第120話
「この世界って『歌手』は裕福な生活が出来るのかな?この世界の『歌』って『賛美歌』なのかな?」とハンドくんに聞く。
『ヒナリが『子守唄』を歌っていたこともありますよ』と教えられたさくらは「そういえば歌ってくれたね」と笑っている。
さくらの言葉にジタンは青くなっていた。
さくらは気付いていないようだが『囲い者』として目をつけられたようだ。
ハンドくんたちが騒動を起こしたという事実がある以上、そこから調査をさせれば相手が誰だか自ずと分かるだろう。
「さくら様。アクセサリーを売っていたその青年は自分に似ていませんでしたか?」
執務補佐官に声をかけられて彼を見上げる。
「・・・似てる。よね?ハンドくん」
『はい。違うのは『髪と肌の色』でしょう。例えるなら、あちらは『日に焼けた海の男』で、こちらは『日にあたらないモヤシ』ですね』
ハンドくんの出したホワイトボードの言葉にさくらはクスクスと笑い出す。
『モヤシ』を知らない2人だったが『誉められていない』ことは分かった。
「さくら様がお会いした青年は実弟です」
とんだ御迷惑をお掛けしまして。と頭を下げる執務補佐官にさくらは「悪いのはアッチ!」と言い切る。
そして「兄弟でしょ!何で弟を庇ってあげないの?何にも悪いことしてないのに!」と怒り出す。
彼は『弟の事でさくら様が巻き込まれた』事に謝罪しているのだが、さくらには謝罪される理由はなかった。
助けに飛び出したのは『さくら自身』の意思だからだ。
両者の意思をジタンは把握したが、
・・・それだけは何としても阻止したい!
さくらの怒りを抑えるには『一つ』しか思い当たらなかった。
「さくら様。先ほどの『真珠』と『珊瑚』の件は前向きに検討させて頂きますね」
そうジタンが言うとさくらの怒りはすぐに消えて笑顔になった。
笑顔で最上階の部屋へと帰って行ったさくらだったが10分も経たずに『変装した姿』で戻ってきた。
それも『空間をとび越え』て・・・
ソファーで泣きじゃくるさくらを抱きしめて落ち着かせていたら、気付くと泣き疲れたのかジタンに
隣の仮眠室のベッドにさくらを寝かせたジタンは途中で投げ出していた執務を早く片付ける事にした。
そうすればさくらとの時間を作ることが出来る。
何があったのか、ゆっくり話を聞いた方が良さそうだと判断したからだ。
「おーい。ジタン。ちょっとイイか?」
「どうぞ。・・・一体どうされたのです?」
ヨルクが疲れた表情で執務室に入ってきたのだ。
「なあ。さくらがコッチに来てないか?」と言いながらヨルクは室内を見渡していたが「ここにもいないかー」と大きく息を吐いて崩れるようにソファーに座り込む。
「何があったのですか?」
ヨルクの話だと、起きたらさくらがいなくなっていた。
『ハンドくんたちと一緒に外へ出掛けてくるね』という伝言が残されていたのだが、ヒナリが過剰というか異常なくらいに心配をした。
そして帰ってきたさくらの話も聞かず「勝手に何処へ行ってたの!心配したのよ!」と頭ごなしに怒ってしまった。
さくらは「心配しないように『置き手紙』を残していった」のだ。
それでも心配したのはヒナリの方だ。
ヨルクたちも『ハンドくんが一緒だから』と言ったのだがヒナリは町へさくらを探しに行こうとまでしていた。
それはハンドくんと神による二重の結界に
なんでヒナリが怒っているのか分からないさくらだったが、その様子が更にヒナリの怒りに火をつけてしまった。
そして感情が高ぶっていたヒナリが思わず「さくらのバカ!もう知らない!」と言い放ってしまったのだ。
その言葉にショックを受けたさくらはその場から『文字通り』消えてしまった。
それを見たヒナリは悲鳴をあげて部屋から飛び出した。
狂ったように部屋から屋上庭園までさくらの名前を叫びながら探し回ったが見つけることは出来ず。
半狂乱になって手がつけられなくなったらしい。
「いまのヒナリは何を言ってもダメなんだ。『怒気』の一件で『さくらを失う恐怖』を。『エルフ族の襲撃』で『さくらを
ヨルクは言葉を濁す。
魔法で眠らせると『眠らせる前の感情』を半減させられるが、高ぶった感情の場合はそのまま残ってしまう事がある。
いまのヒナリでは目覚めてもたぶん半狂乱のままだろう。
目覚めたときにさくらがいれば落ち着くだろうが・・・
でもそれは『オレたちの都合』だ。
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