黒色ハンマープライス

 多脚戦車の動き始めは車体を持ち上げることから始まる。一瞬体にかかる重さが、浮き上がったという証拠だ。

 揺れが落ち着いた所でケイジとガララには身体を温める為かショウガ入りの紅茶が、レサトにはぶどうジュースが出された。ストローの刺さったソレを前にレサトはご満悦と言った感じだ。「……」。それを横目で見ながら、ケイジは成程、と思う。第五世代の自律兵器は生体脳を積んで居る関係で飲食をする。それは一般的な情報だ。だが味の好みは個人と言うか個々の機体による。レサトの好みはぶどうジュースだ。

 細やかな気遣いは時に『お前を知っているぞ』と言う脅迫にもなる。

 明らかに『情報』の使い方に慣れている。そう言う部署を相手しているのだろうと意識する。


「……」


 吹っ掛けんのは止めといた方が良いな。そう判断する。何時もニコニコ適性価格。それを心掛けた方が良いだろう。


「コイツがテメェら騎士ナイトギルドの幹部、コヘイさんとこの肉食恐竜ラプトルズ暗黒騎士ヴェノムギルドを通さねぇでクスリを捌いてたっー証拠だ」

「ラスターでは何処の組織でもやっていることですね」

「ヤァ。そう。そうだ。その通りだ。暗黙の了解って奴もあるせいで、デケェ証拠が無けりゃ暗黒騎士ヴェノムも動かねぇ。だから――」

動かせる・・・・証拠だと聞いてます」

「――」


 その通り。言葉の代わりに片眉を持ち上げて、レジメを渡した。書いてあるのは洗濯機の稼働状況だ。それもラスターでは良くあるモノだ。だが洗っている金の出所の資料を紐づけてみると色々と騎士ナイトギルドにとって都合が良いモノが見えてくる。


「動かすのは暗黒騎士ヴェノムギルドじゃねぇ。洗ってる金と、洗わせてるギルドを見てくれや」

「強盗殺人の、それも外の都市で起こったものの戦利品ですか……ここ・・は自前の洗濯機を持って居たと記憶していますが?」

「ランドリーで回してんのは血と糞に塗れた様な金貨だぜ? 簡単にゃ汚れは落ちねぇ。そう言う『金』や『物』ばっかが集まるこちらさんのランドリーは……ヤァ、パンパンだろうさ」

「ついでに言わせてもらうとね、外の都市での強盗はウチでも禁止されているよ。入れる洗濯機は選ばないといけない」


 ――だから相互利益をチラつかせて外の組織を使ったんだろうね。

 何でもない様に言うガララを、メガネさんが、ちらりと見る。視線を受けた盗賊シーフのガララは、ふん、と溜息を吐いて肩を竦めた。


「お構いなく。ガララはそちらの派閥には入っていないし――上と話は付けてある」

「……どのように?」

「定期的に膿は出した方が良いとガララは思う」

「自浄作用なんてモンは働かねぇからな、どうしたって力業になる。そうすると色んな所がズタズタになっちまう。そいつは中々に悲惨だろう? だから――」

「ついでに幾つかの罪を被って貰うことになって居るよ」

「ヤァ。ひでぇ話だ。ある日銃口と一緒に付きつけられる罪状の大半は身に覚えがねぇもんばっかだっつーんだからよ。俺がソイツなら禿げるね」

「でもケイジ、ルール違反をしたのが悪いから」


 同情するぜ、とケイジが笑い、仕方が無いよ、とガララが言う。

 単純に運が悪かった。皆がやってることをやっただけだ。なのに取引先の騎士ナイトがゴロツキに喧嘩を売った。そこでゴロツキ共に弱みを握られたのが運が悪かった。本当にそれだけだ。だが、それだけで食い殺されるのがヴァッヘンと言う街だ。


「……」

騎士ナイトギルドは表の顔だ。外の都市の事件の捜査にも協力してる。それなのに『そこ』から持ち込まれた金を洗ってるとなると――」

「失態ですね。あぁ、困った。困りました。こんなモノが騎士ナイトギルドから見つかったら信用が揺らいでしまう。そうですね。例えば金貨を持ち込んで来た先、盗賊シーフギルドから見つかってくれれば良いのに・・・・

「――」


 露骨に演技臭い仕草にケイジが思わず半笑いになる。そんなケイジは気にせず、メガネさんは再度ガララを見た。手帳を取り出し、ペンを用意する。


「そちらの要望は」

「捜査はふり・・だけでお願いをする。シナリオはこっちの用意するライターと詰めて貰って、資料も渡して貰って構わない。でも切り捨てた部分以外には触らないで」

「それと金だ」

「それは――」

「ヘィ、そちらさんの罪も被ってやるって言ってんだ。高くはねぇだろ? それにこの話、通れば動くのはギルド単位だ。テメェ等んとこのカイトさんの懐は痛まねぇ。――いや、寧ろちったぁ痛めた方が良いんじゃねぇか? 入ってくるのは功績と、空いた幹部の席だ」

「悪くない買い物ではありますね」

「……そんじゃ?」

「買いましょう」

「ヤァ。ハンマープライスだ」


 万歳する様にソファーに深く座りながらケイジが言えば――


「お買い上げに、感謝する」


 眼を細めて笑いながらガララが執事の様に頭を下げた。

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