第158話 ヒョウガの国へ、再び

「そういえば!!」

思い出したリーフ。


「ジャックさんが言ってたっけ・・・。昔、黒いヒヨコを育てたことがあるって・・・(ボクに似てるって)。

それはブラックファイアードラゴンで・・・火山に帰っちゃったって・・・。」


「ねえ、どうしてキミの中にジャックさんがいるの?」


「う・・・それは・・・」いまいち説明しにくい・・・。

(多分ジャックさんの欠片がボクの中に入ったからで・・・その方法とか言えないし・・・うううっ)


「ジャックさんの、とても優しくて暖かい光を感じるよ・・・。ああ、それに、この光はとても幸せだ、って言ってる。キミは、ジャックさんの大切な人なんだね?」


「・・・・」

リーフは答えられずじっとブラックの目を見た。大きな黒い瞳。その瞳の中にリーフが映っていて、その後ろに優しく微笑むジャックがいるように見えた。


ルナがクレアに言う。

「ブラックは神獣・・・人の心を読むことが出来るらしいのです。とくにリーフ様とは、深いつながりを感じますね・・・。」


リーフはポロポロと泣けてきた。

(どうしてボクは、いつだって優しかったジャックさんを責めてしまったんだろう・・・)

ポロポロ ポロポロ涙が止まらない。


「大丈夫だよ」

神獣、ブラックファイアードラゴンは穏やかな声で言う。

リーフは思わずその大きな首に抱き付いた。




「あー!リーフ!」

その時ちょうど、ロザロッソ御一行様もコッペルトに到着したのだった。





神獣ブラックは、リーフの側に座り、ルナの説明を聞いている。

「急ぎ、アリスのもとへ行かねばなりません。そう、一刻も早く。ブラック、リーフ様を運んでくれないか。」

ブラックはリーフの方をチラリとみて、コクリとうなづいた。


「よかった・・・。ありがとうブラック。」ホッとするルナ。


「ところで・・・。

ロザロッソさんたちどうしてここにいるの?」

リーフが呑気に聞いた。


「あんたねーーーっ!」切れるロザロッソ。「アンタが急にいなくなるから、心配で探しに来てやったんじゃないの~!」


「そ、そうだった・・・。ごめんごめん。ははは・・・」


「・・・まっ、緊急事態だから仕方ないわね。あ、そうそうこの男はロバート、アタシの昔の旅仲間よ。コッペルトの出入り商人をやってるんだって。で、アリスとやらのところにはいつ行くの?」


(今でしょ)と言いたかったリーフだが、ぐっとこらえた。代わりにルナが、「今、すぐ」と答えた。




ブラックが乗せるのは、リーフとロザロッソ、ルナ、それになぜかロバート。商人魂が騒ぐらしい。


「ごめんねクロちゃん・・・。今回は連れて行けそうにないんだ。必ず迎えに来るから、コッペルトで待っていて。」

「も~リーフったらつれないよなぁ~。あ、でもゆっくりしてきて!ボクいつまでも待ってるから!」

クロちゃんは、置いて行かれるというのになぜかニコニコしている。それもそのはず、コッペルトの巫女たちはみな容姿端麗なのだ。

「どこにいてもいい匂いがするんだ~。花かな?お姉さんたちかな?」

「やあだ、クロちゃんたらぁ~」

すでに、しゃべる可愛い仔馬のクロちゃんは人気者になっていた。

「ゆっくりって・・・クロちゃんめ・・・・てか男ってやつはホントに・・・」

呆れるリーフ。


「さあ、出発です!リーフ様お乗りください!!」


神獣ブラックファイアードラゴンの大きな背中。羽の付け根をつかむように指示される。

晴れ渡ったコッペルトの空に、黒い翼が跳ね上がる。



「リーフ様!どうか!ご無事で!世界をお救い下さい!」

クレアが空に叫ぶ。99人の巫女が一斉にひざを折り、白い花のようになって祈りをささげた。




白い宮殿を後にして、ぐんぐん上昇するブラック。

「リーフ、もうしばらくしたら早く飛ぶから、しっかり掴まっていてね。」


「うん・・・ところで・・・あの、ブラックに聞きたいことがあるんだけど。」


「なに?」


「どうしてジャックさんのところから出ていっちゃったの?」


ブラックは風を避けるために大きく体を傾けながら答えた。

「ボクたちは体が大きくなると火山でしか生きられないんだよ。ある一定以上の温度が必要なんだ。だから特に冬は、火口の近くから離れることはない。今みたいに暖かければふもとの樹海まで降りることがあるけどね。それは本能で知っている

ジャックさんとずっといっしょにいたかったよ・・・。ボクを卵から孵してくれて、育ててくれた優しいジャックさん。自分も親がいなくて、ずっと寂しかったからって、ひと時だってボクをそばから離さないでいてくれたんだよ。

ボクがご飯をたくさん食べるようになってからは、どんなにお金がかかっても寝る暇も惜しんで働いて、お腹いっぱい食べさせてくれた。

・・・あまり迷惑もかけてくなかったしね・・・。」


「そうだったんだ・・・。ジャックさん、ずっとブラックのこと心配してたみたいだよ・・。」


ブラックは少し潤んだ眼をしたあと、「さ、しっかりつかまってて!」と言って信じられないぐらいスピードを上げた。

通った後の村々では黒い竜巻が来た、と噂になったほどだった。


驚異の速さで一行はヒョウガの国に着く。

「まずはヒョウガの国の城に行ってアリスが来たかどうか聞きます。」

ブラックから降りてルナが言った。


(ブルー王に久しぶりに会うんだ・・・)色々あったことを思い出し、緊張するリーフ。


「リーフ」

「ブラック・・・ボクの心、見えちゃった?」リーフは恥ずかしそうに笑う。

「ちょっとだけね。さあボクは極寒のこの国には長くはいられないから、もう行くね。これを持ってって。」

ブラックは羽を一枚くちばしで抜き取り、リーフに渡した。

「この羽がキミのことをっきっと守ってくれるから。困ったことがあったらいつでも呼んで。そしてもし、ジャックさんに会うことがあったら、ボクは元気だと伝えてほしい。」

「うん、必ず。・・・ボクは、いろんな人に助けられてばかりだなぁ・・・。」


「リーフ。それはね。

キミがこの世界を助けるからだよ。」

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