第39話 泉の者
旅の二日目は雨だった。
「雨は恵みの象徴だよ。森の精が私たちの結婚を祝福してくれているのだろね。」
とマーリン王子は微笑む。リーフは色々と生きた心地がしなかった。
昨夜の「婚儀」のことを考えると気分が果てしなく沈む。
なにも覚えていないというのも怖かった。
本やネットでしか見たことない大人の行為を、自分がしてしまったのだろうか・・・。しかも女の子として・・・。
マーリン王子が夜の悪魔になった時にあれこれされた記憶のほうが鮮烈で、すごく怖いイメージしかない。
悶々と悩むリーフ。馬車の長旅は、悩む時間が十分にあった。
出発したみどりの村から一日半も遠く離れると、随分森の風景が深くなってくる。
緑色が濃くなり、木々は巨大に生い茂り、日が差す場所が少なくなる。
自分がどんどん小さくなっていき、人間の世界から精霊の世界に入っていくような気がした。
そんなリーフとは対照的に、森の中でマーリン王子は元気になってきているように見える。
王子の髪の色、肌の色、目の色が鮮明になっている。
水彩絵から油絵に変わった感じだ。
妖精の末裔、だからかなとリーフは思う。
ウオ~ン・・・
森のさらに奥深くから、獣の鳴き声が聞こえてくる。
リーフは、アーサー王子と森で出会った双頭のオオカミを思い出してゾクッとした。
馬車の中の時間つぶしにと、あの時のことをマーリン王子に話してみる。
「それは恐らく、″泉の者”だろうね。」
「泉の者?」
「この地のどこかに、魔物の生まれし泉があると言われている。その泉を求め、その泉の水を飲みし者は、
恐ろしい力を持った魔物になるということだ。」
リーフは身震いした。「魔物の泉を求めるって、どういうことだろう・・・。」
「何かに恨みや怨念を持つものが、とても強く念じた時、泉が現れるそうだよ。
我が1000年前の王も、妖精の血を断ち切るほどに怒り悲しみ悪魔と契約してしまった。
泉の者の気持ちはわかるかもしれない・・・。」
王子は少し震えているリーフを抱きしめる。
ちょっと抵抗したが、悲しい獣の声があまりも恐ろしかったので、リーフは身を任せた。
王子の暖かく力強い胸、鼓動。
カッコよくて頭が良くて優しい、こんなお兄さんがいたらいいな、とは思う。
コンコン
走行中の馬車がノックされた。並走しているスカーレットだ。
「失礼します、王子。少し森の様子がおかしい気がしますので・・・、今夜は夜止まらず、夜通しこのまま走りたいと思います。
お疲れでしょうが、申し訳ありません。」
ウオ~ン、ウオ~ン、ウオ~ン・・・・・・
確かに、獣の鳴き声が増えていた。
ただならぬ気配、背筋に悪寒が走る。
スカーレットが兵士たちにあれこれ指示すると、馬車は速く走るようになった。
ガラガラと車輪が回る音が大きくなる。時を同じくして雨が強くなり、バチバチと馬車に打ち付けた。
先を急ぐ一行。
激しくなる雨、風。
その様子を見ているものがいた。
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