第2話 小さいおじさん!

大ちゃんはケーキのおかげで、本日もつつがなく家に帰ることができた。


家といっても家賃6万5千円共益費3500円、バス停から徒歩15分交通の便悪しな2DKの築20年のアパートである。

ボロくて狭いながらも、家族3人、平和に暮らしている。



会社員の父、パート勤めの母だったので大ちゃんは小さいころから鍵っ子だった。


家に帰って誰もいないのは、昔は寂しい時もあったが、 今では好きな事が出来る嬉しい時間になっている。



暑苦しい紺のブレザーの制服をジャージに着替えると 、大ちゃんはキッチンに向かう。

小さくて狭くて、物がたくさん置いてあるが大ちゃんにとっては安らぎの場所だ。


古いが大きめの冷蔵庫の冷凍庫には、昨日仕込んでおいたアイスボックスクッキーの棒が10本並んでいた。


チョコチップ味2本、抹茶味2本、プレーン3本、ココアとプレーンの渦巻きがら3本。


何度作って持って行っても大好評で、回を重ねるごとに作る数は増えていった。


美味しさの秘密は、上等な砂糖をたくさん使うこと。

やっぱり甘いものが美味しい。

このクッキーに使われている砂糖とバターの量を知ったら、体重を気にする女子は卒倒するだろうけど・・・。


なにせ大量に焼くので時間がかかる。1回15分で×5回の75分。まあ2時間はかかる。

焼き上がりを待つ間に、宿題やテスト勉強をするのが大ちゃんの習慣になっていた。


実はこの、毎日コツコツ勉強をやってるので成績はそこそこ良い。塾にも通っていないが、成績は中の上か、上の下。これもまた、スイーツのおかげなのであった。




お菓子を焼き始めると、家じゅうに甘い香りが広がる。


「幸せだなー」


大ちゃんは数学の宿題をしながら小さすぎる幸せを噛みしめた。




ところで話は変わるが、小さいおじさんというのをご存じだろうか。


芸能人や多くの人が目撃したと証言している、小さいおじさんである。大きさが小さい以外、その辺にいる30~50代くらいのおじさん。


手のひらサイズのおじさんが、風呂やらトイレやらリビングやらに現れるらしい。


何のために現れ、そして何故おじさんなのかは分からない。




で、である。


その小さいおじさんが、今、大ちゃんが座っているキッチンのダイニングテーブルの上、珈琲カップの横にいる。


なんか生き倒れている。恰好はチノパン白シャツ緑のベスト、休日のサラリーマンのようだ。


大ちゃんは驚くより先に一瞬わが目を疑った。ベタだが自分をつねってみる。痛い、夢じゃない。

人形じゃないかと思ったが、つついた時の質感が生々しい人間そのものだった。


時折ピクッっと動いて、極め付けには「ぐ~~~~っ」っとおなかの音が鳴った。


「おなかがすいた・・・・・・・・・・」


小さいおじさんは言葉をしゃべった・・・・!



そのときちょうどチーンという音とともにクッキー第一弾が焼けた。


反射的に大ちゃんはクッキーをオーブンから取り出す。

取り出してる場合じゃないのだが、このままにしておくと焦げたりするのでと、にかく小さいおじさんに背を向けて取り出す。


「いやまてあれは幻かも・・・。」


恐る恐る振り向くと、小さいおじさんは机上に正座していた。


「たのむ、その美味しそうなものを分けて下さらんか」


なんと小さいおじさんから頼まれた・・・!

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