先輩と後輩では終われない!

プラネタリウム

後輩は言った「お友だちになりましょう」


 いつも通りの帰り道、俺はいつも通り本を読みながら学校から少し歩いたところにある下り坂を歩く。

 首元に巻いたマフラーが暖かく、ホカホカする。

 今日読んでいるのはライトノベルだが、別に他の本を読まないわけではない。

 つまり、何が言いたいかというと、俺は断じてオタクではないということだ。


「でも〜、先輩って基本ライトノベル読んでますよね?」


 そう問いかけてくるのは、たまに帰り道に見かける一年下の後輩だ。

 少しだけギャルっぽいイメージの茶髪をポニーテールにしており、肌白い文句なしの美人……いや、かわいい系女子だ。


「偶然だ」


「いや〜、二週間連続でそれは厳しいんじゃないかと思うんですけど……」


 何っ!?

 この後輩、二週間も俺のこと見てたの?


「……ストーカー……」


「ひどいです先輩。こんなかわいい後輩から毎日見つめられていたのに声かけてくれないなんて……」


「いや、気づかなかったんだけど……」


「マジですかっ!」


「マジで」


 意外なことに、声をかけてもらえるのを待っていたらしい。

 本気で気づいていなかったことを伝えると、「ヘタレなだけかと思ってました」と、ショックを受けていた。

 誰がヘタレだこのやろう。


「で、なんか用なわけ?」


「そうです、それです先輩! 私とお友だちになりましょう!!」


「――は?」


 なぜに?

 俺にはこの後輩の考えていることが何一つ分からなかった。

 ただ、本気で言っているという事実だけは、なんとなく分かった。




 ◆




 まず第1段階。

 先輩に声をかけることには成功しました。

 この先輩、ヘタレなだけかと思ってましたが、まさか本気で私の視線に気づいていなかったとは……。


「なぜに?」


「いえ、ただこっち方面の帰り道って、先輩しかいないじゃないですか。なので、お話しできる人を作ろうかと」


「俺には本があるからいいや」


「こんなかわいい後輩がお願いしてるのに?」


「お前よりア○ナの方が百倍かわいい」


「そこ隠すとなんか卑猥ですよ」


 やっぱりオタクじゃないですか。

 私はオタクの友達から聞いただけなので、あまり詳しくないですけど、確かゲームの世界のアニメでしたっけ?


「お前の想像力の方が卑猥だよ」


「お前って言うのやめてください。なんだか腹が立ちます」


 そういえば名前、教えてませんでしたね。

 教えてもらってもいないですけど、先輩は校内では有名人なので知ってます。


「うーん……後輩でいいだろ」


「それでは私は先輩、とお呼びしますね」


「そうか」


 先輩はそう言って駅で切符を購入します。

 定期は学校で配られるので、まだありません。

 私は自前のヤツがあるので購入しませんが、なんとなく先輩を待ちます。


「はぁ……厄日だ」


 先輩の失礼な呟きを、私は聞き流しました。

 私にとっては正反対の日なのですから。




 ◆




 わざと聞こえる声で呟いたんだが、後輩の笑顔は曇ることなく、むしろ輝きが増した気がする。

 うわっ! 眩しっ!?


「ところでところで先輩先輩」


「なんだ後輩」


「先輩のお名前なんて言うんですか?」


 なんだ知らずに声をかけてきたのか。

 俺、結構有名人なんだがな。

 学校では。


「真鍋だ」


「それはさすがに知ってますよー! だって生徒会長じゃないですか〜」


「なんだ知ってたのか」


 知らないのかと思ってた。

 俺、ちょっと不安だったんだけど。

 まあ一年たちにとってはまだまだ生徒会とかどうでもいい時期なのかもしれないけどな。


「だーかーらー! そうじゃなくってですね、下のお名前が聞きたいんです!」


「……悠人だ」


「ちょっと待ってくださいメモします」


 そんぐらい覚えろや。

 ――ってマジでメモ取りやがった! この後輩。


「後輩の名前は?」


「何ですか先輩ナンパですか? ごめんなさい私さすがに話したばかりの人は無理ですごめんなさい」


「お前よりア○ナの方が百倍かわいい」


 あれ、このくだりさっきもした気がする。


「二次元と一緒にしないでください。私だって傷つくときは傷つくんですよ」


「そんな満面の笑みで言われてもな……」


「まあその話は置いといて、私の名前は幸村 有栖ありすと言います。十六歳です」


 歳は言わんでよかったんだが。

 学年から知ってるし。

 誕生日は過ぎてるらしいな。

 ちなみに今日は十ニ月一日だ。


「アリス? 魔法の国からやって来たのか」


「いえいえ、アレは本当は地下の国らしいですよ?」


「マジか。心底どうでもいいな」


「そうですね、私も同意します」


 俺はやっと来た電車に乗り込み、一番隅に座る。

 この方面には特に面白いものがないので、電車内はいつも空いている。

 後輩は躊躇いなく俺の隣に座った。

 遠慮のないヤツだ。


「先輩ってどこの駅で降りるんですか?」


「横井駅だ」


「私とは隣駅ですね〜。家の場所は?」


「黙秘する」


 俺はそう言って、再びライトノベルを鞄から取り出し、本を読み始めた。

 しかし、隣で「むぅ〜」と頰を膨らます後輩のせいで、あまり集中して読むことが出来なかった。




 ◆




 むぅ〜。

 さすがに家の場所は教えてくれませんでした。

 挙げ句の果てには本まで読む始末です。

 こんなかわいい後輩と一緒に下校しているというのに、なんという先輩でしょうか。

 まあまだ時間はあります。

 ゆっくりお友だちになりましょう。


「これからよろしくお願いしますね、先輩 ♪」

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