第21話




「ところで、明日以降はどうする?」


私としては、いずれこの世界に召喚されるという『聖なる乙女』とは一度挨拶しておきたいんだけど。

この世界の市井の事も知りたいし。


かといって、連中が用意した『私の部屋』に細工がないとは思えない。

細工がなくても『立ち聞き』とか『監視』とかされるかもしれない。

さっきまでのやり取りで信用失墜したからね。

お互いに。


「部屋に結界を張ったらどうなる?」


アリスティアラたちと連絡取れる?

実はそれが一番心配。

結界を張っていない部屋で、いつもみたいに『私の前にお出まし』したときに、世話係とか監視者とかいたら『目撃』されて大騒ぎになるかもしれない。


トントントンとテーブルを叩く音がしたためそちらに目を向ける。

ハンドくんたちがいて「どうしたの?」と聞いたらお互いを指さした。

すぐに理解した。

「うん。もちろん私の世話をしてくれるんだよね」と言ったら『OKマーク』を見せてくれた。


そう。私には『立派なお世話係』がたくさんいる。

『ボディーガード』と『見張り役』、どちらに世話をしてもらいたいか。

そんなの『信頼出来るボディーガード』に決まっている。


ただ、結界内だとどうだろう。


私の魔法は『思った通り』になる。

普通の魔法では『自分が空に浮かぶ』だけでも、私は『空を飛ぶ』事も『宙に浮く』事も『物や人を浮かせる』事も出来る。

実際に別荘の周辺の海を『宙に浮いて』歩くことも出来た。

普通に海に潜る事も出来るが、『空気を身に纏い』濡れずに潜ることも出来る。

もちろん濡れても瞬時で乾かせるけど。


結界を張るときに『アリスティアラを含めた神々やハンドくんたちだけ出入り可能。連絡可能。ネット環境もOK』としたときに、何か不具合は起きないだろうか。


「問題があるとしたら、部屋の外で何かあっても分からない事でしょうか?来客・・・特に乙女が同郷ということで、話をしにくるかもしれませんし」


「あと、連中が召喚獣や聖霊や妖精を使える場合。自由に入れちゃうよね。妖精とか聖霊とかは基本気紛れだけど、仲良くなっちゃった以上『排除対象』にしたくはないな」


乙女は、ネットで購入した『元の世界』の食べ物や飲み物があるから、きっと来るだろうね。

来訪が分からないなら、マンションへ戻ってる時と変わらないよね。



でも「ちょっと『部屋』に戻る」って、乙女の前ではやりたくないんだ。

乙女にしてみれば『二度とふれることの出来ない元の世界』に、私はふれ続けることが出来る。

この世界のどこにいても、テレビを観たりネットをしたり、ネットで買い物も出来る。

でも、乙女のスマホやタブレットは、私と違って使えなくなるそうだ。


もし、私が『逆の立場』なら「うらやましい」し「ねたましい」し「ズルい」と思う。

憎く思って八つ当たりをしてしまうだろう。


特に転移直後は、『二度と戻れない』事実を知ったら辛くて苦しくなる。

半狂乱になる。

私が『そうならなかった』のは、『マンション1フロアごとの転移』だったから。

もちろん『元の環境が変わらず使える』って事も大きいが、家ごとの転移は『自分が一番安心出来る場所テリトリー』があるから。


今までの乙女たちが、館から一歩も出ないで引きこもっていたのも『安心出来る場所』が館しかなかったからじゃないか?

そして『自分に優しい世界』で『悲劇の少女』を演じていることで、きっと『自分を保っていた』のだろう。


これからこの世界へ連れてこられる『聖なる乙女』を自分に置き換えたときに、私はエルハイゼン国の庇護を受けて生きる選択を止めた。

私は『聖なる乙女』と同等の立場で、不自由のない生活が保障されている。

そういわれたけど、ただ周りに流されて、与えられた環境で生きていくのは『動物園の動物』と変わらないと思った。

違うのは『見物人がいない』だけだ。





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