第192話 今日、明日

「うわああああああ」

その恐ろしい光景を見て、チャーリーは転げるようにその部屋を出て塔の階段を上った。

まともに立っておられず、四つん這いで獣のように駆ける。


「彼には何も言ってなかったの?人が悪いね」

頭蓋骨から脳みそをすすりながらアトラスはゴードンに言った。


「なに、来年の今日までにはじっくり時間をかけて説明するさ。まずは・・・見せておきたいと思ってね。」

それを聞いてアトラスはニコッと笑った。


アトラスが3つの頭蓋骨から脳みそを平らげると、ゴードンはその骨をバケツに戻して蓋をした。

「では、また1年後に・・・」

ゴードンが軽く一礼して、3つの鉄の扉を閉めていく。アトラスは再び闇の中に一人。


「ああ、でも今回は違う・・・。もっと早く、また会えそうだよ。」

誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。




サンゴの町


夕方過ぎに、リーフとダグラスはサンゴの町に着いた。

港町のために宿屋が多く、魚の看板を掲げたレストランもたくさんある。


「おなかすいたなぁ・・・」

夕飯前の、町中にあふれる美味しそうな匂いにリーフはくらくらした。

「よし、適当な宿屋に入って飯でも食うか。」

ダグラスの行動は早い。リーフが小走りにならないと追いつけないスピードでどんどん進んでいく。

人ごみの中でリーフはダグラスを見失いそうだった。


「ダ・・ダグラスさん、待って!待ってください!ボク迷子になる・・・・」

小さなリーフを、大きなダグラスがヒョイと持ち上げる。

「抱っこしてってやろうか?」

「い・・いいです!離してください!!」

「・・・」

ダグラスはリーフを抱きあげた時、目線が同じになって初めてまともに顔を見た。


ちょっと怒っている可愛らしい顔。

こげ茶の瞳、白い肌につやつやの黒髪、サクランボのような濡れた唇。


豊かな胸がダグラスの胸筋に乗っかっている。


腕の中の少女はジタバタ抵抗していたが、ダグラスは構わずキスをした。

周りを歩く人々が驚いて見る。


ダグラスは不思議な感覚に陥っていた。

時が止まったような、自分の意志以外の力を感じて・・・


(これが・・・青のドラゴンに惹かれる、赤のドラゴンの力なのか・・・)

顔を真っ赤にしたリーフに100回ぐらい叩かれるまで唇を離すことはなかった。



当然プンプンに怒るリーフ。

「明日・・・こういうことは明日にしてくださいって言ったのに!!」

ダグラスはリーフの文句を聞きながらただ笑った。



宿は簡単に取れた。

ダグラスが値段に糸目をつけずいい部屋を探したからだ。


「適当な宿・・・って言ってた割にはすごく豪華ですね。あの、お金大丈夫ですか?ボク、全然持ってませんけど・・・」

広い部屋を見回して心配するリーフ。

「これでも一応、王子様なもんでね。」

「そうでした・・・。」


窓際に天蓋付きの広いベッドが置いてある。

(明日ここでダグラスさんと・・・)

そう思うとリーフの心臓はバクバクする。

ふと、(そのためにいい部屋を取ってくれたのかな・・・?)と思った。


(やっぱりダグラスさんはアーサーさんと兄弟なんだな。よく似ている。ぶっきらぼうだけど優しい所や・・・ちょっとエッチなところ・・・)


紅い髪のアーサー


リーフは、現実の世界に戻った時、ことあるごとにアーサーの姿を見ていたことを思い出した。

ジャックでもブルーでもシャルルでも・・・ほかの誰でもなくアーサーだった。


(ボクは・・・アーサーさんのことが好き・・・なんだろうか・・・)

考えてはいけない、と思っていたことを考えてしまうリーフ。


(もし・・・好きな人なんていたら・・・ほかの誰かに抱かれるなんてことは出来なくなるよ・・・。)

窓から外を眺めている、長髪で紅い髪の男の後姿をじっと見る。

(あれが・・・アーサーさんだったら・・・ボクは・・・)

胸が締め付けられるようにキューっと疼いた。


(今なら、背中から抱きしめているかもしれない。アーサーさんは振り返って、あの笑顔で・・・)

リーフの瞳に涙が溢れてきた。

(ボク、ホントは男なのにおかしいよ・・・。アーサーさん・・・アーサーさん・・・)

窓際のダグラスが振り返る。


「お前・・・」

リーフは慌てて涙をぬぐう。

しかしダグラスには心の中を見透かされているような気がした。

「大丈夫か?」

声が一番良く似ている、リーフはそう思った。

「ダグラスさん、やっぱり今日・・・今から抱いてください。そうしなければいけないなら、早い方がいいです・・・。でないと、一日一日経つごとに辛くなるから」

ダグラスはベッドの端に腰かけるリーフの前に立った。

震える肩に手を掛ける。


リーフは目を閉じた。ダグラスはまだ濡れている白い頬に唇を這わす。しかしすぐに体を離した。

「あ・・・」

「やっぱり明日だ、リーフ。男にだって都合ってもんがあるからな。だろ?

まずは、あいつに会わないとな。腹ごしらえしたら行くぞ」


「囚われのアトラス・・・さん・・・?」

「そうだ。もしかしてお前の救世主になるかもしれない。」

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