第36話 やっと
「当たり前でしょう?
こんな命綱なしで、鉄骨を渡っているような生活を送れるほど、僕の精神もタフではありませんよ?」
『あら?あなたは『無敵』じゃ、なかったのかしら?』
「僕はどこぞのワンパンチマンか、何かですか?」
僕は絶賛、志乃さんと言い争っていた。
僕の言い分はこうだ。
今回任務を遂行したから、S.I.O.から解放して頂きたい。
が、志乃さんは是が非でも僕にS.I.O.として取り込もうとしているみたいだ。
論議は平行線を辿り、収束を覚えることは決してない。
むしろ、加速するばかりだ。
「だって、あんた!装備品すら与えてくれなかったじゃないですか!」
『それは、イツカ君。あなたがそれ程の実力者だと見込んだ結果よ?』
「僕は一学生に過ぎませんよ?――志乃さん。学生に求める結果には些か酷過ぎやしませんか?」
『あら?私はあなたのことをこれでも認めているつもりよ?
上級悪魔を祓うほどの立派な
「だ、だから!それは『夢』の影響であってですね!『現実』とは何ら関係ないじゃないですか!」
『はぁ……、イツカ君。あなたは――夢遊病患者。この事実を忘れたとは言わせないよ?』
「チッ……」
『だから、今後もS.I.O.で活動を頑張ってね~?』
志乃さんはそれだけ言い終わると、通信を切った。
僕は焼けた天空を咄嗟に睨んだ。
まるで太陽が僕に同情しているように想える。
あぁ……、君も置いて行かれたのか?
「イツカ君?これからも、よろしくね!」
桜さんは朝桜のように微笑んだ。
……結婚しよ。
「止してください。僕はまだS.I.O.に所属――」
「その交渉も無駄だったみたいだけどね?ザマーミソヅケ!」
リシュルさんは喜劇でも観ているかのように眼を細めた。
「リシュルさん?僕は恨みますよ?赤子のその先の赤子まで……。S.I.O.に不幸あれ!」
「まぁ、あんたの言っていることは同情もできるけど、ほとんど自業自得よね?」
綾乃さんは僕をジトーと睨んだ。
「悪魔を祓った時点でお前の敗北だ。イツカ」
「佐々木さんまで……、僕に救いはないのですか?」
「残念ながら、お前に残された選択肢は今後とも俺たちと同じくしてS.I.O.として活動していくことだ」
「オオ……、ジーザス……」
佐々木さんは「どんまい」と肩を叩いた。
対し、僕はゲンナリと両肩を落とした。
「さて、皆?今日の任務は終わったことだし、帰ろ?」
「おう」
「うん」
「そうね」
完全に意気消沈した僕を残して彼と彼女たちはヘリの中へと乗り込んだ。
僕もつられて、その軌跡をぼんやりと辿った。
ヘリの中はコタツという表現が正しいだろうか?
とにかく、仄かに温かった。
あと、騒がしい。
「一々あんたが来る必要なんてなかったのよ!」
「うー!心配のどこが悪いの!」
「心配してくれることは嬉しいよ?でも今回はリシュルちゃんには待機してもらいたかったな~。いや、でも心配してくれることは嬉しいか?うん!ありがとう!リシュルちゃん!」
「雛詩ってたまに仏のように見えるな?」
「ほえ?私が仏?それは買被り過ぎですよ~」
なんてことを言い合っている。
僕は完全に蚊帳の外だ。
その時だった。
「ねぇ?イツカ君?」
桜のさんの師玉に想わず吸い込まれる。
素敵な瞳だった。
まるで
僕はその瞳に若干の動揺を抱えながらも、何とかして疑問を投げ返した。
「な、何ですか?」
「いつもの奴、忘れていたから……」
「あぁ……、なるほど」
僕は講談師のようにポンッ。と手を叩いた。
桜さんが僕に眩いような杖を掲げる。
「うん……、ごめんね?
これも規則だから……」
僕はまた、夢を見るのか?
あの花曇りのようなあの夢を……。
「この者に大いなる平和を与えよ!
――『コスモス』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます