Killer classC

@strider

Phase01 狙撃

 ミチルは朽ちかかったコンクリートビルの屋上に腹ばいに寝そべり、淵から身を乗り出して、拳銃をかまえた。


 この銃の有効射程距離は二十メートルほど。ターゲットがいるのはビルから三十メートル先の路上だ。ビルの高さを合せれば、四十メートルくらい離れている。有効射程の二倍。届かない距離じゃないけれど、当たるかどうかは運次第だ。


 もう少し近くから狙おうか?


 いや、ダメだ。

 相手は周辺敵意監視装置セーフティーゾーンを身に付けている。これ以上近づけば、狙っているのがばれてしまう。


 ミチルは呼吸を整えて、引き金に指をかける。

 一発で仕留めなくてもいい。乱発して、どれかが急所に命中すれば、それでも任務は達成だ。綺麗じゃないけれど仕方がない。A級の殺し屋じゃあるまいし。殺しの美学を語れるほど、ミチルの技術は高くない。


 引き金を引く。

 高い音が空を裂く。

 ターゲットの背後で薄っすらと白煙が上がる。

「ちっ!」

 外した。


 もう一発だ。


 ターゲットの隣には二人のボディーガードがいる。

 一人は身を挺してターゲットをかばい、もう一人は銃を出して周囲を見回している。


 シューン。パン。

 今度はターゲットの足元から煙が出た。

「そこか!」

 銃を持ったボディーガードがミチルに気づいた。

 ズギュン。

 ボディーガードが打った弾はミチルのいるビルのはるか上空へ消えた。

「ふんっ」

 ミチルはボディーガードを気にせずターゲットを狙う。

 シューン。ドッ。

「うがぁ」

 弾がターゲットの足に当たった。

 痛みに悲鳴を上げながら、ターゲットが屈む。

 ボディーガードは折り重なるようにして、自分の体でターゲットを包んだ。

 ズギュン。

 もう一人のボディーガードがミチルに向けて二発目を撃った。

 弾はミチルの寝そべっている数センチ下の壁に当たった。

 立ち上る煙のにおいにむせそうになる。

「くそっ!」

 シューン。シューン。シューン。

 ミチルは銃を連射した。

 三発の銃弾のうち、一発はターゲットの方向に飛んだ。しかし、ボディーガードの背中に遮られて、ターゲットには当たらない。ぐうぅ、と地面に倒れるボディーガードの体の下から、ひいぃ、と悲鳴を上げてターゲットが出てくる。

 いまだ!

 ミチルは引き金を引いた。

 カチッ。カチッ。

 まずい。弾切れだ。

 ズギュン。

 また、ボディーガードが打った。

 銃弾がミチルのほほをかすめた。

 ジュッと音がして、皮膚が裂ける。

 ダメだ。撤退だ!

 ミチルは屋上から乗り出していた体を引っ込めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る