第六章
第119話
「ジッターン♪」
さくらがジタンの執務室へ顔を出した。
「さくら様?
「あのね。『おこづかい』ちょ~だい♪」
「『お小遣い』・・・ですか?」
ジタンの言葉に「うん」と頷いて嬉しそうに笑うさくら。
「あのね。町に出て『食べ歩き』して来ようと思ったの」
「皆さんはご存知なのですか?」
「んーん。知らな〜い」
笑顔で顔を横に振るさくら。
「でもね。ちゃんと『ハンドくんとお外に行ってくる』って伝言は残してきたよ」と自慢するように話す。
ヨルクが何も言わずに繰り返しいなくなるため『ヨルクよりエライ』と思っているようだ。
その後ろからはハンドくんがハリセンを手にジタンに脅しをかけている。
・・・そんなことしなくてもお渡ししますよ。
町に出られるなら銅貨が多い方が良いでしょう。
ジタンは机の引き出しを開けて、中から袋を取り出す。
「中に数枚の銀貨と50枚近い銅貨が入っていますよ」
「わーい!ありがとう!」
さくらは渡された袋を腰につけたポーチに入れる。
それにしても・・・
「その『御姿』で出掛けられるのですか?」
そうジタンに尋ねられると「ヘンかな〜?」とその場でクルクルと回る。
今のさくらは変装しており、見た目は町に住む『少年』と大差はない。
そう。
衣装は『城下町に住む普通の少年』そのものだが、見た目も赤茶色の
「よくお似合いですよ」
そう誉められると笑顔になって「じゃあ、行ってきまーす!なにか『お土産』買ってくるね〜」と大きく手を振って執務室を駆け出して行った。
「ジタン様。今の『少年』は・・・?」
「さくら様です」
変装されて
さくらと入れ違いに執務室へ入ってきた執務の補佐をしているジタンの幼馴染にそう答えると「ああ。やはり」と頷く。
何に対して納得しているのだろうか。
そうジタンが聞くと「御自身の『今の顔』を見てご覧なさい」と言われてしまった。
立ち上がり、後ろの窓ガラスに顔を
下に目を移すと、庭園内を駆けていくさくらの姿があった。
どうやらハンドくんは『王城内』を調べ尽くしているのか、兵士たちに見つからない城下町へと続く『
後ろから突っついたハンドくんに促されたのか振り向いたさくらが2階のジタンに気付いて笑顔で大きく手を振る。
それに応えるように手を振り返したジタンは窓ガラスに映った自身に驚いた。
目尻を下げた表情は『さくらバカ』代表のヨルクと何ら変わらなかった。
「ようやくお気付きになられましたか?さくら様の話をされる時は、いつもその表情になっていますよ」
公式の場で『さくら様の話』をされる時は御注意下さい。
ようやく気付いたジタンに苦笑しつつ、苦言を呈するのを忘れなかった。
「たっだいまぁー」
はい。ジタンにおみやげ〜。とジタンが渡されたのは木箱。
中には白い球体がついた『カフスとタイピンのセット』が入っていた。
「これねー。私の世界では『真珠』っていう宝石なんだよ」
なんでも、朝市でさくらが出会った青年の作品らしい。
青年は海辺で取れる貝を加工調理する仕事をしていたが、今は貝の中から時々見つかる『真珠』でアクセサリーを作って販売しているそうだ。
「でもね。そういう『新しいこと』って『有力な
でね。ジタンがスポンサーになってくれないかな?
この国の『新しい特産品』になったら国も潤うよ?
さくらの話だと、元の世界では『真珠で有名になった町』もあるらしい。
貝殻の表面を削って作る『カメオ』という物を特産品にしている国もあるそうだ。
ジタンは木箱に入れられたタイピンを手に取ってみる。
確かにさくらが『宝石』と言っただけのことはあって美しかった。
「あとね。そこには『珊瑚』もあるんだって。まだ数点しかアクセサリーに加工出来てないって言ってたけど」
珊瑚もアクセサリーになるんだよ。
どこか必死なさくらに気付いて『何か気になった事』があるのか聞くと、さくらはクチを閉ざして俯いた。
『エラソーで悪そーでオツムが不出来な奴』が青年を『田舎者』と
そして周りの人々は『男や取り巻き連中』に恐れを為したのか、誰一人青年を庇おうとしなかった。
さくらはそれが『悲しかった』のだ。
「さくら様は?」
「助けに行ったよ。そうしたら『ガキだから分からんだろうから教えてやる。誰につけば『いい暮らし』が出来るか』って言われたの。『キレーな顔だから『イイ声でナケば最上級の暮らし』が出来るぞ』って」
でもハンドくんたちが『騒動』を起こしてくれたため、さくらは青年とその場から逃げ出すことが出来たそうだ。
青年の荷物はハンドくんたちが瞬時に片付けて運んでくれたらしい。
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