第127話 リーフ、一人旅

翌朝みんなで話し合い、リーフは予定通りツバサの国へ、シャルルとヒュー、アリスはドゴール村に帰ることになった。


「一人で大丈夫か、リーフ。」意外にもヒューがリーフを心配する。


「大丈夫だよ!もともとボクの旅だったんだし、エリー姫のことが気になるから早くツバサの国に行かなきゃ。

それにシャルルさんが詳しい地図を描いてくれて、旅の装備もくれたから楽勝だよ!ここからなら気候もいいしね。あと2日ぐらいなら歩けるよ。」


元気に振る舞うリーフを、シャルルは寂しそうな顔をして見ていた。

彼の横にはぴったりとアリスが寄り添っている。

「さようなら、リーフさん。お気をつけて…。私たちはドゴール村へ行ったあと、ヒョウガの国のブルー様にお会いして、次にホシフルの国のマーリン様とララ様のところに参ります。

リーフさんが欠片を宿している方をご存じで助かりましたわ・・・。」


「うん・・・。お役に立ててよかったよ。他に、アーサー王子やジャック、ベイドさんに会ったら、アリスさんのことを知らせておくね・・・。」


アリスは美しい顔でニッコリ笑った。

「わたしがきっと赤のドラゴンを復活させて世界を救って見せますね」



リーフは自分を見つめるシャルルと目が合った。

(もしアリスさんが来なかったら、ボクは昨日シャルルさんと・・・)そう思うと複雑な気分になる。

8割はホッとしているのに、残りの2割は何だか寂しいという気がしていた。

(ボクどうかしちゃったのかなぁ・・・。まあでも、シャルルさんは天使みたいな人だから、誰だって惹かれるよね。こんなボクより、アリスさんの方が綺麗だし、覚悟はあるし、ちゃんと女の子だし、これでよかったんだ。)


シャルルはリーフの手を取って、「ちょっとだけいいかな、二人で話があるんだ。」と言い、大きな木の陰に連れて行った。

「シャルルさん?」

シャルルは、ヒューとアリスから見えない位置に来るとすぐ、リーフに激しいキスをした。


「・・・・!」抵抗する間もなく、唇を受け入れるリーフ。

「リーフちゃん、僕は・・・。君のことを・・・。」

「で、でもシャルルさんはアリスさんと行くんでしょう?」

「そうだよ・・・。本当は君といたい。でも、キミが青のドラゴンの欠片を集める者だとしたら、他の男に奪われることになる・・・。それは嫌なんだよ。だから、僕はアリスと行くんだ。」


「シャルルさん・・・。」

いつも天使のような微笑を崩さないシャルルの、感情的なせつない表情。リーフはそれが自分のためだと思うと、少し嬉しかった。

シャルルは自分の指にはめていた指輪をリーフの指に入れる。

水晶のような透明な石が付いた美しい指輪。

「これを持っていて、リーフ。どこにいてもこの指輪が君を守ってくれるだろうし、僕を感じることができるから。」


リーフは少し困ったが、包むように抱きしめるシャルルの胸の中でコクリとうなずいた。




森を抜けた街道まで案内された後、リーフは一人で旅することになった。

ヒューの助言で、襲われないように男の子の格好をする。

髪を縛り、ズボンを履き、帽子をかぶって短剣を腰に刺した。


「子供が散歩しているみたいだな」ヒューは笑ったが、リーフは複雑な心境だった。

(そもそも男なのに女の子として男装するなんて・・・。なんじゃそりゃ)


着替える最中、ヒューはリーフの指輪に気付いて驚いた。

「シャルルは、本気なんだな。」意味深なことをつぶやきながら。


一人で歩く街道は簡単な道で、明るく開けていて人通りも多く、半日ごとに小さな村がある。

リーフは新たな気持ちで道を歩いた。


「もうここはツバサの国なんだぁ」

一番の違いは、家々の色だった。ヒューに聞いていたのだが、ツバサの国に入ったとたんに、屋根の色が赤く、窓枠が緑色になっている。統一感があって可愛らしい風景だった。


豊かな風土なんだろう、果樹が生い茂り、広大な畑が広がっている。荒涼としたヒョウガの国とはずいぶん違って見えた。



たまにある、木陰の下は旅人たちの絶好の休憩場所になっていて、リーフは歩き疲れたので川の近くの木陰によって休憩することにした。

すでに何組かの人が腰を下ろして休んでいる。

リーフは女の子だとばれないように、ある程度の距離を取って座った。


「おい、聞いたかい。城に現れたハエの怪物のことを!」

商人風の中年の男がほかの旅人の男に話しかけた。(エリー姫のことだ!)リーフはとっさに聞き耳を立てる。


「ああ、聞いたさ!国中その話でもちきりだよ・・・!恐ろしくデカいハエの怪物が城の上空に現れて、毒の粉を振りまいてるとか。」

「オレは、ハエが城にいる兵士をバリバリ食ってるって聞いたぜ。どんな剣も効かず、王様は困り果てているらしい・・・。」


(こ、こうしちゃいられない!!)

リーフは立ち上がって先を急いだ。哀れなエリー姫のことが思い出される。


(早く、早く行ってどうにかしてあげないと・・・!)

どうやってどうにかするのかは、考え付かない。でも一刻でも早く元のエリー姫に戻してあげたかった。


あまりにも先を急いでいたので、ヒューに指定されていた今晩泊まる宿を確保する村を通り過ぎてしまった。

あっという間に街道は闇に包まれる。気づいた時には真っ暗な道の真ん中に一人、茫然と突っ立っていた。

前の村も次の村も、明かりすら見えない。


「うわぁ・・・どうしよう・・・。」

いくら男の格好をしているとはいえ、強盗も怖いし、夜行性の獣も出てくるだろう。

リーフはとりあえず、元来た道を戻ってみようと思い、クルリと振り返る。


そのとたん、何者かに口を押えられて、街道横の草むらに引きずり込まれた。

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