーブンに入れたものだった。
それも『ダッチオーブン』のまま提供されたから、さあ大変。
ちゃんと『自分の分』があるにも関わらず、『食べたそうにしている』2人が向かい側から見ているのだ。
もちろん、料理ではなくハンドくんからの『ピコピコハンマー』を貰うことになった。
〖 はしたないです 〗という言葉も添えられて。
シーナが肉や魚を食べやすく切り分けて、皿へ取り分けてくれる。
「ありがと」とお礼を言うと「私たちはご主人様の『従者』ですから」と意味深な言葉を言いながら2人に目を向けた。
そう。2人は忘れているけど、3人は『ヒナルク様の従者』なのだ。
『主人の食事』を欲しがったり、ねだったりなんてしたら『奴隷落ち』にされても仕方がない。
これが優しい『ヒナルク様』だから・・・自分たちを大切に扱ってくれる『他とは違うご主人様』だから『許されている』のだ。
これから先、もし『違うご主人様』と契約した時に『今のまま』の態度を取っていれば、『侮辱罪』で『運が良ければ奴隷落ち』。
でも殆どは『その場で
あの日・・・『ご主人様』が助けてくれなければ、私たちは『
その『ご恩』を返さないといけないのに・・・
妹たちは『そんなこと』も分かっていない。
「シーナ。ごはんが温かいうちに食べよう」
ご主人様の言葉に「はい」と答えて、目の前の料理に手をつける。
せっかく作ってもらった料理だ。
温かいうちに食べないと、作ってくれた相手に失礼だよ。
そう教えてくれた、隣に座る自分より3つ年上のご主人様。
こうやって『並んで同じものを食す』など、他の『主従関係』ではありえない。
それもご主人様は『銀板専用の宿』ではなく、ランクを下げてまで『
私たちを『家族同様』に扱って下さるご主人様。
広場でも自由に『屋台巡り』をさせてくれた。
自分たちは『従者』なのだから、『ご主人様をお守りするために一緒に行動をする』のが『正しい』はずなのに・・・
この料理だって『そう』だ。
最初に『食べたい物』を選ばせてくれた。
ご主人様が『一番安いメニュー』を注文して、ひとつを3人で分けて食べるのが『正しい主従関係』なのに。
寝首を搔かれる恐れがあるから、従者には武器の所持など許されない。
ご主人様を守る時は『我が身を盾』にするのだ。
たとえそれで死んでも誉められない。
逆に、ご主人様にかすり傷でも負わせれば『従者失格』として『奴隷落ち』になる。
それなのに『戦い方』を教えてくれた上に、武器の所持も許してくれている。
・・・従者は『奴隷』でもあるのだから。
従者は奴隷と違い『ある程度の自由と賃金』が与えられるが、替えのきく『軽い生命』であることに変わりはない。
中央広場で見かけた『主従関係』がきっと『正しい』のだろう。
『従者としての躾がなってない』との理由で、脇道に連れて行かれて・・・主人は一人で戻ってきた。
屋台に夢中だった妹たちはそれを見ていない。
逆に『
『自分たちが失態をすれば主人が笑われる』ことを知った。
そちらも、あとで見かけた時には『失態を繰り返していた従者』だけいなくなっていた。
今夜、妹たちにはちゃんと『教えよう』。
昼間に見た『主従関係』のことも。
その『顛末』も・・・
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