第171話


ムカついた。

『相手』をどう見てるのか。


・・・ジョルトは『奴隷の少女たち』を『替えのきく道具』としか見ていない。


まるでエルハイゼン国が以前持っていた『聖なる乙女』たちへの解釈ではないか。



最後列よりはるか後ろに立つ私はアイテムボックスから銃を取り出してジョルトに向ける。



忘れるな。

私は『初心者』だ。

『銃の使い方も知らない』平和な世界から来たんだ。

いかりのまま』撃っては彼女たちを助けられない。



静かに息を吐き、ジョルトに狙いを定めて引鉄ひきがねを引く。

反動が強く、後ろへ身体が跳ねたが、すぐにハンドくんたちが支えてくれたため事なきを得た。

ただ光線レーザーは外れてしまったようだ。


・・・昨日、無人島で『練習』しとけば良かった。

少なくとも『威力』とか『光線の折り曲げ方』など確認をすべきだった。



その逸れた光線を、あろう事かハンドくんが『はがねのハリセン』をスイングして『軌道修正』してくれた。

光線は『ジュッ!』という音を立ててジョルトの頭を左から右へと一瞬で通り過ぎて行った。

その際にボサボサの頭部に『道』も出来たが、特にケガはないようだ。




『レーザーで焼きましたから『あの部分』には二度と毛は生えてこないでしょう』

『この世界の『永久脱毛第1号』ですね』




ハンドくんの言葉に思わず吹き出してしまった。

しかし、その時にはアチコチで笑い声がしていたため、ジョルトたちに気付かれることはなかった。




ジョルト自身は、頭部を何かがかすめて行ったのは分かったようだ。

しかし、その目線はさくらではなく『ジョルトの左側』を向いている。

そちらから『何か』が来たのだ。

『来た方角』を見るのは当然だろう。




ジョルトは周りの様子から『自分が攻撃を受けた』ことに暫くしてから気付いたようだ。

それを周りの笑った人たちに当たり散らしている。

それでも『自分の今の姿』が分からないため、なぜ笑われているのかは気付いていない。






『さくら。落ち着いて下さい』

『貴女は正統な『銀板所持者』なんですよ』




ハンドくんと『計画』を立ててたのに、思わずいかりで銃を使ってしまった。

このあとどうしよう・・・と焦ってた気持ちが、ハンドくんの言葉で『すうっ』と落ち着く。

そうだ。ここは『階級制度が息づく世界』だ。



オンナは度胸!



そうココロに言い聞かせて背筋を伸ばし、まっすぐ前を見る。




「すみません。通して頂けますか?」




さくらがそう言うと、目の前の人たちは『十戒じっかい』の映画のように左右に分かれて『道』が出来た。

突然現れたさくらに獣人の少女たちは目を丸くする。

自分たちの前に現れたさくらに驚くが、さくらはそのまま3人を庇うようにジョルトの前に立つ。

『隷属の首輪』を着けられた奴隷は主人以外からの魔法を受け付けない。

それは『攻撃魔法』でも『回復魔法』でも。

彼女たちに回復魔法を掛けたかったが、首輪がある以上それも出来ない。

そして無理に首輪を外そうとすると、その奴隷の首が締まり死んでしまうらしい。

さくらが触れば『カギ』は勝手に開く。

しかし『隷属の首輪』のカギは『主人との契約』だ。

さくらが触ってカギが開けばいい。

しかし『正式な解除』でなければ開かないなら彼女たちの生命はない。


下手なことは出来なかった。




「なんだ!キサマは!オレ様は『銀板』なんだぞ!」


「だから?」




冷たく言い放つさくらにジョルトは目を見開く。




「オレも『銀板』なんだけど?」




そう言いながら自分の身分証を取り出す。

それと同時に、最前列に陣取っていた『ジョルトの身内』たちがジョルトの前へ一斉に投げ出された。

他の人には透明になって見えないハンドくんたちに『ポポポイのポ〜イ』とされたのだ。




「警備兵さんたち。悪いんだけど『コイツら全員』捕らえてくれない?」




さくらの言葉に、騒動を遠巻きに見てた警備兵たちが広場の中央に雪崩込み、一斉に取り押さえていく。

警備兵の1人がさくらの前に出てきてお辞儀をする。

昨日さくらと一緒に『大捕物おおとりもの』をした『隊長さん』だった。




「キサマら!オレ様は『銀板』なんだぞ!」




今すぐ離せ!というジョルトの言葉に警備兵は誰も耳を貸さなかった。

昨日の『ザーニの店』やその周囲で起きた『犯罪奴隷大量出荷』の一番の功労者である『ヒナルク』からの『お願い』なのだ。

そして再び『犯罪奴隷大量出荷』の可能性があるのだ。


ちなみに犯罪奴隷を奴隷商人に売り渡した代金は『警備隊』に『功労金ボーナス』として均等に分けられる。

前回のように『警備隊以外の協力者』がいた場合、その協力者の功績によって『協力金』が渡される。

さくらの場合、『事件解決』と共に『犯罪の暴露』や『捕り逃した者の捕縛』など多岐にわたり『一番の功労者』と警備兵の誰もが認めていたのだ。





「昨日ぶりです」


「はい。あの後、捕り逃した者たちも夜の内にすべて捕縛出来たため、関係者全員の罪状と罰を確定することが出来ました」




御協力感謝します。と再度頭を下げる隊長さん。

どうやらハンドくんたちが捕らえて詰所前に投げ出したのが『ヒナルクのおかげ』だと思っているようだ。

この警備隊長は、さくらに『全幅ぜんぷくの信頼』を寄せているようで「他に指示はございますか?」と聞いてきた。

だけど「ジョルトの身分証はニセモノだ」と教えられたら、さすがに目を丸くした。

しかし、すぐにジョルトの衣服や所持品をあらためて身分証を見つけ出した。

そして、身分証を地面に置いて躊躇う事なく銃で撃った。



パーンッという乾いた音が広場に響く。

それと同時に『証明』された犯罪。

さくらの指摘通り、地面にあるのは割れた銅板に銀を纏わせて『銀板』に見せていた『ニセモノ』だった。



『犯罪は暴かれた』のだった。




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