第175話 目覚まし時計

小さな丸いパッチのようなものが貼り付けられた瞬間、わずかに痛みが走った。

ごく短い突起が大ちゃんの皮膚にめり込む。


「・・・っ!!」

その箇所がカーッと熱くなり、やがてその熱は全身に広がった。

「何したんですか・・・?これは・・・・!」

大ちゃんがパッチを剥そうとすると、瞬が手で制した。

「ダメダメ、剥さないで。大丈夫、とても気持ちよくなるだけだからね。」

「気持ちよく・・・って・・・」

全身に広がった熱は、頭の芯までボーっとさせる。

それと同時に、景色がやけにはっきり見えて、音が大きく聞こえ、何かの匂いを感じ始めてきた。


「そう、まずは五感の覚醒だよ。どう?」

瞬は、優しくなでるように大ちゃんの乳房に触れる。

「ああっ!!」

大ちゃんは全身が跳ねるかと思うほど瞬の手の熱と皮膚を感じた。

「ね、最高に気持ちいいでしょう・・・?この商品があれば、小次郎さんがいなくても天国に行けるよ。

ああ、心配しないで。これは麻薬や、違法ドラッグみたいな野暮なものじゃないんだ。

全く副作用がなく、人間の五感を含む能力を飛躍的に上げてくれるんだ。

眠れる脳を叩き起こして覚醒させてくれる・・・。”目覚まし時計”と言う名の薬さ。」


瞬は自分の腕にもパッチを貼った。

「研究、スポーツ、どんな分野でも活躍できる魔法の新薬。だけど人間と言うものは本当に愚かでね、大ちゃん、これを欲しがる人が一番何に使っていると思う?1つ100万もするこの奇跡の薬を。

そう、セックスなんだよなぁ。」


瞬は大ちゃんを白い絨毯が敷き詰めてある床に押し倒した。



「大くんがどこにもいないってどういうこと?」

「ここは車でしか来られないから、自分で帰ったとも思えないんだが・・・。」

美紀と小次郎はまだまだ続いているパーティーを抜けて、エントランスで話し合っている。


「この通り、メインの入口には警備員が立っているから、誰かが出たらわかるはずなのよ。」

美紀は入口の大きなドアの前に立つ二人の警備員に目配せした。

警備員たちは首を横に振る。誰も出ていってはいないらしい。


「他の出入り口はどうなっているんだ、美紀。」

「今日は外部からの侵入を防ぐという意味で安全上、全部施錠しているわ。監視カメラもついているし、無理に開けようとすれば警報が鳴るし。ちゃんと開けられるのは一部の警備員と・・・私・・・と・・・。あ・・・。」美紀は口を押える。

「美紀?なに?」

「弟が…瞬も開けられるわ・・・。でも、まさか。あ、じゃあカメラを・・・!」

美紀と小次郎は管理室に行き、カメラを確認する。一台だけ不自然に動いていないカメラがあった。

「カメラも?!ちょっとそんな・・・。瞬が会場にいるか調べてくるわ!いや、ううん、車があるかどうかガレージを見た方が早いわね!」

2人が神奈川家専用のガレージに走ると、瞬の車はそこになかった。


「瞬が大くんを連れて行ったっていうの?どうして?!」

明らかに動揺する美紀。

「美紀?」

「大くんは男の子なのに・・・そんなことはないと思うけど・・・。あの子は可愛らしい見かけとは違って・・・ひどく・・・他人に残酷なところがあって・・・。ああ・・・どうしよう・・・。

ああ、もしかして”ショールーム”かもしれないわ!車でならそう遠くないところだから・・・!」

「ショールーム?」

小次郎は眉間にしわを寄せた。



大ちゃんは覚醒した五感と運動能力をフルに使って瞬から逃げ回っていた。

体が面白いほど軽いので、簡単にジャンプできる。

しかしそれは瞬も一緒なので、結局は瞬にいたぶられるように、無駄に体力を消耗するだけの様だった。

「さあ、逃げていいよ。どうせどれほどももたないからね。普段から鍛えていない人にとって実力以上に筋肉を使うと疲労が激しくなるんだよ。そのうち動けなくなる・・・。五感は残ったままでね。」

その通り、大ちゃんは激しく息切れを始めた。

「はあっ・・・はあっ・・・。どうしてボクにこんなことをするんですか・・・・!」

「君がとても可愛いから、と、小次郎さんのお気に入りみたいだから、かな。

あの小次郎さんがパーティーに、大事そうに女の子を連れてくるなんて今まで一度もなかったんだよ。

いや、最初は男の子かと思っていたんだけどね。お揃いのスーツなんて来ているんだもの。

どうして男装なんかしてたの?ほかの女の嫉妬が怖かった?

まあ、いいけどね。何よりキミ、とても面白い気がするんだ。ほら、バルコニーで見た女剣士の幽霊は何?知り合い?キミに話しかけていたでしょ?」


「あ・・・」

大ちゃんはあの中世の騎士のような美しい金髪の女の人のことを思い出した。

自分のことを「リーフ様」と呼び、手を差し伸べてきた人。


「スカーレットさん、ってキミは言ってたよ。」

「スカーレット・・・」

ガクン。膝が床に落ちる。

大ちゃんはついに動けなくなってしまった。

「はい、もう観念してね。さあ楽しもうよ、大ちゃん」


瞬は動けない大ちゃんのスーツをゆっくり脱がせる。

全裸になった大ちゃんの体を瞬の指と舌が這いまわった。

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