第30話 甘いお菓子

怪しい壺を片手に、緊迫した現場に登場するリーフ。


用意してもらった水色のドレスを着ている。胸元の白いリボンが可愛らしい。


ドレスを着るのに抵抗はあったが、ブカブカのTシャツよりまし、裸よりず~~~っとマシだった。



さすがのリーフも緊迫した雰囲気を感じ取る。


「あの・・・みなさん、え~っと、まあまあ、落ち着いてくださいね。

これ、作ったのてまずは腹ごしらえなぞ如何でしょう?」


さすが、リーフ、クラスの雑用係である。ご機嫌を取りが板についていた。


リーフはお月さまのように真ん丸で、ふわふわに焼けたきつね色のパンケーキを器用に分け、みんなに配った。



リーフ以外の人たちは初めて見る、この世界では存在しない食べ物だった。


この世界でお菓子やデザートと言えば、小麦粉とはちみつで練って焼いた素朴なクッキーや、牛乳をムース状にしたものか、ジャムを付けた少し甘いパンぐらいだったから。



甘い匂いに我慢できず、ジャックがパクッと食べてみる。


「うまい!!!」


思わず口に出た。


実はジャックはかなりの甘党。毎度アーサーとつるむのは、高価な甘いお菓子を買ってくれるからだったりする・・・。



「これを・・・お前が作ったのか・・・、リーフ」 感動するジャック。


自分のお菓子を褒められるのは凄く嬉しかったので、リーフは 「うんっ!」 と大きくうなづいた。



「素晴らしい・・・!リーフ、俺のために一生お菓子を焼いてくれ・・・!」


「やだなぁ、ジャックさん。それじゃあまるでプロポーズだよ!」


ははは、と無邪気に笑うリーフ。しかしこれはガッツリ、プロポーズである。

まだ今一つ、この世界では自分が女の子であるという自覚がない。



無言で食べていたスカーレットも思わず微笑んだ。美味しいのである。


騎士とはいえ若い女子、甘いものが嫌いなはずはなかった。


もっと欲しいと素直に思った。そして、ただの小さい女の子だと思っていたリーフに少し尊敬の念を抱いた。


「こんなおいしいものを作れる人間がいるなんて・・・!」




アーサーは一口でパンケーキをもぐもぐ食べつつ、腕組をして考えていた。


リーフのことが、やけに気になる。縁があったとはいえ、どうしてここまでコイツのために来たのだろう、と。



マーリンやジャックが、コイツと結婚したいと言い出した時、なにか説明しようのない感情が生まれた。



初めてリーフを見つけ、キスをして、命を助けたのは、自分だ。





「リーフは俺のものだ」




アーサーがさらにややこしいことを言い出した・・・!


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