第183話



ハンドくんが転移させたのは、露店街から離れた広場の木陰だった。

下の芝生が気持ちよくて、泣き疲れたさくらはそのまま『ゴロン』と横になる。




「ヒナルク様!こんな所にいらっしゃったのですか!」



そよ風が気持ちよくて、このまま昼寝をしようと思っていたさくらは、警備隊の制服を着た男に声をかけられた。



「なんだよ・・・ねみいのに・・・」



さくらが仕方なく上半身を起こすと、隊員は「ご無事でしたか!」と慌てて駆け寄ってくる。

そしてそのままさくらの近くに座り込み、息を整えながら『理由』を話し出す。

どうやらさくらが『男に襲われた』ところを目撃したようだ。

『明るいクリーム色の髪』にしていたが、日陰にいたため茶髪に見えていたらしい。

そして『この町にいる茶髪の少年』=『ヒナルク』だと思い至った。

すぐに駆けつけたが、その時はもう『転移』したあとだった。

襲われたときに『たくさんの手』を見たそうだが、この世界はハンドくん曰く『何でもあり』のため、彼も『ヒナルク様の護衛』と思って気にもしていないようだった。

逆に、さくらが取り乱していたため『大切な相手だったのだろう』と心配までしてくれていたのだ。

それに応えるように、さくらの肩の上にポンッとハンドくんが姿を現した。

そんなハンドくんにまで「大丈夫でしたか?おケガは?」と聞いてきた。



〖 ケガはありません 〗

〖 心配して頂きありがとうございます 〗



ハンドくんの言葉に安心したように深く息を吐いた隊員は、「あの男は捕縛して牢に入っています」と教えてくれた。

そして『現行犯』だったのと彼が『一部始終を目撃していた』ということで、さくらは関わらなくて大丈夫とのことだった。

彼の目には『ヒナルク様の生命を奪おうとした』と見えていたらしく、そう証言した結果、罪状に『殺人未遂』が追加されたそうだ。



どうやら、彼は『正義感』が強いようだ。

そんな彼に『アクセサリーショップが盗品売買の根城』だと教えたら驚いていた。

その理由がさくらを襲った犯人が『アクセサリーショップの店員だったから』らしい。

「すぐに店を捜索します!」と敬礼して詰所へ駆けて行った。



『お昼寝するなら宿へ戻った方が良いですね』

『きっと宿屋の人たちが噂を聞いて心配してますよ』


「・・・眠い」


『お昼ごはんは?』


「食べてから寝る」


『それでは宿まで頑張って帰りますよ』


「はーい・・・」



返事をするが、さくらの目は眠そうに閉じかかっている。



『お昼ごはんのデザートは何がいいですか?』


「ソフト!」


『では帰りましょうね』


「はーい!」



先程の返事と違い、さくらの目は輝いていた。







「おお!無事だったか!」


「大丈夫だったか?」


「心配してたんだぞ!」



宿に戻ったさくらに気付くと、酒場で顔馴染みになったあんちゃんたちが集まり『揉みくちゃ』にする。



「おい、お前ら!そこまでにしとけ!」


宿屋のオッチャンが止めに入るが、兄ちゃんたちはさくらの肩に腕を回したり頭を撫でたりして離そうとしない。



「『その子』はなー!」


「分かってる♪分かってる♪」


「あんなこと言ってるけどな。一番心配してたのはマスターなんだぜ」


「自分が一番最初に抱きしめたかったクセにー」


「お・ま・え・ら〜〜〜!」



出入り禁止にするぞ!というオッチャンの『最終通告』に、慌ててさくらから手を離す。



「おら。アンタも疲れてるんだろ。コイツらは放っといても此処に居座ってるんだ。気にせず部屋で寝てこい。晩飯なら寝過ごしても下りてきたら何時いつでも出してやる」


「ああ。じゃあ、遠慮なく休ませてもらうよ」



オッチャンに声を掛けて部屋に戻る。

そんなさくらの背中を見送ると、店内は安心したかのように深くため息をく。

『事件』から時間が経っている。

ショックが大きかったのか、ケガをして動けないのかとか、色々心配していたのだ。

それでも、顔はまだ青褪めていたが無事に戻ってきた。

彼らはさくらがケガや打ち身を隠していないか肩や背中を『触って』確認していたのだ。



「ケガはねえみたいだな」


「しかし、顔は青褪めていたぞ」


「そりゃあな。俺だって襲われたらショックだぜ」


「お前なんか襲っても『銅貨1枚』の価値もないだろ」


「逆に『襲う方』が金ほしいぜ」


「ちげえねぇー」



賑やかに笑う男たちを見ながらオッチャンは大きく息を吐く。


警備隊副隊長が宿に駆け込んで来て『ヒナルク』の所在を確認してきた。

その時に『襲撃事件』を知って、酒場では大騒ぎになった。

誰もが『ヒナルク』を『我が子』のように気に入っていたため、帰ってこない『ヒナルク』を心配したのだ。

「犯人を捕まえて『死なない程度』に叩きのめす」と言い出す者が出た。

しかしそれをすれば『ヒナルク』は悲しむ。

何より、警備隊が捕縛して詰所に連行済みだ。

『ヒナルクを探しに行こう』とした者もいた。

しかし「自分たちが騒いだら帰りにくいだろう」という声があがり、酒場で待っていたのだった。



『銀板』にも関わらずそれを鼻にかけず、酒場にいる『銅板』や『無板』の男たちにも気さくに話しかけ、同じテーブルで酒を酌み交わす。

今まで会った『銀板』たちは、『銅板』や『無板』を見下してきた。

銀板を見せつけては『銅板』や『無板』を顎でこき使ってきたのだ。

・・・『ジョルト』のように。

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