第156話 百目の巨人

その時、コッペルトは地獄と化した。


「表向き我々は巫女ですが、実は生まれた時から鍛え上げてきた戦士です。みな、剣を取って戦いました。しかし、悪魔の怪物にはまったく歯が立たなかったのです・・・。」


百目の巨人は体から無数の腕を出し、巫女たちを鷲掴みにした。ある者は折り曲げられ、ある者は引きちぎられ、ある者は犯されて突き殺された。

そしてまだ息があっても目玉をくり抜かれた。


「百人の人間の断末魔の叫び声を、お聞きになったことがあるでしょうか?百人の人間が流す血の匂いを、嗅いだことがあるでしょうか?

ああ・・・しかし一番恐ろしかったのは、百人目の巫女の眼球がくり抜かれた時、残った100人がホッとした、ということです。・・・なんという自分の無力さよ・・・。幼き頃より鍛え上げた肉体と精神の敗北・・・。どれだけの恐怖と屈辱であったか・・・。」



そして、百目の巨人が地獄に帰るとき、確かに言った。


「契約は果たした」



アリスに向かって。


16歳になった美しいアリスは、血みどろの死体の山の中で妖艶に笑う。



「そして・・・アリスはこの神殿から消えたのです。残った巫女たちの三分の一は彼女を探しに外へ出て、もう三分の一は死体を片付け、残りの三分の一は・・・精神を病み、しばらく動くことも出来ませんでした。」


リーフは、さっきまで綺麗だと思っていた色とりどりの花が急に恐ろしく感じた。


「・・・どうしてアリスはそんな悪魔を呼び出せたの・・・?」


「そう、我々も不信に思い調べましたところ、地下の保管庫に入った際、闇の魔導書を見つけたようなのです。」


「闇の魔導書・・・?」


ルナがチラリとクレアの方を見る。言ってもいいものかどうか迷っているようだった。

「闇の魔導書とは。」クレアが口を開いた。


「我々の課せられし使命の中には、この世界の秘宝を守る、と言うものがあります。闇の魔導書もその一つ。ただしこれは大変危険なものなので、その存在すら、代々のコッペルトの主にしか明かされてきませんでした。

この魔導書は、悪魔が書いた悪魔の召喚を示す書です。本来なら人間の世界にあるべきものではありません。しかし、悪魔はまるで試すかのようにこの世界に送ってよこした。

悪魔の本は、処分すらできません。もし燃やしたり、塗りつぶしたり、破り捨てようとすると、その場所が地獄につながる門となる呪文が掛けられているからです。


森の大賢者様が300年前に、ずいぶん苦労されてこの本を地下にとどめることに成功しました。

その時にこの神殿を建て、巫女を集め、守ってきたのです。」


「その本を・・・アリスが見つけて、悪魔を呼び出したのですね・・・。」


「そう。しかし彼女の真の目的はそんな事ではありません。

アリスは・・・黒のドラゴンを復活させようとしているのです・・・!」


「ええっ!!」

リーフは、ヒューとシャルルと一緒に、預言者メリッサのところで見た黒のドラゴンの映像を思い出す。

煙の中に現れた破壊神。


ルナは叫んだ。「そのまえに!必ずや赤のドラゴンを復活させねば、この世界は一夜にして滅びます!!

我々は見て感じた!!黒のドラゴンの僕にすらなれない百目の巨人に、手も足も出なかったということを!

もはや人の力ではどうにもならないのです!!

リーフ様、お願いします!どうか一刻も早く赤のドラゴンを復活させてください!!

この世界をお守りください!!」



「大変だ・・・・!どうしようシャルルさんが・・・!!」





一方、ロザロッソは旅の商人ロバートとともにコッペルトを目指していた。

もちろん仔馬のクロちゃんも一緒に。


「まあ山奥だけど、街道から馬に乗って1時間の距離よ。本当にこの近くにコッペルトがあるの?」

旧友を疑うロザロッソ。


「そう、オレも最初はまさかと思ってけどね。さあ、その前の道を進んでみて。」


「?なんてことない一本道じゃない。」ロザロッソが何の気もなしにまっすぐ進む。ところが、実はかなり右に曲がっていた。

ロバートは「ははは」と笑いながら、腰に下げた鍵の束の中の一本を地面に差し込む。


すると、左に新たな道が見えた。


「隠し通路ね・・・!」

「そう、普通に歩いてたら見えないし通れない道があるんだ。この先には崖もあるし滝もある。全部隠れているし鍵も必要だ。万が一通れたとしても、最強の女戦士がおで迎えってわけさ。」


「リーフってばエライ所に連れてかれちゃったなぁ。」クロちゃんがつぶやいた。




「先ほども話しましたが、赤の欠片をもつシャルルさんが、アリスといっしょにいるんです・・・。シャルルさんは赤のドラゴンの復活のためならと・・・きっと・・・早く知らせないと・・・」リーフは泣きそうになりながら言った。


「それは、・・・しかしお話からすると、2人が旅を始めたのは10日も前のこと・・・。すでに結ばれたと思ってよいのでは・・・。探し当てたところで間に合いません。無駄でしょう」ルナが厳しい顔をした。


「でも、その後も、シャルルさんアリスを、同じく欠片を持つヒョウガの国のブルー王、ホシフルの国のマーリン王子とララ王子のところまで送り届けるなずなんです・・・。だから急いで探さないと・・・!」


「なんと・・・!しかしここからではヒョウガの国まではどんなに急いでも5日はかかります。・・・どうすれば・・・」


唸るルナにクレアが言った。

「ルナ、ブラックファイアードラゴンを呼びなさい。あれに乗ればどんなに遠く離れていようが数時間で着くことができるでしょう。」

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