第55話



この王城内では、さくらを支持する者があまりにも多い。

そして、彼らの決め事に『最上階へ上がらない』がある。

せめて最上階だけでもさくらが自由に動けるようにとの配慮だ。

ただ、さくら自身は寝込んでいて、自分で動き回ることは無かったが。



相手が天罰を下されるほど『悪い行為』を受けたのに、『天罰騒動』では対応を指示しただけでなく、たくさんの『乙女の魔石』を無償で提供された。

そのおかげで、数多くの人たちが救われることになった。


またジタンが指摘された『聖なる乙女への待遇』に対する意識改革も進んでいる。

『自分が見知らぬ土地で1人放り出されたら?』

それを今まで考えてこなかった『この世界』にとって大きな衝撃となっている。



さくらは、その後寝込んでしまったため、そのことは知らないだろう。





「そんな事すれば、『神の加護』より『神の怒り』を買うだけだろ」


昨日の『光の人形ひとがた』が神様だと言われた。

冷静に考えれば、さくらへの『気遣い』が溢れていた。

さくらはなんらかの『事情』があって、ここに『連れてこられた』のだろう。

それにどう神が関わっているのか。

それはわからない。

だが、神はさくらを大切に思っている。

いつも見守っている。

だからこそ、『あの瞬間』にさくらを守ることが出来たのだろう。



「『瘴気』は理性を無くし、欲望をさらけ出す・・・その結果が、昨日の『飛空船事件』だ」


セルヴァンの説明に納得する。

コーティリーン国のエルフたちとは仲が悪いが、今まで攻撃を受けたことはない。



「・・・さくらの身体が弱ってるのは『強い悪意を受けたから』だけなのか?」


さくらからは『別の悪意』も感じる。

でも、それをここで口にしたら、きっとヒナリが泣く。



「どうした?」


「ちょっとジタンのとこ。すぐ戻るから」


立ち上がったオレにセルヴァンが声をかけてきた。

ヒナリがついてこようとしたけど、アイツはさくらについててあまり寝てないからな。

少し休んでろ。







「おーい。ジタン。ちょっと良いか?」


勝手知ったるジタンの執務室へ、部屋主の許可を待たずに勝手に入る。

真面目に『国王代理』として机に向かってたジタンが驚いた表情で立ち上がる。


「ヨルク!貴方いったい何処どこへ行っていたのです?」


「あー・・・家?」


オレの言葉に盛大なため息を吐かれた。

そんなことはどうでもいい。

確認したいことがある。


「単刀直入に聞く。さくらの身体はいつから『呪われている』?」


「ちょっと待って下さい!それはどういうことですか!」


「どうもこうも。その言葉のまんまだ」


オレの言葉に驚くジタン。

やはり『誰も』気付いていなかったのか。



昨日1日さくらを見ていたが、何度か胸を押さえていた。

呼吸もあまり深くない。


「さっきセルヴァンからここにきた頃のさくらの話を聞いた」


聞く限り、普通に元気な様子だった。

しかし、昨日抱き上げて気付いた。

さくらは自分で身体を支えられない。

足もチカラが入っていない。

セルヴァンがずっとさくらを抱えていたのもそれが理由だろう。

腕のチカラも弱く、ものを上手く掴めていない。

姿を消したハンドくんに支えられて一人で食べているように『見せている』だけだ。



・・・では、いつから弱くなった?


「さくらの『暗殺未遂事件』からじゃないのか?」



昨日、ハンドくんから『普通の病気なら神が治せる』と聞いた。

逆に『精神疲労は治せない』とも。

では『高熱で弱った身体』は身体の負担を考えるとゆっくりになるだろうが『治せる』のではないか?

それで「今の弱った身体は?」と聞いた。

しかし、ハンドくんはすぐに返事をしなかった。

そして返ってきたのは『治せない』だった。



「『治せない』のは、原因が『呪い』だからじゃないのか?」



そして高熱が長引いて今でも寝込んでいるのも・・・


「さくらの身体が呪いに抵抗し続けているからとは考えられないか?」




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