第202話


お好み焼きは直径10センチくらいの円形で、『経木きょうぎ』のように薄く削った木の皮で出来た『四角い皿』に乗ってて、ハンドくんが言うには『半分に折ってかじりつく』そうだ。

教えられた通り、皿ごと半分に折ってバナナの皮をむくように皿の先端を捲って「いた〜だきま〜す」と頬張るさくら。

ひと口囓ると不思議そうな顔をした。



『どうしました?』

『お口に合いませんでしたか?』


・・・ねえ、ハンドくん。

『サーモン』以外に『エビ』も『カニ』も入ってるよ?

『オールスター』参上?

『全部のせ』ってメニュー、あったかな?


『それは『さくらを揶揄ったお詫び』だからですよ』


・・・いいのかな?


『一度受け取った『お詫び』を残すのは『失礼』ですよ』


残さないよ。

ただ『サーモン』だと思ったら他の味もしたから『びっくりした』だけだもん。



お好み焼きの屋台を見ると、カウンターを拭いていた年配の女性と目が合った。

私がペコリと頭を下げると『お辞儀』で返された。

あ・・・。座ったままでは失礼だったかな?

立ち上がろうとしたけど、ハンドくんに止められた。

『あれは『迷惑をかけてすみません』って意味です』って教えられて『これ以上『騒ぎ』になったら彼女たちが『大変なこと』になりますよ』と脅された。

そしてハンドくんの操作で、私のMAPがAR表示で目の前に開かれた。

『広場内』に『警備隊』の表示になってる人たちが沢山いる。



『『問題を起こした』彼女たちは彼らに『見張られている』んですよ』

『これ以上騒ぎを起こしたら、即『捕縛』です』

『あの『女性』も一緒に『奴隷落ち』になります』


・・・え?なんで?


『さくらは『銀板持ち』でしょう?』


私の『銀板』って門番ボズ以外に見せてないよね?


『鑑定石にかけられれば『さくら銀板に無礼を働いた』ことが表示されます』

店のオーナーザーニが『監督不行届』で罪を負いかけたのと同じですよ』



思わず屋台を見たが、女性は奥に入ったのかいなくなっていた。

・・・『お好み焼き』なら自分でも作れるから、断られた時に屋台から離れてればよかったな。



『『食べてみたかった』のでしょう?』

『相手が『さくら』でも『それ以外』でも、『客を揶揄う』時点で『お説教』を受けて当然です』

『これが『他の銀板じゃなくて良かった』ですよ』

『他の銀板でしたら即『奴隷落ち』でしたから』



そうだね。

でも『階級制度の世界』なのに、何故『銀板に無礼な態度』がとれるんだろう?


『『銀板』が少ないからですよ』

『銅板が殆ど。銀板は1割。金板にいたっては大陸全体の『ひと握り』だけです 』

『そのため『相手は銀板や金板ではないか?』と気を張るより『自分と同じ『銅板』だ』と思う方が『ラク』なんです』


つまり銀板や金板に出会ったら『運が悪かった』って?


『そうなりますね』


ジタンみたいに『誰にでも堅苦しい態度』をしていれば良いのにね。


『本当に『そう』思いますか?』


・・・・・・・・・思わない。

『ウザい』だけだね。


『そうですね』





遠い空の『向こう』の執務室で、『新米国王』がクシャミした。



「風邪ですか?」


「いえ・・・違うと思います。『寒気』はないので」


「でしたら『何方どなたか』が噂をされたのでしょう」


「さくら様だと良いのですが」


「『良い噂』でしたらいいですね」



自身の言葉に思わず頭部を押さえて周囲を警戒する『主君あるじ』に苦笑する。

さくら様が『この世界を知るため』に冒険旅行に出られた時は、次から次へと舞い込む『仕事』に集中していたために『落ち込む余裕』はなかった。

もしかすると、さくら様は『それを見越して』戴冠式の翌朝に出られたのだろうか。


執務補佐官は窓の外を見遣って心の中で祈る。


『さくら様に優しい世界』が、この空の下に広がっていることを。




『お好み焼き』を完食して、屋台に近付くと年配の女性が気付いて出てきた。



「あ!お好み焼き美味しかったです。ごちそうさまでした」



そう言って頭を下げると女性も慌てて頭を下げてきた。

あれ?さっきの『怖い人』がいない。



『配達にでも行ったか『他の用事』で出かけたのでしょう』



あ、そっか。

もう一度頭を下げて、また『屋台巡り』を開始した。








新鮮なフルーツをその場で絞ってジュースを作ってくれる屋台で、『ノマ』という果実を見つけた。

日本でいう『甘いバナナ味』で、エンテュースで貰った木箱の中にもあった。

・・・見た目は縦20センチくらいの大きさがある『黄色いパプリカ』。

それを縦半分に切って、柔らかい中身をスプーンで取り出す。

そこが『バナナ味』なのだ。

ちなみに分厚い『皮』にあたる部分は・・・そのまま『黄色いパプリカ』だった。

他に『ユル』という『赤いパプリカ』は中身がシャキシャキの『梨』で、皮は『リンゴ』。

『マチル』という名の『緑色のパプリカ』は、中身が『スイカ』だったが・・・皮は『食用ではありません』とのことだった。


『何処かのおバカな『ヨルク誰かさん』が隠れて口にした』そうで、数日、治療院のお世話になったらしい。

・・・大丈夫だったのかな?



『大丈夫です。『バカは死んでも治らない』と言いますから』



・・・・・・『聞かなかった』ことにしよう。




ちなみに『マチル』は『魔散る』と言う意味らしい。

皮を乾燥させて、粉にしたものを『松明』に少量入れるだけで『魔獣避け』になるそうだ。

その粉を土と混ぜた畑には『瘴気の影響がない野菜』が出来ることを、瘴気の研究をしているジタンとヨルクが発見するのは『数年先』のことだった。






「「ご主人さまー」」



スゥとルーナが大きく手を振って駆け出した。と同時にシーナが両脇に抱えて確保する。

『ぺしり』と2人の頭をハンドくんたちが素手で叩いた。

さすがに『ハリセン』は可哀想だ。

しかし素手で叩いても『反省しない』かも。


んー。・・・『ピコピコハンマー』発動。


私の『魔法』で、ピンク色の『ピコピコハンマー』が2人の頭を『ピコン』と叩いて消えた。

その音と衝撃に目を丸くしたスゥとルーナ。

シーナは『私が何かした』ことに気付いていた様子で、2人に「ご主人様からの『バツ』ですよ」と説明していた。

『これからは彼女たちには『ピコピコハンマー』を使いましょう』とハンドくんが言ってきた。

あの音は良いのかな?と思ったが、以前にハンドくんから『この世界は『何でもあり』』って聞いてたから『気にしない』ことにした。


それ以前の『問題』にさくらは気付いていない。

『ピコピコハンマー』は『プラスチック製』で、『この世界の素材ではない』ことを。

そのことに気付いているハンドくんは『この世界は『何でもあり』』の精神で『気にしない』ことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る