第159話



ドリトスたちは同時に飛び起きた。

そして『さくらが眠っていた』場所に目をやるが、そこにさくらはいない。


「そんな・・・」


ヒナリがショックで言葉を失う。


「うわっ」という声とともにジタンが入り口に姿を現した。

どうやらハンドくんたちに連れてこられたようだ。


「ジタン。さくらが・・・」


ヨルクの言葉にジタンはやはりショックを受けるが、すぐにまっすぐな表情で「このことは国民には内緒にしましょう」と言い切った。

いなくなったと聞けば、騒動も起きるだろう。

「自分たちを見限っていなくなった」とウワサされる可能性もある。

そうなれば、一番ツラいのはいずれ戻ってきた時にその事を知ったさくらだ。


「さくら様は『この世界を知るため』に出かけられたのです。ですから『神の館この家』に必ず戻られます」



「さくらは・・・さくらは私たちのもとへ帰って来るのですか・・・?」


ヒナリは泣いて赤くなった目をみんなに向ける。

しかし、その目には力強い『意思』を秘めている。


「すぐかどうかは分からない。しかし時間がかかってでも帰って来ると『信じている』」



セルヴァンの言葉にドリトスとヨルク、ジタンの3人は頷く。



「ヒナリさん。さくら様は『行ってきます』と仰られました。それは『帰ってくる』つもりだからです」



そう。ジタンの言う通り、さくらは「行ってきま〜す」と言ったのだ。

そしてあの時だけさくらは姿を見せて笑顔で手を振っていたのだ。

さくらのことだ。

『帰ってくる気がない』なら「じゃあね」「元気でね」「バイバイ」だろう。

「お世話になりました」と言って頭を下げるだろう。



「なあ。ヒナリ。此処は『さくらの帰ってくる場所』だ。だから待っててやろう?」


「僕は『植物の研究』を続けます。いずれさくら様がお戻りになられた時に『少しでも成果をご報告』出来るように」


「そいつが上手く行ったら『桜』を育てようぜ!」


「いえ。桜だけでなく様々な『さくら様の世界の植物』をこの国内外で育てようと思っています。それは『この世界の瘴気を薄める』ことに繋がると思っていますから」


「私も!私にも手伝わせてください!」



ジタンとヨルクの会話にヒナリが顔を上げる。

そんなヒナリにジタンは「もちろんです。一緒に頑張りましょう」と手を差し伸べた。






「本当にキミたちには驚かされる」


突然男性の声がしてジタンは現れた男性の姿に驚く。


「ジタン。この世界の『創造神』だ」


ヨルクの言葉にジタンは胸に手を当てて頭を下げる。

ジタンは何度か神々と会ったことはあるが、創造神とは初対面だったのだ。

その姿に頷いた創造神は、全員を隣の部屋へと移動させる。

座卓には『手袋をしていないハンドくん』が待っていた。


「さくらはキミたちの世話のためにハンドくんたちを残した」


それはつまり『ここへ戻ってくる』ことを意味しているのだ。

そしてハンドくんはテレビのリモコンをパチパチと弄ると、荒野の中にある城壁に向かって歩く『茶髪の少年』の後ろ姿が映った。


それはドリトスでなくても分かった。



「「さくら!」」


ヨルクとヒナリが声を揃えてテレビに呼びかけた。

すると2人の声が聞こえたのだろうか。

『さくら』が立ち止まり後ろを振り向く。

そして、そのまま振り仰いだ。

じっとこちらを見たさくらの目には『決意』が浮かんでいる。

さくらはそのまま城壁に目を戻すと再び歩き出した。



映像はそこで途切れた。


「キミたちが心配するだろうから『時々』見られるようになっている」


「ありがとうございます。それだけで十分です」


ヒナリがまっすぐな目で創造神を見る。


「さくらは『自分の選んだ道』を歩き出したのです。だから私たちは『自分たちの出来ること』をしながらさくらの帰りを待ちます。さくらが帰ってきた時に恥ずかしくないように。胸を張ってさくらに『おかえり』と言えるように」


ヒナリの『決意』に誰もが頷く。


その様子に創造神は「さすがだな」と関心する。

以前はさくらが2時間『外出』しただけで取り乱したヒナリだったが、今は『いつ帰るか分からない』さくらを待つという。

それも『自分の出来ること』をしながら。



「では『いいこと』を教えよう」


これはさくらの使う身分証を作る際に『どんな名前にするのか』聞いた時の言葉だ。



「名前?だったら『ヒナルク』で。だって、私はヒナリとヨルクの『子供ヒナ』だもん。だから2人から名前を貰っていつも守ってもらうの」


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