第157話 ブラック

「ブラックを・・・ですか・・・。」ルナはためらう。

「確かにブラックなら可能でしょう。しかしあれは、滅多に人に懐かず、大変凶暴です。その背に人を乗せたことはありません。私のブラックはどうやら人に育てられたことがあるらしく、どうにか攻撃してこなくなりましたが、それでも数年かかっています。もともと人を食うこともある生き物です。」


リーフは身震いした。(ちょっと怖すぎるような・・・)

「あの・・・他に方法は・・・。」


クレアとルナは顔を見合わせて首を振る。


「・・・仕方ありません、とりあえずブラックをリーフ様と合わせてみましょう。

今はちょうど火山から降りている時期です。早速使いの鳥を飛ばしましょう。」


ルナが ピュー と口笛を吹くと、数分もしないうちに黄色い小鳥が5羽やって来た。


ルナは小鳥に向かって、はっきりした声で話しかける。

「火山のふもとの樹海に行って、ブラックを呼んでおいで。」


(へえ、小鳥さんに言葉が通じるんだ!!)感激するリーフ。


ルナは小鳥に何かの粉を少しづつ振りかけて空に飛ばした。


リーフが不思議そうに眺めていると、ルナは言った。


「あれは守護の粉です。小鳥たちが食べられるといけませんからね。」


(ボクにもたっぷりかけてくれないかしら・・・。)とリーフは思う。




ロザロッソたちが最後の鍵を使って隠し通路を歩いていた時、黒い影が現れた。


「あれ、なに?」


上空に大きな黒い鳥。大きく、美しい。


「ふせろっ!!」

ロバートがロザロッソの頭を掴んで地面に押し付ける。

「痛いわねぇ!なにすんのよ!」

「ばか、あれはブラックファイアードラゴンだ!腹が減ってるときに見つかったら食われちまうぞ・・・!

コッペルトの巫女であいつを操れる者がいると聞いたことがあったが・・・。まさか呼び寄せたのか?」


「人食いなんでしょ?リーフ食べられちゃうの?」泣きそうなクロちゃん。

「・・・生贄かなんかで?リーフを?まさかそのために誘拐したんだったりして?」

「神事のついでかなんかにねえ・・・って、ははは・・・。}

まさかまさかと笑いつつ、二人と一頭は少し足を速めた。




ルナが黄色い小鳥の使者を飛ばして数十分。


リーフは南の空からやってくる黒い巨大な鳥を見つけた。

(想像以上だ・・・!)

雷雲のような巨体、翼を広げた姿は20メートルほどはありそうだった。


「ブラック!」ルナが声を張り上げて呼ぶ。


ブラックは宮殿の上空を大きく旋回し、バサバサと庭に舞い降りた。


「みなは下がっていてください!」

ルナが羽をたたんだブラックに近づき、黒くつやつやした羽をそっと撫でる。


「ルナがああやってブラックに近づくまで、数年かかりました。その間には、瀕死の重傷を負わされたこともあります。あの鳥はドラゴンと鳥の間に生まれし神獣ですから、本来人間の言うことを聞くことはありません。リーフ様、どうか慎重に・・・」

クレアがリーフに言った。


「さあ、リーフ様こちらへ。」

ルナが呼ぶ。


(ひえ~怖いなぁ・・・・。うう・・・慎重に、慎重に・・・)

怒らせたりしないよう、慎重に歩くリーフ。しかし・・・


「わっ!!」  ドテッ!!


かなり派手に転んでしまった・・・・!


シーン・・・とする巫女たち。うつぶせにこけたままで起き上がれないリーフ。


(うわああああやばあああい・・・。どうしよう・・・!)


するとブラックが、リーフの側まで歩いてきた。

気配を感じて固まるリーフ。(食べられちゃう?!)恐ろしすぎて逃げ出すことも出来ない。


「ブラック!やめてくれ!リーフ様はこの世界にとって大切なお方・・・!」

ルナの制止は効かない。


大きな黒いくちばしがリーフの肩に近づく。


「くっ、これまでか・・・!」ルナが剣を抜く。


その時。


「ジャックさん・・・」

ブラックがしゃべった。

「ジャックさんが、君の中にいる。」

ブラックはリーフの服を優しく噛んで起こしてくれた。


キョトンとしてブラックと目が合うリーフ。

「あの・・・ジャックさんって言ったの・・・?ジャックさんを知ってるの・・・?」


「うん。ジャックさんはボクのパパなんだよ。ねえ、どうしてキミの中にパパがいるの?」


「それは・・・」

言葉に詰まってリーフがうつむくと、ブラックは嬉しそうに顔を擦りよせてきた。



ルナを含め、クレアと巫女たちは唖然とする。

「ブラックが言葉をしゃべるとは・・・!そしてあんなに信頼を示すとは・・・!なんという奇跡!」



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