ケーキなボクの冒険

丸めがね

第1話 大ちゃんとケーキ 

高校生になっても彼の身長は伸びなかった・・・。


その男子の名前は、山本大(やまもとだい)。高校一年生の15歳。

通称だいちゃん。大ちゃんである。名は体を表さなかった。


158センチ。クラスで15人いる男子の中で、前から二番目。


しかも色白でやせ形、無駄なもち肌に童顔、そしてメガネつき。


かと言って女子と見間違えるほど可愛いわけでなく、いじられるほど不細工なわけでもなく、要するにただのチビでガリなモテない君だった。


クラスでの主なお仕事は、雑用である。

それは人気がないクラスの係(掃除系)をする、というかなり地味目な役割なのだが。



ただし、彼は一つだけ生き残るすべを身に着けていた。



「今日もケーキ焼いてきたよ~」


大ちゃんは、クラスの女子に美味しそうなシフォンケーキを差し出した。

イチゴ味である。


女子はキャーという甲高い声を上げて、すでに切り分けてあるケーキにかぶりつく。

美味しい、最高、いやだ太っちゃうという口々に言う。


大ちゃんはその様子をニコニコと見ている。


大ちゃんの生き残り作戦とは、クラスの女子の胃袋をつかむといういささか男らしさに欠ける方法だった。


しかしこれは大成功で、実質権力を持っている女子を味方につければ、男子から守ってくれるし、女子らしい気遣いで色々便宜を図ってくれることも多かった。

ダメダメな大ちゃんでもいじめられず、学校で平穏に生活できる。


何より大ちゃんはケーキ作りが大好きなのだ。


ただの粉と卵とバターや牛乳が、焼けばあんなに形を変えてふっくらくらくらケーキになるなんて・・・!

しかも女子に気に入られ、男子にいじめられなくなるアイテムになるなんて・・・!


ついでに甘いもの好きの母親の胃袋もつかみ、材料費も出してもらって、

まさに一石二鳥、いや一石三鳥の趣味と実益を兼ねた特技だった。


筋肉ムキムキ男らしい男にあこがれないわけではなかったが、そして通販で怪しい機械を買って努力もしてみたのだが、すべて無駄だった。

てか、同じくチビヒョロの父と、可愛いがドチビの母親を見れば遺伝子レベルであきらめるしかなかった。


「明日はアイスボックスクッキーを焼いてくるね~」


女子の歓声。

大ちゃんは明日も平和に暮らせることだろう。

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