メガネさん
「……口の利き方がなって居ないんじゃないか? 僕は君の交渉相手からの窓口だ。それをそんな――」
ぱぁん、と頬を張って言葉を遮る。
「ヤァ。すまねぇな。蚊が居た。そんで?
「ベイブ、次に蚊を見つけるのはガララだから気を付けてね?」
「……こ、これで交渉が流れても――」
「流せねぇだろうが。単なるお使いのテメェには。――ヘィ、相も変わらず学習をしねぇな、テメェは。イキる理由に組織や他人を持ち出すなや。その勘違いで女五人ゴブに捧げちまったことをもう忘れたのか?」
揮発性メモリが搭載されているみてぇで羨ましいぜ、とケイジ。
「失礼します」
「何だい、メガネちゃん? 君の愛しいベイブを虐めたのが――」
「勘違いされているようですが」
くぃ、と四角い眼鏡が持ち上がる。光の加減で一瞬、ケイジから目が見えなくなる。見える様になった時、そこには冷たい光があった。
「一つ。私も、彼女達も“彼”のパーティではありません。二つ。その冗談は――面白くありません。えぇ、そうですね、例えるなら――交渉を流す方向に話を持って行きたくなる程度には不快です」
「……」
言っている内容はベイブと近い。近いが、根本的に違う。出来る。ソレを実際にやることが出来る。出来るし、背後の四人の女から殺気が滲んだ。ベイブとは完全に別口だ。こじれた場合の実行部隊。それだろう。「――」。軽い舌打ち。聞こえない様にソレをした。レサトを引かせずに潜らせておくべきだった。六人一パーティの内の一つの枠はベイブではない。ここには居ても姿を見せない奴がソレだ。
闇討ちは
だが、彼女達は好みで戦略を立てて居ない。
そう言うことだ。
「……ヤァ。こいつぁ失礼した麗しい
「変にへりくだる必要もありません」
「そうかい。そいつはありがてぇぜ、あー……」
「先程の呼び名で結構ですよ。貴方達に名乗る気はありませんので」
「……」
「……」
ガララと顔を見合わせて、肩を竦める。
色んな意味でお綺麗な
まぁソレならソレで良い。ビジネスライクな利害関係。そう言う割り切った関係は楽だ。
「よろしく、お願いをする、メガネちゃんさん」
ペコリと頭を下げるガララ。多分『さん』は要らない。
そんなメガネちゃんの後ろでベイブが気まずそうにしていた。折角ケイジ達の知人だからと抜擢された交渉役を、殆ど喋ることなく終えてしまったからだろう。だが、ケイジからすれば「何でコイツに先ずやらせてみたんだよ」だ。思うだけでなく、つい口にも出た。
「彼と貴方達は同期だと聞きました。面識もあると。だから一応は、と」
「そうかよ。悪い意味で前と変わって無くてビビったぜ」
「うん。ガララも思わずノスタルジックな気分になってしまった」
「こんなんでマジに錆ヶ原まで行けたのか? 最近の錆ヶ原は随分とレベルが落ちちまったんだな」
嘆かわしいぜ、とケイジ
「ほんとそう。ケイジとガララが居た頃は、それはもう、大変だったのに……」
全くだ、とガララ。
そんな二人の足元でレサトが「なにをいっているんだ?」とでも言いたげに、きょろきょろと二人の顔を見ていた。ケイジ達が錆ヶ原に居たのはたったの一年前だ。レサトの記憶が確かなら、そこまで状況は変わっていない。
つまり“あがり”を迎えたので調子に乗って老害ムーブをかましていた。
「使っている情報屋が良くありませんね」
そんなケイジ達を見て、これ見よがしにメガネちゃんが溜息を吐き出した。
「彼は確かに錆ヶ原に行きました。えぇ、それは間違いありません。お使いで一回、行っています。えぇ、一回。確かに行ってはいますよ?」
「……成程」
嘘は言って居ない。ガセですらない。それでもそう言う情報を掴ませても問題無いと思われた。情報屋にとってケイジ達はその程度の顧客と言う訳だ。それが相手に伝わった。「……」。良くねぇな。そう思う。目を閉じた。三秒待った。目を開ける。ここの所の浮かれていた自分を肺に押し込め、ふぅー、と大きく吐いて捨てた。そう言うイメージ。
「ありがとよ、メガネさん。お陰で浮かれてた自分って奴を見ることができたぜ」
「切り替えが早いですね。良いことです」
ふっ、と軽く笑いながら、上からの言葉。とっくに“あがり”を迎えているであろう彼女から見たらケイジの行動は微笑ましく見えたのだろう。
「……情報屋も選びなおした方が良いな」
「えぇ。それをお勧めします」
「因みにメガネさんが使ってるとこは? 優秀かい?」
「そうですね――」
うん、と軽く考える様に顎に指を宛がう。
「貴方が変な文字の書かれたTシャツを好むと言うことも知っていますよ?」
「は、そらすげぇ」
乾いた笑い漏らしながらケイジ。その背後でガララが今日のTシャツを確認して無言になった。
「ンで、話はどこでする? ここは人目は無いっちゃ無いが、隠れる場所は多い。秘密のお話をするには向かねぇだろ?」
「車を用意しています」
「ヤァ。良いね。良いチョイスだ。序に茶ぐらいは出してくれるなら最高だ」
「軽い食事も用意していますよ」
こちらです。
その先導に従う様にケイジ達が歩き出す。ふと、メガネさんが立ち止まった。
「これは個人的な興味なのですが――今日はどんなTシャツを」
「……」
既に確認しているガララが、軽く顎でケイジに確認する様に促してきたので、野戦服の胸元を引っ張って中を覗き込む。うん、と軽い頷き。ガララを見る。いっせーので、で――
「レバニラ」
「ガララはタン塩だ」
「――――――――――――――――――――――――――――――そうですか」
メガネさんの肩がちょっとぷるぷるしていた。
あとがき
Division2の大型アップデートが来たけどやらずに我慢して書き溜めた結果、ストックが多少は出来た。
毎日更新、行けんじゃね? 行けんじゃね!? そんな気分。
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