第140話
ハンドくんの話では、今いるこの島は『さくらが魔法を試すための島』らしい。
ハンドくんたちもここで魔法を練習しているそうだ。
確かに『何もない』ため色々と試すのに最適な場所だ。
そして『さくらが初めて
神々が以前話していたように、この島の瘴気はエルハイゼンより薄い。
さくらの身体を瘴気に慣らすには確かに良い場所だ。
そして『あの』さくらだ。
遊び半分で色々と魔法を試していたのだろう。
それこそ『新しいオモチャ』を見つけた幼子のように。
それを考えるとハンドくんがあれほど強いのも納得出来る。
決してボルゴたちが弱い訳ではない。
ボルゴは獣人族の中でもセルヴァンの次に強いのだ。
そのため身の丈に合わない野望を持ち、セルヴァンを
ただし、それは『セルヴァンの怒気で気絶する』という不名誉な結果を
そして先程の牢屋での鉄格子越しでの再会。
セルヴァンに憐れみに似た目を向けられたボルゴ。
いつも自分より優位に立ち、自分より先を行くセルヴァンにボルゴは長年ひた隠しにしてきた『真実』をぶつけることにした。
「セルヴァン。キサマの女房は事故で死んだんじゃない。『お・れ・さ・ま・が!殺した』んだ!!」
ボルゴの『告白』にヨルクとジタンは慌てる。
しかしセルヴァンは冷ややかにただひと言「知ってる」と言っただけだった。
その言葉に逆にボルゴの方が驚いた。
「ウソを
「嘘ではない」
そう。王城を襲って自分の前に現れたボルゴ。
そのボルゴの身体から漂った
その中から微かに漂った『妻の香り』。
それは『犬種』であるセルヴァンだからこそ。
『夫』だからこそ『妻の香り』を嗅ぎ取ることが出来た。
その瞬間。セルヴァンは自己を見失い、最大級の『怒気』を放ちボルゴを気絶させていた。
王城内ではセルヴァンの怒気で目を回したり立っていられなくなった者たちで
セルヴァンは自分がどうやって冷静を取り戻したのか覚えていない。
ただ、目の前で倒れている男を手にかけることはしなかった。
『手を下す価値はない』
そう判断したのだ。
セルヴァンは『母を事故で亡くした』子供たちに言っていないことが『ひとつだけ』ある。
・・・彼らは母と共に『妹』も亡くしたのだ。
この世で産声をあげることも叶わず、母と共に消えた生命。
だからといって『さくら』を『亡くした娘』のかわりにする気はない。
『さくらはさくら』なのだ。
『ボルゴの反乱』から感情を失くした自分に『笑顔と
初めて出会った『あの日』からセルヴァンにとってさくらは『かけがえのない女神』なのだ。
ボルゴと彼の仲間たちは捕らえられてセリスロウ国を永久追放された。
それまでの『功績』から減刑されたのだ。
彼らは間違いなく国内に現れる『魔獣や魔物の討伐』でチカラの弱い獣人族たちから感謝されてきたのだ。
それが『持て余したチカラ』を発散するためだったとしても、だ。
そんな彼らだったが『同種』である仲間たちからも忌避され、誰一人として擁護する者はいなかった。
それも仕方がないだろう。
彼らは『養護院』と呼ばれる施設を襲ったのだ。
そこは魔獣や魔物に襲われて『家族を亡くした孤児』や『働き手を亡くした女性たちが職を身につける』ために身を寄せている施設だ。
獣人族は『自分より弱き者』を庇護する性分だ。
それは『熊種』であっても変わらない。
ボルゴはそこを襲い、『弱き者』を惨殺して施設を全壊させたのだ。
流石に擁護の声はあがらなかった。
残念ながら『生存者』が一人もいなかったため、『施設の崩壊』が原因と国内外に公表された。
そして『『ボルゴの反乱』と時を同じく起きた事故』とされていた。
その施設に王妃がいたのは偶然だった。
王妃はこことは別の施設の『出身者』だ。
そのため不定期で非公表だったが『自分と同じ立場の子供たち』を励ますために各地にある施設を回っていたのだ。
そして寡婦のために『働ける場所』を自ら探して来ては施設に紹介していた。
・・・そして『惨劇』に巻き込まれた。
ただ『誰も事実を知らない』訳ではない。
国民は母を亡くしたばかりのセルヴァンの子供たちに『真実を教えて傷つけたくなかった』のだ。
そのため、末のアムネリアが成人している今は誰もが『真実』を知っているだろう。
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