第70話 燃える体温
ブルーは苦笑いした。
「どうして皆、この小さな娘に惹かれるのか・・・。ベイド、このリーフという娘は、ホシフルの国の両王子と、間者の調べではツルギの国のアーサー王子、ジャックという怪鳥の想い人らしいということだ。
生娘のようだが見かけによらず手ごわいぞ・・・。」
なぜだか恥ずかしくなったリーフが真っ赤になっている中、ベイドは大げさに拍手した。
「そうでしょうとも!このベイドが妻にと望む娘ならば、そうでなくてはいけません!」
そしてリーフの方に向き直り、
「リーフ殿と申されるか、どうかこのベイドと結婚してここで暮らしてはくださらぬか・・・。
今はこのような姿をしておりますが、もともとは王に仕える騎士でござった。
覚悟してこのような雪山で暮らしているが、2年もたつと一人が寂しくてならぬのです。
リーフ殿と美味しいお菓子を食べながらここで過ごせたらと・・・」
黙って聞いていたブルーはベイドを制した。
「すまぬな、ベイド。リーフは人質ゆえ、それは無理なのだ。
彼女は先に言った王子たちの想い人かもしれない。多少は使い道もあるだろうからな」
「人質・・でございますか・・」ベイドはひどくがっかりしていた。
(こんな所に一人はさぞかし寂しいだろうなぁ・・・)と思うリーフ。
しょんぼりするベイドのふかふかの頭をナデナデした。
その時、ゴンッという大きな音が洞窟の宮殿に響いた。
上からだ。皆が天井を見上げる。
「最近、不吉な音がするのです、頻繁に・・・。吹雪もまるで意思を持っているように襲って来ることがあります。私は少し外を見回ってまいりましょう・・・」
ベイドはブルーに一礼すると、リーフの頭をお返しに撫でて外に向かった。
「我々は奥の部屋で休む」と言いブルーはリーフの手を引っ張って歩く。
「えっ、一緒に?やだ・・・」
リーフの抵抗むなしく王はこの洞窟宮殿の一番突き当りにある大きな部屋に入って中から鍵を掛けた。
部屋の中は洞窟とは思えないほど立派だ。壁はむき出しの岩肌だが、ところどころ彫刻が施してあったり、敷き詰めてある絨毯は見事な刺繍がしてある。
他の武骨な部屋とは違う、王のためだけに用意された特別な部屋なのであろう。
(暖炉もないのにどうしてこんなに暖かいんだろう?洞窟だから?)
リーフが不思議に思っていると、ブルーは木のカウンターに置いてあったお酒を飲み始めた。
「お前も飲みなさい」
王は小さなグラスをリーフに渡す。
「ボク、お酒飲めないから・・」
リーフが拒否すると、ブルー王はリーフを壁に押し付けて口をこじ開け、無理矢理お酒を流し込んだ。
直接強いアルコールが喉を通って激しくせき込むリーフ。
「ひどいよブルー・・・!」顔だけでなく、首すじまで真っ赤になる。
ブルーはリーフを引きずるようにしてベッドに連れて行き、放り投げた。
「自分が人質だということを忘れるな・・・!女が人質になるというのは、こういうことだ・・・」
激しくキスをする。服の裾から王の暖かい手がリーフの肌に触れた。
ブルーが口に舌をねじ込んできたとき、リーフは気づいた。
(熱い・・・)
ブルー王の体温が異様に熱い。燃えるようだった。しかもどんどんその温度は上がっていくようだった。
リーフは一生懸命身をよじって唇を離す。
「んは・・あっ」
吸い込む空気が冷たく感じられた。
「ブルー、熱があるんじゃ・・・」
リーフがそう言った時にはもう、ブルーはベッドにうつぶせて倒れていた。
ゴゴゴ・・・
突然、大きな音とともに洞窟が揺れる。
「地震?!」
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