第126話 青のドラゴンの巫女
「青のドラゴンの・・・巫女?」
そう聞き返したのはリーフ。
「はい・・・。このことは、軽々しく言ってはならないことなのですが・・・。
きっとそちらの方が、赤のドラゴンの欠片を宿していらっしゃると思いますので、お話させていただきます。」
その美しい少女アリスは、シャルルの目をまっすぐ見た。
「まず・・・これをご覧ください。」
まだ濡れている胸から丸いペンダントを出して見せる。
見事な金細工。時計の中身のような複雑な模様が彫刻されている。
「これは、我が神殿に古くから伝わる青のドラゴンの羅針盤です。
この世界を創造したと言われている青のドラゴンが、死ぬ前に自分の骨で作ったものです。」
「ドラゴンの・・・金の骨・・・。」リーフはドキドキしながら眺めた。
「我が宮殿はコッペルトという森の奥深く、秘境と呼ばれる地にあります。どの国にも属さず、神事だけを執り行う不可侵の聖地です。」
「聞いたことがある。ほとんどだれも見たことがない、半ば伝説のような場所だと思っていたが、実在したのか。」とヒュー。
「そうです。そこの住む巫女のほとんどが、赤ん坊のころに連れてこられ、死ぬまで宮殿から出ることなく過ごします。神にのみ仕えるために・・・。巫女の主な仕事は祈りを捧げることと、秘宝の管理なのです。
私がある時このペンダントを手に取りましたら、どこからか声が聞こえてきました。
”黒のドラゴンが復活してしまう。どうか、赤のドラゴンを蘇らせてほしい、と。」
シャルルの顔が曇る。「まさか、その方法とは・・・。」
「はい・・・」アリスは顔を赤くした。
「その、赤のドラゴンが私に言ったのは・・・あの・・・、赤のドラゴンの欠片をその身に宿す男の人たちと愛し合うことだと・・・。」
「えええっ!」盛大に驚くリーフ。ついさっきまで自分がしなければいけないことだと思っていたのだから無理もない。
事情を知るヒューも、可憐に頬を染めうつむく美少女アリスと、タヌキみたいに驚くリーフを見比べて複雑な心境だった。シャルルは無言だ。
「そんな・・・・巫女である私には経験のないことなので困惑しましたが・・・。でもこの世界を救うためならば、この身を捧げる覚悟はできておりますので・・・。」
アリスはちらりとシャルルを見た。
「この羅針盤は、赤の欠片を持つ方がいる方角を指示してくれるのです。そして近くに来ると熱くなり、その体に触れると赤く光るそうです・・・。」
そう言って、アリスがシャルルの腕に触れると、羅針盤のペンダントは赤く光り、その光を集めるようにシャルルの右目を照らした。
「やはり・・・!あなた様なのですね!」
シャルルは腕に置かれたアリスの手をそっと返した。
「たしかに、ボクの体には赤の欠片が宿っていますね。でも、その欠片を預けるのは、そこにいるリーフなのです。」
「えっ?」
アリスは驚いてリーフを見た。
「あなたも、巫女なのですか?!」
「いえ・・・」首を振る。
「羅針盤を持っているのですか?」
「いえいえ・・・」また首を横に振る。
「ではどうしてあなたが青のドラゴンの巫女と言えるのですか?」今度は首をかしげるリーフ。
「あの・・・妖精の紋章がですね・・・。」
リーフはかいつまんでこれまでのいきさつを話した。
「では、赤の欠片をもつマーリン王子に彫り込まれた妖精の紋章と言われる刻印があなたを導いたのですね。」
「はい、そんな感じです。」
アリスはリーフを見て、気の毒そうな顔をした。
「お可哀想に、それは間違いです。きっと、妖精の小さな力がドラゴンのエネルギーに反応してしまったのでしょう。もともと妖精の刻印は赤のドラゴンとは何の関係もありませんから・・・。
ドラゴンの力があまりのも巨大なために、少しばかりの恩恵を受けたに他なりません。
どちらにしても、あなたにはドラゴンの欠片は集めることはできなかったでしょう。」
アリスにバッサリ言われて返す言葉もないリーフ。
急な出来事にまだ頭の整理が出来ていない。
(ということは、え~とボクは、男の人と、しなくてもいいってこと・・・かな?)
心がパ~ッっと軽くなる。そんな選択肢があるとは考えもしなかった。
(ボクがしなくても、この世界は滅びない?!)
踊りたくなるほど嬉しかったが、
(あ、でも・・・、そうなるとこの可愛い巫女さんが、14人の男の人としなきゃいけないってこと・・・?きっとそんなこと初めてだろうに・・・可哀想だな・・・。)
中身は男の子として、リーフはアリスのことが心配になってきた。
「あの、アリスは大丈夫なの・・・・?欠片を集めるって・・・。」
アリスはけなげにニコリと微笑む。
「はい。怖くないと言えば嘘になりますが、青のドラゴンに、つまり神に選ばれたのならば、どのようなことでも耐え抜く覚悟はできております。リーフさんも、今までいらぬ心配をなされたのでしょう、ご苦労様でした。
これからは私が、責任をもって赤のドラゴンの復活を成就させて見せます。
ああ・・・でも、この羅針盤のことがどこから誰かに知れてしまい、赤のドラゴンの復活を阻止しようとしている者たちによって、私の命が狙われるようになってしまったのです。
シャルル・・・さま、青のドラゴンを宿す君、どうか私をお守りくださいませ・・・。」
アリスはふらつく体をシャルルのもたれ掛けさせた。
シャルルは、リーフしか見つめていなかったのだが・・・。
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