第113話 オオカミと小鹿

ロックが地図をなくしてしまった夕方、とりあえず二人はむやみに歩き回ることをせず、安全そうなところで野宿をすることにした。


バニイが用意してくれた、軽くて暖かいアルパカのような獣の皮の毛布に包まれるリーフ。

目の前の焚火はロックが火をつけたもの。リーフは何度やっても石と藁では上手に火が起こせない。

ロックは超ドジだが器用なのだった。


リーフは地面に木の枝で、覚えている限りの地図を描いてみる。

「ここが氷河の国で、右隣にツバサの国・・・。ここの山を越えてたはずなんだよなぁ。」

ロックに任せていた今日一日の道程が分からない。

国境には山賊が出ると聞いていたのも気になる。


リーフが作ったケーキを平らげ、暇になったのかロックが辺りをうろちょろしている。

そのうち「ちょっとトイレ」とかいいながら草陰に入ってしまった。

「この辺りだって危険なんだからね!早く帰ってきて!」

リーフの言葉を聞いていたのかどうか・・・。


ロックがリーフから離れたところに来ると、どこからかサスケがやってきた。

ロックの前にひざまずく。

「サスケ。ぼくをだました?」いつもと違う冷たい口調のロック。

サスケは答えない。

「リーフを抱けって言ったよね。あの、純潔の血が付いたシーツは幻覚草を塗っただけだったんでしょ・・・。

血みたいに赤い、淫靡の花の。」

「・・・申し訳ありません・・・。」

「まったく、ブルー王といいサスケといい、とんだ腰抜けだね。あんな小さな女の子一人どうにもできないの?抵抗するのなんて最初だけでしょ・・・。

まあ、いい。サスケ、この旅の間にリーフをお前の物にするんだ。今度こそ。」

「承知・・・。」


サスケは再び森の闇の中に消えた。

ロックはつぶやく。

「ぼくは計算できないおもしろいことをしたいだけなんだよ」



パチパチという火のリズムと、旅の疲れから、リーフは焚火の前で眠りこけてしまった。

パキッ

小枝を踏みながら誰かが近づいてくる。リーフは気づかない。

何かを感じたクロちゃんが「リーフ!起きて!リーフ!」と叫んだ。


「ん・・・?」

リーフがぼんやり目を開けると、目の前に見知らぬ男の顔がある。

「だれっ?!」

とっさに側に置いていたレイピアを構えたが、すぐにその男に叩き落とされた。


「しゃべる馬とは珍しい!」

「どれもこれも豪華な品ばかりだ!」


男の後ろから複数の声がする。気が付けば、焚火の周りは10数人の男たちで囲まれていた。

皆、獣の皮をかぶり、手には斧や剣を握り、鍛え上げた体をしている。

「山賊・・・!」何とかしなければと思うが恐ろしくて動けない。

火に照らされて略奪する姿は地獄の悪魔の様だった。とても一人でどうにかできるとは思えない。


男たちはリーフたちの荷物を自分たちの背中に括り付けている。もともと数は多くなかったので、あっという間にその作業は終わった。


リーフはレイピアを叩き落した男と目が合った。狼のような鋭い灰色の瞳。濃いブロンドの長髪を無造作にまとめている。

まだ若そうだが、雰囲気からこの男がボスらしい。

男はリーフに向かって剣を構える。


(ボク、殺されるの・・?)

その時、口をふさがれて暴れるクロちゃんが棒で叩かれそうになっているのが見えた。

「あっ!やめて!クロちゃんに何をするの!!」

構えられた剣を無視してクロちゃんのもとに走る。降り下ろされた棒はかばったリーフの肩に当たった。


「・・・!」

痛みで声が出ない。心配するクロちゃんの足元に崩れ落ちた。

「こいつ、馬をかばいやがった」

一人の男がリーフの腕を掴んで乱暴に立たせる。豊かな胸が揺れた。

「おい!子供かと思ったら結構立派な女だ!今夜は退屈しなくて済みそうだぜ!」


オーッ!!と歓声が上がる。


まるで、狼にとらえられた小鹿だ、とリーフは思った。

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