第124話
「・・・『役立たず』なの?」
さくらの言葉の意味が分からずジタンは「え?」と返す。
「あのね。『お隣の人』とかジタンの周りにいる人たちってお仕事が出来ない『役立たず』なの?」
「いえ!そのようなことは決して」
「じゃあ。なぜジタンが一人でお仕事抱え込んでるの?なんで『お手伝い』してもらわないの?みんなには『任せられない』の?・・・そんなに『信用出来ない』の?」
さくらの言葉にジタンは初めてハリセンを受けたとき同様・・・それ以上に衝撃を受けた。
ジタンは決して『信用していない』のではない。
『皇太子』時代は仕事も少なく気になったことは自分で動いていたため、その体質が『国王代理』になって仕事が増えても抜けていないのだ。
「部下に上手にお仕事を割り振りするのも『上に立つ者』の仕事だよ?」
『ジタンよりさくらが国王になった方が『この国のため』になりますね』
「えー。ヤダよ。
国王という最高位を『面倒い』の一言でスパッと拒否するさくらにジタンと補佐官は苦笑する。
「さくら様。今すぐには無理かもしれませんが少しずつでも変えていく努力をしていきます」
ジタンの言葉にさくらは笑顔になった。
しかしその笑顔は長く続かなかった。
「さくら様。お話が御座います」
「その話は待って下さい!今はダメです!」
執務補佐官がさくらに『お願い』を口にしようとして、珍しくジタンが慌てて止める。
しかし補佐官は「実は・・・」と話を続けた
リビングでヒナリを落ち着かせようと頑張っているヨルクを見守っていたドリトスにハンドくんが【ジタンの部屋へ来て下さい】とホワイトボードを見せる。
【さくらに何かあったのか?】とセルヴァンが書くと【さくらを此処には戻せませんから】と書かれてヒナリを指し示す。
「確かに。・・・セルヴァンが此処に残っていた方が良さそうじゃな」
ドリトスの言うとおり、ヒナリが手をつけられなくなりヨルクでは抑えられない状態になった時を考えればセルヴァンが残った方が良いだろう。
「さくらを連れて『温室』におるからのう」
「分かりました。さくらの事を頼みます」
『屋上庭園』に行かないのは、ヒナリが何度も探しに行っているからだ。
ハンドくんが温室にさくらがいるときは温室に結界を張ってくれるから『害意』を持つ者が近付いても安全だ。
何より『さくらの親衛隊』が遠巻きにガードしてくれるだろう。
彼らはさくらのジャマをしないために『視界に入らない』ように気をつけているのだ。
・・・もしもの時は、さくらだけ『鉄扉』から逃がす。
ドリトスとセルヴァンはそう決めていた。
ハンドくんにも『相談済み』だ。
『もしも』の時になればさくらは『自分一人だけ逃げる』のを嫌がるだろう。
その時はハンドくんたちに多少強引でも、さくらを鉄扉の中へ運んでもらうためだ。
襲撃者の狙いは間違いなく『さくら』だ。
襲撃は『失敗』になるのだから。
何よりドリトスとセルヴァンの2人は『強い』。
ヨルクも『魔法攻撃』は得意だ。
ヒナリは『攻撃魔法』は苦手だが『守備魔法』はけっこう得意な方だ。
だが、そんな彼らも『怒気に弱いさくら』を守って戦うとなれば、制限されてしまう。
それなら『誰もが無事』で済ますには『さくらを安全な場所へ逃がす』のが一番なのだ。
セルヴァンはヒナリとヨルクに目をやる。
ヒナリが落ち着けばハンドくんがドリトスに教えるだろう。
自分たちが迎えに行ってもいい。
セルヴァンはヒナリの様子を見て深くため息を吐く。
今のヒナリはさくらの名前を繰り返し呼びながら泣きじゃくっている。
その姿は『怒気騒動』でさくらがいなくなった時のヒナリと重なる。
唯一違うのは、今回の原因が『ヒナリ本人』だという点だ。
そのため、泣きながら謝罪しているのだ。
ヨルクはヒナリの気持ちが分かっているからセルヴァンたちの手を借りようとしない。
セルヴァンたちも分かっているから手を貸さないで見守っていた。
・・・しかし、それもそろそろ限界に近かった。
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