第201話


『一番奥はさくら。手前が3人ですね』


ハンドくんたちは、すでに部屋の確認を済ませてくれていた。

3人にはカギを1本だけ渡す。

シーナが受け取りカギを開ける。窓側にベッドが2つあり、入った左奥にも扉があった。

スゥが開けようとしたが、そこはカギがかかっていて入れなかった。

さくらもそれを確認すると、自分の部屋へ向かう。

すると『中から』扉が開いて、さくらはそのまま警戒することなく中へと入る。

中はエンテュース同様、やはり広くなっていた。

唯一違うのは、隣の部屋にベッドが並べられていた窓際はテーブルセットが置かれ、ベッドは『部屋の中央』に置かれていた。

『窓際』では『不可視』の魔法が掛けられていても攻撃魔法を受けたら生命はない。

この部屋のベッドが『中央』に置かれているということは、此処か他所の宿屋が『襲われた』過去でもあるのだろう。



『この中には魔法のたぐいは掛けられていません』


ハンドくん。・・・それって『部屋の外』には掛けられているってこと?


『はい。建物の外壁全体に『強固な反射魔法』が』


それは『覗き魔法』も反射?


『しますね』


・・・結構『外部から守られている』宿なんだね。

でも『どうして』なんだろう?



ベッドに座って考え始めたさくらの頭をハンドくんが撫でる。



『いまは『ひとり』ではないのですよ?』

『隣でさくらが来るのを待ってます』



あ・・・ゴメン。すっかり忘れてた。

そう言ってベッドから飛び下りて扉へ向かおうとしたら『こちらですよ』と窓側にもう一つある扉を指差す。

アレ?そんな所に扉なんてあったっけ?

コッチが廊下に出る扉だよね?

・・・・・・ああ。『そういうこと』か。


『扉の意味』に気付き、そちらのノブを握る。

『カチャリ』と音がしてカギが開いたのが分かってそのまま扉を開く。


扉の向こうには、ベッドの上に座った状態で驚いて目を丸くしているルーナと、「やっぱりー」と笑顔で飛びついてきたスゥ。

そして扉の『意味』に『気付いていた』らしいシーナがいた。



「なんだ?出掛けないつもりか?」



ルーナに声をかけるとシュタッと立ち上がり「もう行けます!」と『日本の警官』みたいに敬礼した。




露店の場所は聞かなくてもすぐに分かった。

宿からほど近い場所に『中央広場』があり、その広場の『外周』に露店と屋台が並んていた。

そこから放射状に8本の道が城壁まで伸びており、所々に横へ道が出来ていた。

「クモの巣みたい」という率直な感想に『そうですね』とハンドくんが同意する。


見て回るついでに『お昼ごはん』を購入することにしたが、スゥとルーナが屋台の匂いに誘われて落ち着かない。

そのため、シーナが2人を連れてさくらと別行動を取ることになった。

お金はハンドくんたちが預かり、購入時にシーナへ渡すらしい。



「シーナ。2人のことは頼んだよ」


「はい。おまかせ下さい」



すでにシーナに抱えられているスゥとルーナは大人しい。

先程『串焼き』の屋台の香りでヨダレを垂らしていたのだ。

別に『獣人族は肉の誘惑に弱い』のではない。

つけたタレの『焼ける匂い』に2人の鼻が誘惑されるのだ。

『焼き鳥屋』や『うなぎ屋』の匂いに誘惑されるように。

それも、薄い木の板を貼った『団扇うちわ』みたいなもので周りに『タレの罠』を拡散させている。

もちろんシーナも誘惑に誘われたが、2人とは違い『理性』は働いている。

・・・シッポが揺れていたのは大目に見よう。




私はハンドくんと一緒に屋台巡り。

この世界の屋台って『馬車の荷台』がそのまま『屋台』になってる。

私の世界でいう『キッチンカー』と同じだ。

そういえば『馬舎ばしゃ』という『馬しかいない』所がいくつもあった。

屋台を出している間は其処そこで預かってもらうのか。



『魔獣の襲撃などで『馬の暴走』が起きたら大変ですからね』

『広場で暴走が起きたら死者が出ます』

『それこそ『大惨事』ですよ』


馬って『臆病』なんだよね。

だから1頭が『騒いだ』ら他の馬も暴れるってテレビで言ってたっけ。



そんなチャットをしていたら、何か『お好み焼き』に似たものを焼いている屋台を見つけた。

看板にはキャベツをメインに3種類の具材が入っているようだ。

左から『サーモン』『エビ』『カニ』とある。

この町の南側に大きめな川があるため、『海鮮』が豊富なのだろう。

それにしても気になることがあるんだけど。



・・・・・・えっとぉ?


『間違いないようですね』


んー。でも『お店の人』に聞いてみた方がいいかな?



「すみませーん」


私が『ちょっと』背伸びをしないと届かない窓に手をかけて、中に声をかける。

「はーい」という声と共にニコヤカな笑顔のお姉ちゃんが顔を見せた。

さらに30センチほど高くにあるカウンターに乗っている『焼けたお好み焼き』を指差して「これはなあに?」と聞いてみる。

すると不機嫌そうに「あー。これは『サーモンのお好み焼き』だよ」と素手で上から押し潰す。


・・・それってお客さんに売る『売り物』だよね。


驚きつつ「それほしい」と言ったら「これは『触っちゃった』からー」と断られた。

だから『焼いてほしい』と頼んだら「弁当とか予約とかあるからねー」だって。

彼女の後ろから年配の女性が顔を出して「ちょっと・・・」と言ったけど、何か暴言を吐いて奥に押しやった。

彼女に似てるから『お母さん』かな?


ハンドくんがだんだん怒り出していくのが分かったけど・・・

でも『手を出す』のはもうちょっとだけ待ってね。

初めての客で『遊んでいる』だけかも知れないから、もう少しだけ粘ってみるよ。



「予約とかの後でもいいから焼いて下さい。取りに来ますから」と頼んだら「だったら5時過ぎるなー。でもその時間なら店を閉めてるかもねー」ってバカにするような口調で言われた。



そんな時だった。


「どうかされましたか?」って男性の声がして、左側を見ると『この町の警備隊隊長』が立っていた。

その後ろには私服・制服の警備隊員もたくさん立ってて『此方こちら』を見ている。

鑑定魔法で『そのこと』を知って目を丸くした私に、もう一度「何か御座いましたか?」と尋ねてきた。

『サーモンのお好み焼き』を指差して「アレを食べたいって言ったら『今日はお弁当と予約がいっぱいで作れない』って断られた」と話す。

「あれは?」と聞かれたから『さっき上から『ぎゅうぎゅう』押し潰してて『素手で触ったから売れない』って言われた』と教えたら「少しお待ちいただけますか?」と言われた。

「予約の人がいっぱいいるし『忙しい』らしいから・・・」と断ったけど、待機していた制服の隊員にベンチへと誘導される。

何か、屋台の裏から中へ話をしている『私服隊員』が3人いるって鑑定魔法が教えてくれる。


10分もしないで、隊長が『ほかほか』のお好み焼きを持ってきた。

「どうぞ。お待たせしました」と差し出されてさらに目を丸くする。

なんで『片ひざ』つかれてるの?



「予約の方がいらっしゃられるのでは無かったですか?」

「予約の方を押し退けて、先に作って頂くいわれは御座いません」


「予約までまだ時間があるので1枚焼くくらいなら問題ないそうです」


「ですが・・・さきほどは『焼いてる余裕はない』と」


「初めて見た顔だったから揶揄からかってみただけとのことです」


「では『おだい』を・・・」


「いえ。『失礼なことをしたお詫びにお代はいらない』そうです」


『さくら。ここは『好意』を素直に受けなさい』



ハンドくんにも言われたため「分かりました。ありがたく頂きます」とお好み焼きを受け取った。

隊長は「ではごゆっくりお楽しみ下さい」と言って去って行った。


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