第87話 バニイとクルト
朝、リーフはベイドが用意してくれた召使の服に着替えた。
質素な生成りのドレスと、青いエプロン、これまで女の子リーフが着たドレスの中で一番似合っている。
「やっぱりボクは根っからの庶民だなぁ。」
髪は働きやすいようにポニーテールにした。さあやるぞっ!って感じでピシッとした気分になる。
そんなリーフを見て、ちょっと照れるベイド。
(すごく可愛い・・・)と密かに思っていた。
リーフと長く一緒にいるにつれ、自分の欲望が押さえきれなくなるのを感じる。
(これは、赤のドラゴンの欠片の力なのだろうか)
昨日のキスと体の感触が蘇る。
ベイドの苦悩を見透かした様なクルクルが肩をポンポンと叩いてきた。
「辛いね、お互い。」
リーフはベイドに連れられて召使を取り仕切る女、バニイのところに行った。
バニイは60歳ぐらいの、背が高くて痩せていて、厳しそうな釣り目の女性だ。
白髪と銀髪が混ざった髪を頭のてっぺんで綺麗にまとめている。
この城に仕えて45年のバニイ、ベイドのこともよく知っている。
この城でブルーとベイドが最も信頼している人物だ。
「三年ぶりですね、ベイド様。おなつかしゅうございます。お元気そうで良かった・・・!」
「久しぶりだなバニイ。私が雪山にこもって以来か。ああ、積もる話もあるのだが、今日は急ぎの頼みがあるんだ。
この娘、リーフというのだが、ちょっと訳ありでな・・・。」
ベイドはバニイの協力は不可欠であると判断して、話せるところを話した。
「そうですか・・・。この方は、ブルー様の想い人なのですね。
エリー姫がいらしている今、確かにリーフ様の存在を明かすのは危険です。
いかなる理由かはこれ以上お聞きしませんが、リーフ様を安全に、なるべくエリー姫に近づけるよう、お取り計らいすれば良いのですね?」
さすがのバニイ、理解が早かった。
「ああ、頼む。ほかの召使にはリーフのことは、田舎から買われてきた娘だということにしておいてくれ。」
「かしこまりました。
リーフ様、他の者の前ではわたくし厳しい態度をとってしまうと思いますが、どうぞご容赦を。」
「いえっ大丈夫です!こちらこそよろしくお願いします!」
リーフはペコペコ頭を下げた。
リーフはバニイの計らいで、馬の世話をすることになった。
直接のエリー姫のお世話はすべて、ツバサの国から連れてきた30人以上の召使がやっているので、入り込む隙がない。
馬に関わっていれば、馬を使うときに少しでも理由をつけて近づくことができた。しかもエリー姫は、黄金色の愛馬、サンダーをとても可愛がっている。
「そのサンダーの世話係はツバサの国から来た少年で、リーフ様とお歳が近いのです。
なにかエリー姫のことが聞きだせるかもしれません。」
バニイはリーフを、馬番の少年、クルトに引き合わせた。
クルトは世話している馬と同じ綺麗な金の髪、薄茶色の優しそうな瞳、少し日焼けした肌がすがすがしい美少年だ。現実のリーフと同じ、15歳ぐらいだろうか。
「初めまして、リーフ。ボクはクルトって言います。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします!」
クルトのすこし荒れた手と握手をする。クルトは白い歯を見せてニコッと笑った。
(さ、さわやかだ・・・・!)
この世界で出会った、王子やら王やら、シロクマやら怪鳥やら大賢者やらとは違う、素朴な人間の暖かさを彼に感じる。いい友達になれそうな気がした。
「そうそう、仔馬が生まれたんだよ!早速だけど見に行こう!」
クルトはリーフの手を引いて小屋に走った。
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