第121話 満天の星空

ツバサの国へ向かう旅の初日、リーフたちは夜、大きめの洞穴で休むことにした。


洞穴と言ってもちょっとした洞窟のようだ。

高さはチビのリーフが立てば天井に当たるほどだが、奥行きは10数メートルはありそうだった。


「クマでも出ないの?」

恐る恐る穴の奥を覗くリーフ。

シャルルはフフッと笑った。

「出ちゃうかもしれないねぇ。そしたらどうする?リーフ?」

リーフは怯えた情けない目でシャルルを見る。シャルルはそっとリーフを抱きしめた。

「大丈夫だよ。クマでもトラでもボクが守ってあげるから。」


優しい香りと美しい白い髪がリーフの鼻をくすぐる。

(シャルルさんは本当に天使みたいだなあ・・・)

シャルルが”男”という性を感じさせないためか、リーフは安心しきっていた。


「おい、離れろ」

シャルルの寝床を用意し終えたヒューが二人を引き離す。

「シャルル、もう休めよ。こいつの面倒は俺が見てやるから。」

「そう・・・?じゃあ、お願いしようかな。」

そう言ってシャルルは微笑みながら洞穴の奥に消えていった。


「シャルルさん一人で大丈夫?」

「え?おまえがあいつの心配してるのか?」

「だって、シャルルさん華奢だし・・・。」


「あいつが華奢ねぇ・・・・。」ヒューがニヤニヤしながらリーフの全身を見る。


「リーフ、そういう気持ちであいつに抱かれたら、えらい目に合うぜ。」

リーフの手を引っ張って、自分の胸に押し当てる。

「えっ?なに?」

驚くリーフ。ヒューの胸は筋肉で硬く分厚かった。その手は腹筋と下腹部に移動させられる。

ヒューの全身は鍛え上げられていて、しなやかで熱い。

真っ赤になって逃げようとするリーフを面白がって、ヒューはいろんなところを触らせた。


「やめてくださいって!!」

リーフは何とか手を引っこ抜く。強く掴まれていたために手首が赤くなっていた。

「もう・・・。ヒューさん、悪ふざけが過ぎますよ?!」

「ま、これよりあいつはすごいってことだ」

この時はまだ、リーフはヒューの冗談だとしか思っていなっかった。



リーフとヒューは焚火を囲んで、地面の上に薄い布をかぶって寝ることになった。

シャルルの寝床は、ヒューが何枚も布や毛皮を重ねて用意したのでふかふかの暖かなのに、ずいぶんな待遇の差である。

焚火の火があるとはいえ、地面から冷たさが伝わってくるし、火が当たらない背中はものすごく寒かった。


「ダメだ・・・寝られないや・・・。」

あきらめて体を起こすリーフ。

山賊であるヒューはグウグウ寝ている。きっともっと過酷な環境でもグウグウ眠れるのだろう。


少し洞穴の外に出てみる。

真っ暗な森の中、でも見上げると満天の星空が。


「うわぁ・・・!きれいだなぁ・・・・!!」

思わず感嘆の声が出る。

この世界に来てから、ろくに夜、空を見る暇もなかったリーフ。

「こんな星があって、きれいだったんだなぁ・・・。あ、あの星の帯みたいなのは天の川かな・・・。きれい・・・。」

寒さを忘れてただ空を眺める。


ふと、肩に暖かさを感じた。

「風邪をひくよ。」

「あ・・・。シャルルさん。」

シャルルが毛布をリーフにかけてくれたのだった。


「星が、あまりにもきれいで。つい見とれちゃいました。」なんだか照れてはにかんでしまうリーフ。

シャルルはリーフの肩を抱いた。

「ボクには、キミの方がきれいに見えるよ、リーフちゃん。」


(ぼ・・・・ぼくが本当の女の子だったら絶対シャルルさんに惚れちゃうなぁ・・・。)

「あの、シャルルさんも眠れないんですか?」


「うん。君のこと考えてたら眠れなかったんだ。」


もう、リーフは星どころではなかった。星よりも美しい瞳のシャルルの微笑みが、自分だけに向けられている。

心臓はバクバクするし喉は乾いてくるし

(これじゃあ、ホントに女の子みたいじゃん!)


でも、女の子になりきれないのがリーフの悲しい所だった。

(こんな素敵すぎる人が、ボクみたいなチンチクリンを好きになるはずないよね・・・。赤のドラゴンの復活のために必要だから、きっとこんなに優しくしてくれるんだろうなぁ・・・。)


「キス、してもいい?」

いつもの調子でシャルルはニコニコしながら言った。

「キス・・・ですか?えっえっ・・・」

「だって、いきなり体を重ねるなんておかしいかなって。すこしずつ、この旅の間にリーフちゃんを知りたいんだ。

ダメかな?」


「シャルルさん・・・。」


これまで、ほとんど無理矢理キスされたり押し倒されてきたリーフにとって、凄く嬉しい言葉だった。

「シャルルさんは、ボクを赤のドラゴンの復活のための道具じゃなくて、人間として見てくれるんですね・・・。」

そう言い終わらないうちに、シャルルはリーフの顎をもってそっとキスをした。

やわらかい唇、自分とは違う香りの肌が重なる。

軽く触れただけだった。


シャルルはリーフの頭を優しくなでる。「ありがとう。」

「あの・・・これだけでいいの・・・?もっと・・・」自分でも思っていなかったことを言ってしまったリーフ。

思わず自分の口を押える。


「うっ、うそです!ごめんなさい!忘れてください!おやすみなさい!」

洞穴に逃げ帰ろうとしたリーフの腕をシャルルが掴んだ。


グイッと引き寄せ、今度は激しく唇を求める。

体が奥から熱くなるのを感じた。


「リーフちゃん、悪い子だね。そんなこと言ったら、ボクはもう止められなくなるよ。いいの?」

「それは・・・まだ・・・怖いです・・・。」


足が震えてしがみつくリーフを見て、シャルルはフフッ、と笑った。




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