第192話


いまは湖に近い花畑で、思い思いに休憩中だ。

ハンドくんから〖 長時間の運転は禁止です 〗って言われたのだ。

その代わり、〖 きれいな花畑で休憩しましょう 〗と提案されて現在に至っている。

ちなみに此処には『さくらの魔石』で結界が張られている。

湖に近い以上、野生生物や魔獣、『破落戸ならずもの』たちが近付く危険がある。

そのため『強固な結界』が張られているのだ。



3人にはちゃんと『さくらの姿』を見せて『口止め』をしてある。

名前は『まだ早いです』というハンドくんの指摘があったため教えてはいない。

その上で『大事な約束』をしてある。



「もしも『 私とハンドくん私たち』が突然いなくなった時は、『自分たち』で考えて『正しい行動』を取ること」



その言葉に3人は慌てたが『今すぐではない』と知って落ち着いた。

私もハンドくんも、何時いつまでも3人と一緒にいるつもりはない。

いつか『神の館へ帰る』からだ。


その前に『1人でも生きていける強さ』をハンドくんが教える。

今だって、別のハンドくんたちに『基礎体力の強化』を教わっている。


やっぱりスゥは『猫種』なだけあって『身軽』だ。

音を立てずに近寄ることも、気配を消すことも出来る。

そのため『基礎体力』を十分鍛えたら『短剣』を使った『鍛錬』を始める。

私の持っている武器に大小の『苦無くない』がある。

それを使って『忍者シノビ』のようになりたい!と言っていた。

ちなみに『シノビ』はこの世界にある職業の一つで『裏から人々を助ける』職らしい。

スゥには『相応ふさわしい職業』だろう。

・・・ところでスゥの『今の格好』は日本で子供用として販売されていた『ピンク色の忍者服』を着用している。



『小さい子は、まず『カタチ』から入った方が『やる気』を引き出せます』


「『スイッチ』は?」


『テレビCMの見過ぎです』





ルーナはスゥと同じ『忍者』になりたいようだ。

ただルーナは『犬種』のため、いまはスゥと同じように動けていても、シーナの年になれば差が開いてしまう。

しかしハンドくんから〖 『魔法剣士』は如何いかがですか? 〗と言われると興味を持ったようだ。



〖 魔法も使える『剣士』ですよ 〗

〖 何より『正義の味方』です 〗



この『正義の味方』にはルーナだけでなくスゥまで飛びついた。

「『忍者』も『正義の味方』だよ」と教えると、スゥとルーナはお互い手を握り合って「頑張って『正義の味方』になろうね」と誓いあっていた。

〖 真の『正義の味方』は、自分のことを『正義の味方』とは言いませんよ 〗とハンドくんに言われると、今度はシーッと口の前に人差し指をあてて顔を合わせる。

ルーナは『剣士』を目指すために、鍛錬は『片手剣』から始めることになった。






シーナは結構『肉体派』だった。

村で『棒術』を習っていたらしく、『基礎体力』も十分だった。

だからといって『木の棒』を装備させる訳にはいかず。

『槍』を使うことにした。

「今すぐ教えて下さい!」と言ったが、ハンドくんから『まだ早い』と却下された。

それでも粘るシーナに「じゃあ『現物』を持たせれば?」と言うことで、アイテムボックスから槍を出す。

そして槍を両手で持たせて構えさせる。

そのままの姿で1分ももたなかった。

私が軽々と、アイテムボックスから出した槍を片手で持ってたため『重たい』とは思わなかった様子。

タネ明かしすると、私は『武器の重さを感じない』だけ。

これは武器のリスト化をしていたハンドくんが気付いてくれたんだけど、武器の詳細に『重さ』の項目があった。

試しに『0』にしたら『翼族の羽衣』みたいに軽かった。

ただし、この『重さ』は『私とハンドくん』にだけ『有効』。

だからハンドくんは『鋼鉄のハリセン』を『紙のハリセン』のように軽々と振り回せるのだ。

重さが軽くなっても『威力は落ちない』ため、すべての武器が『0』設定になっている。

・・・そして私たち以外シーナが手にすれば『本来の重さ』に戻ることも分かった。





・・・ねえハンドくん。


『はい。『その可能性』もありますね』



2人だけの『ナイショ話』。

私が『思い至ったこと』にハンドくんが肯定する。


ハンドくんは『重力魔法』が使える。

エルハイゼン国にいた頃、身体の動かない私を空中に浮かせて『無重力空間』で遊ばせてくれるためだ。

無重力空間だと私の身体に負担なく、寝たきりで背中などを痛めたりしないためだ。

痛くなったら『治療魔法』を使えばいいだろう。

しかし『痛くなるまでガマンしていること自体、問題です』とハンドくんに言われた。

そのために『無重力』でプカプカと浮いて遊んでいた。

大抵は気持ちよくて『寝落ち』しては、セルヴァンの腕の中で目覚めていたが。


そんなハンドくんの『重力魔法』が、私とハンドくんにだけ『有効』させているのではないかと私たちは考えたのだ。





ハンドくんには『私が口にしないこと』もすべてバレている。

ただ、私が無理しない程度まで『黙っているだけ』だ。

そして私よりも『私のこと』に気付いて『先』に動いてくれる。


・・・たぶん、シーナたちのことをセルヴァンに『話をつけに行った』のも、このままでは『寝込む可能性』があったからだと思う。

あの時、ハンドくんに起こされるまで『寝てた』し。

『そのまんま』だったら、夜から熱を出してたかな?



『寝込むのは数日後でしたね』

『もちろん『そうならない』ようにしますよ』



うん。ありがとう。





花畑を見ててふと思い出した。



「ねえ。ハンドくん」


『どうしました?』


「あ、あのね・・・」


『『まっくろくろすけ』ですか?』


「うん!そう!」



花畑から『ケセラン・パサラン』を思い出したんだけど、そこから『まっくろくろすけ』に辿り着いた。

確か・・・あの時ハンドくんが『ケセラン・パサランの亜種』なのに『魔法生物』だと言っていた。



『覚えていませんか?』


「なにを?」


『映画を観る時に『なに』を言いました?』



・・・え?あの時は「まぁっくろくろすけ出ておいで~!」。


私の言葉が終わると同時にポンッという音がして、目の前に『まっくろくろすけ』が現れた。



「えっ?」



手を『おちょこ』にすると、その手の中に『すとん』と入ってきた。

そのまま身体をプルプルと震わせる。


何だろう?『嬉しい』という感情が流れてきた。

ふとハンドくんに詳しく聞こうとして・・・思い出した。


ハンドくんという『魔法』を使ったつもりだった私は『イメージ』を持っていたため、ハンドくんは『ただの魔法』ではなく『召喚生物』となったこと。

それから、今の『魔法生物』にランクアップしたこと。


・・・じゃあ『この子』も?



『当たりです』



ハンドくんが返事をすると、『まっくろくろすけ』も身体を『上下』に揺らす。

まるで『返事』しているように。


じゃあ。『亜種』ってことは『黒いケセラン・パサラン』はこの世界に元々いるってこと?



『その通りです』

『色が違うだけで、出会ったケセラン・パサランと何ら変わりありません』

『『この子』は自分と同じ『族長リーダー』です』


・・・でもあの時『魔法』は使ってないよね?

声も出なかったし。


『イメージを持って呼ばれたのを、純粋に『ばれた』と思ったようですよ』


ハンドくんと『違う』から・・・


『・・・・・・。それはいったい『どういう意味』ですか?』


ん?だってハンドくんは最初から『喚んだ』んだもん♪

ただ『魔法』のつもりだったから『召喚』だとは思わなかったんだけど・・・


『魔法の方が良かったですか?』


ううん。こうやって『いつもそばにいてくれる』の嬉しいよ。

それに『召喚』のことを知ったら、真っ先にハンドくんを『喚んでいた』と思うよ。

だから『今と変わらない』んじゃないかな?


ただね。『ひとりぼっち』は寂しかったんじゃないかなって。

喚んだハズの私が『喚んだこと』に気付いていなかったんだから・・・『存在を否定してる認めていない』のと一緒だよね。

ゴメンね。

・・・・・・本当に、酷いことしてたよね。



自己嫌悪で落ち込んだら、ハンドくんが頭を撫でてくれた。



『そんなことないですよ』

『喚ばれた自分は『何をしたい』か。さくらに『何をしてあげたい』かを色々考えて『動いていました』から』


勝手に『仲間を増やして』ね。



クスッと笑った私に『さくらは『許してくれる』と思っていましたよ』と教えてくれた。

ハンドくんが撫でてくれる『手』が優しい。

それだけで私は『愛されている』って実感する。

『ひとりじゃない』って安心出来る。


ぷるぷるっと『手の中の存在』が身体を震わせる。

どうしたの?と思ったら『『自分たちも愛している』だそうですよ』とハンドくんが『通訳』してくれた。

その言葉が嬉しくて思わず笑顔になる。



「これからも『一緒に』いてね」


『もちろんです』



ハンドくんの言葉に同意するように、まっくろくろすけが身体を上下に大きく揺らした。




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