第七章

第160話



「「さくら!」」



ふとヨルクとヒナリに呼ばれた気がして、背後の空を振り仰ぐ。

そこには雲ひとつない青空が見下ろしているだけだった。


私は顔を元に戻して目の前の城壁に歩を進める。

乾いた大地に立つ『果ての地』。

鑑定魔法だと『エンテュース』という名の町だ。

ここからが私の『冒険の始まり』。

『神々のチカラ』も借りずに生きていくための『出発点』。





私はこの大陸では一般的な旅装をしてる。

ヨルクがくれた『翼族の羽衣』は、右肩から左腰に斜め掛けで縛ってある。

左腰にはアイテムボックス化したポーチを付けているため、万引きや引ったくり防止のため羽衣で隠してるのだ。

この大陸・・・というか『アリステイド大陸』以外には翼族はいないそうだ。

だから私が『翼族の羽衣』を身に付けていても特に問題はないらしい。

ちなみに『見た目』は茶髪茶眼の中性的な顔。

これはメニュー画面から弄ったので『見破り』の魔法でもバレない。

そして『口が悪いのはヨルク譲り』だ。

これで『女顔の男』に見られるだろう。





城門で銀板の『身分証』を見せる。

名刺大の無地だが、中には情報が詰まってる。

銀板だと、どこかへ行って更新する必要がないらしい。

別に私の場合は、メニュー画面から更新すればいいので楽だが。

これはこの大陸で必要になるということで、事前に神が用意してくれたものだ。


・・・『餞別』ともいう。



銅板が『一般用』か『奴隷用』らしい。

これだと色々な制限があるらしく、町に立ち寄るたびに更新を強要させられては手数料を取られたり、滞在日数が最長で10〜20日とか、滞在の料金を払わせられたりするそうだ。

奴隷は『ご主人様』の身分証によって滞在日数が決まるらしい。

他には金板もあるが、こちらは『王族や貴族』とのこと。


そして『身分証』を持たない者は、毎回銀貨3枚を支払って『鑑定石』に手を乗せる。

賞罰によっては門前払いになる。

ワイロは?と思ったが、門番は勤務交代時に『鑑定石』で確認させられる。

ワイロを受け取ると賞罰欄に『収賄』が追加されて、家族と一緒に『犯罪奴隷』にされるらしい。

色々と厳しい仕事だけど、その分給金が高いそうだ。




「名前は?」



人の良さそうな門番が銀板を石の台に乗せながら聞く。



「『ヒナルク』です」



名前はヒナリとヨルクから付けた。

私は『2人の子供』だもん。

別にいいよね?



「入っていいよ」


「ありがとう。ついでにメシの美味い宿屋ってある?」


「それなら『銀馬亭』がいいだろう。前の道を真っ直ぐ行けばある。『門番のジグに紹介された』って言ってくれると助かる」


「ああ。分かったよ」



身分証を返してもらって、紹介された『銀馬亭』に向かうことにした。

門番から紹介されたと言えば、門番には『紹介料』が支払われるらしい。



メニュー画面を出して『MAP』を出す。

目の前に透明なMAPが現れた。

ちょうど元の世界にあった『AR』に似ている。

これなら表示したまま歩ける!

もちろん縮小して『視界の端』にすることも可能だ。


このMAPも便利な機能がついている。

現在地に『青の下三角』が。

目的地に『緑の下三角』が。

そしてその道程に『小さい白のドット』が表示されている。

そして自分が歩いた道はドットの色が『黄色』になる。

AR表示なら道の上にドットが現れている。


・・・アレ?『赤色』がない。



『赤は『危険』表示だそうですよ』



ハンドくんがチャットで教えてくれる。

此処ここではハンドくんとはチャットで会話をすることにした。

私とハンドくんだけだと、ホワイトボードに書く必要がないからね。

ホワイトボードだって、最初は『普通』のホワイトボードだったのに、いつの間にかハンドくんの思念を映し出すタイプに『進化』してた。


ハンドくんも私と同じメニューが使えるから、創造神たちから色々と説明を聞いてあるみたいで『使い方』を教えてくれる。

ちなみに私のチャットは現在『ハンドくん以外着信拒否着拒』状態。

ハンドくんは神々とのチャットは繋いだままかな?

それに『神々やドリトスたちの世話』で大半のハンドくんたちが神の館に残ってるし。

呼べば来てくれるし、呼ばなくても『族長』のハンドくんが必要に応じて集めてくれる。

族長と副族長の2人は執事が使うような『白い手袋』をはめている。

他のみんなは『神の館』では『半透明』だけど、それ以外の場所では『透明』になっているらしい。

私には普通に『ほっそりとした白い手』で見えている。

だから私には『手袋』か『素手』の違いでしかない。

他の人と違って見えるのは「なんでー?」と聞いたら、それは私が『創造主ですから』との事。

創造主の前で『姿を隠す』のは『非礼』にあたるらしい。



「気にしないのに・・・」



そう言ったら『『親しき中にも礼儀あり』です』とハンドくんに言われたよ。

「でも、私の嫌いなクスリを無理矢理飲ませるじゃん」と言ったら『それは『仕事』です』とバッサリ切られちゃったっけ。


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