第131話 朝ごはん

「半月ほど前のことかねぇ・・・、ある日突然、お城の真上に恐ろしいハエの化け物が現れたんだよ・・・!

最初は城の兵士が戦い、終いには町の男たちも総出で倒そうとしたんだけど全然敵わなくてねぇ。

あのハエがまき散らした毒液で多くの者が苦しみぬいて死んだんだよ。

みな絶望していたんだけどね、そのうちあることに気が付いた・・・。」


「あること?」

男装しているリーフは思わず身を乗り出した。


「そう、あること・・・。あのハエのの化け物は、決してあの城の上空から移動しないってことさ。それで、城に住む人以外は、今はあきらめて眺めてるだけなんだよ。」


「じゃあ、城の中にいる人は・・・。」


「どうだろうね。よくわからないってさ。なんたって、城から出ようとしても入ろうとしてもハエに襲われるんだから。

まあでも城以外は今のところ安全でしょう?だからこうして城下町でも普通に暮らしているんだ。

城の中は酷いことになっているだろうけどね、そのうち食料も尽きるだろうし・・・。でもどうしようもないんだよ。」


「そんな・・・」


いつの間にかテーブルの上には大きな4つの木のジョッキが置かれていた。中には赤く、泡がたったビールのようなものが入っている。ハエの話に興奮して喉が渇いていたリーフはジョッキを手に取り、それを一気に飲み干した。


「おいそれはお酒だぞ・・・・・。」


アーサーがリーフを止めようとした時にはもう遅かった。

指の先まで真っ赤になったリーフがおもむろに立ち上がる。


「ボクが!ボクがお城のみんなを救ってあげるんだ!!」

酒場中に響き渡る声。完全に酔っ払っている。


「よっ、威勢がいいねにーちゃん!」

「あの化け物をやっつけてくれ!」

店にいた男たちがはやしたてた。


「何よこの子、どうしちゃっの?」

ロザロッソがあきれてリーフを見る。


「しまった・・。こいつ酒飲むと面倒なことになるんだった・・・」

アーサーは、リーフとホシフルの国で出会った時、ハルさんの宿屋の酒場でリーフが大暴れしたことを思い出した。

「あの時は、テーブルの上に乗って、俺とジャックに説教を始めて・・・。」

言っている側からリーフはテーブルの上に正座し、


「アーサーさんはいい加減にセクハラは止めろー」とか、「ロザロッソさんのスケベホモショタ野郎~」とか言い始めた。

「止めなさいよ、アンタ恥ずかしいわねっ!」

ロザロッソが止めようとするがリーフはどうにもとまらない。


「で、次は歌いだして・・・」

「アイヲンチュ~アイニーヂュ~」リーフはノリノリで歌いだす。


「で?何だっけ?」

アーサーが次の行動を思い出したのは、赤かった顔が青くなったリーフが、アーサーの胸元に「げろ~」とやってしまった後だった・・・・・・・・・・・。




そのあと眠りこけたリーフが夢で見たのは、可哀想なエリー姫のこと。


まだ幼い姫が、母王妃に用意された毒入りの食事を泣きながら食べている。


すでにエリーの体はむくみ、皮膚は荒れて、その瞳は輝きを失っていた。


ただ、リンゼイ王妃が食べ終わったエリー姫のことを褒めてくれる、そのことだけを心の支えにしている・・・。


毒を食べ続けたエリーはやがて恐ろしいハエの化け物になっていった。


そしてお城の上で紫の毒液をまき散らす。


まるで今まで体にため込んだ毒を出すかのように。


その後ろに、なぜか微笑むクルトが立っていた。



「クルトっ?!」


飛び起きるリーフ。朝日がまぶしい。白いシーツを掛けたベッドの上、どこかの宿屋らしかった。


「起き抜けに違う男の名前を呼ぶとはいい度胸だなぁ、おい」


裸のアーサーが超不機嫌な顔をして横で寝ていた。


「アーサーさんっ!どうして・・・」

自分の服は着ている。ひとまずほっとするリーフ。


「どこかであったパターンだよなぁ。酒場、お酒・・・」アーサーが皮肉たっぷりで言ってきた。

「・・・・あっ、ハルさんの宿屋・・・。あの時はジャックさんも一緒だったよねぇ、元気かなぁ、あはは」

思い出して話をごまかそうとするリーフ。

「おかげさまで今回も俺の体はゲロまみれ、泊まる予定もない宿屋に御一行様ご宿泊だよ。ったくどうしてくれようか・・・」


オロオロするリーフをベッドに押し倒し、ついでのようにキスをする。

「やめて、アーサーさん!二日酔いで頭がガンガンするの・・・」

「ダメだね。そうだ、クイズに正解したら勘弁してやってもいいかな。」

「クイズ?う~ん・・。はい。」

「問題。今俺の下半身にあるものはなんだ?」

「えっ?」


アーサーの下半身にはシーツがかかっていて見えない。

「触んなきゃわかんないよ」

アーサーは、リーフの手を取って自分の下半身に持っていった。


「わっ!!!」

驚くリーフ。何か熱いものに手が触れる。

「こここ、これは・・・。」自分が知っているものより随分大きい。


「今からこれがお前の中に入るんだ・・・。」

「え、やだやだ無理無理!」

泣きそうになるリーフ。


「ちょっと!食べ物で遊ばないの!それ朝ごはんでしょ!」

いつの間にかベッドの横にロザロッソが立っていた。

リーフが触っていたものを見てみると、美味しそうなソーセージだった。部屋のテーブルにはパンとスープがスタンバイしている。

「あとはそれを切り分けるだけなの!返してちょうだい!」

ロザロッソがソーセージを取り上げる。

茫然としているリーフをアーサーはガハガハ笑って見ていた。


「な、今からお前の中に入るだろ?お腹の中に。」

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