第132話 ハエの大群

なんだか恥ずかしい朝食を食べた後、3人と1頭はお城へ向かった。


「ねえアーサーさん、行って・・・どうしよう?何ができるんだろう?」

リーフが情けない声を出す。


「酒場のねーちゃんが、ハエの化け物が邪魔してるって言ってたもんなぁ。まあでもとりあえず、城の中に入る手立てを考えよう。」

「ほほほ、おもしろくなってきたわねぇ。退屈しのぎにはぴったりよ。」

ロザロッソだけは優雅なことを言っている。



城が近くなると、流石に人気がなくなってきた。

「心なしか、空もどんよりしてるなぁ・・・。」

見上げると、いつ雨が降り出してもおかしくない空模様。


「今のところハエの化け物は見えないわね。とにかく城門に向かいましょう。」

ロザロッソは慣れた様子で歩いていく。

「ロザロッソさん、ここに来たことあるの?」

「ええ、あるわよ、商売でね。」

「商売?」アーサーがちょっと話に食いつく。


「アタシの父が商売人でね、いろんな国を飛び回ってるのよ。アタシも跡取りだからってずっと付いていってたんだけど、途中で嫌になっちゃって止めちゃったわけ。

ツバサの国は大国だしお得意様だったのよねぇ。」


「ん?お前の親父ってだれだ?」

「ガンダフ。」

「ガンダフ?!死の商人ガンダフか?!」

「アーサーさん、ロザロッソさんのお父さんのこと知ってるの?」

「あらやだ、あの人を知ってるってことは、アーサーもかたぎじゃないわねぇ。そう、父は死の武器商人のガンダフよ。」

「し、死の武器商人・・・。」ビビるリーフ。

「うちの国もお得意様のはずだぞ。ツルギの国だ。ガンダフは錬金術を使って、どこにもない鉱石を作り出し、最強の武器を生産する・・・。ただ馬鹿みたいに高いから滅多に買えないけどな。

俺も持っているのはこれだけ。」

アーサーは、腰につけている短剣を取り出した。鞘から抜いたその剣は、赤く怪しく光っている。


「あらっ、ふんぱつしていいの買ったわねぇ。これ一振りだけでもちょっとした町が作れるほどのお値段なのよ。錬金の中でも難しく時間がかかる獄炎の鉱石から作られてるの。

あ、これがあればハエの化け物も倒せるかもね。」


「た、倒しちゃだめだよ!あれはエリー姫なんだから!!」リーフは慌てて、エリー姫のことを説明した。



お城の入口は全部で3つ。正門、裏門、通用口である。


「じゃあ、とりあえず手分けしてそれぞれの門を調べてみるか。俺は正門、ロザロッソは裏門、リーフはクロちゃんと通用口な。」

「え、一人ずつで?・・・ロザロッソさん大丈夫なの?」

「きーっ、アタシを誰だと思ってるのよ!アンタなんかに心配されたくないっつーの!!」


かくしてリーフは通用口へ向かった。

「リーフのことはボクが守るからね!」クロちゃんが頼もしいことを言ってくれる。

円形のお城の西側、小川の近くに通用口はあった。門番のための小さな小屋もあるが、今は誰もいないらしい。

当然門に鍵はかかっている。

「お城の塀はとても登れそうにない高さだし、ここからは無理かな・・・」

と思って見ていると、クロちゃんが騒ぎ始めた。


「リーフ!今、塀の上にクルトがいたよ!!」

「ええっ?!」

見上げると、あの懐かしい、大好きだった茶色の瞳と目が合った。


「クルトっ!!」

クルトはサッと城壁の向こう側に身を隠す。

「まって!ボクだよ!リーフだよ!クルトっ!」

そのすぐあと、ブブブ、という音が聞こえてきた。耳障りな音は、どんどん近く大きくなっていく・・・。

「な・・・なに?」


気が付いた時にはリーフの周りは真黒、所々銀色に光る・・・、ハエの大群に囲まれていた。

まるでハエの竜巻の中にいるみたいに。


「リーフ!リーフ!」

竜巻の外にいるクロちゃんが助けようと近づくが、壊れてもすぐに再生するハエの壁に阻まれてしまう。


「うわぁ・・・っ!」

リーフの体は宙に浮き、壁を越え、城の中へ消えていった。


「そんなぁ・・・リーフ!リーフ~!」クロちゃんの悲痛な叫び声だけが空しく響く。

そこに、アーサーがやってきた。

「あ、アーサー!リーフがハエの大群に連れてかれちゃったんだよ!!助けて!!」

「・・・思った通りだ。成功成功!」

「えっ」アーサーの意外な言葉に驚くクロちゃん。


「リーフの話からすると、エリー姫はリーフを殺さないんじゃないかと思ってな。一人にして城の中に侵入させたったわけ。さてと、我々はあいつの到着を待つか・・・。」

クロちゃんの罵詈雑言を無視してのんびり草むらに寝転がるアーサー。

「そんなことだと思ったわ。」

ロザロッソもやってきた。

「ところで、あいつってだれ?」

アーサーは寝転がったまま上空を指さした。


灰色の厚い雲を背に大きな鳥の影。


怪鳥ジャックだった。

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