ノーム
運が良い奴が居れば悪い奴も居る。
ケイジは運が悪い方だと思ってはいるが、別に自分だけが運が悪いと言うわけでは無いことを知っている。
控え目に言って、その“彼”は親近感を覚える程度に運が無かった。
地下から一階へ。
ケイジを先頭に上がる途中の階段で、ソイツとは出会った。
警戒しているケイジ達とは異なり、無警戒で石畳に足音を刻んでいるのだから良いカモだ。レサトが天井に張り付き、そこからの落下強襲であっさりと“彼”は抑えられた。
ケイジはそんな彼の髪を掴んで、無理矢理顔を上げる。
「よぉ、
彼は引き金に言葉を使っていた。だったら先ず潰すのは口だ。
二発ほどゴブルガンの弾を口に突っ込み、そのまま顎を殴り無理矢理閉じた。「あがー」と血だらけの砕けた歯とよだれを床に吐き出させる。
「……雷管が爆ぜてズタズタになると思ったんだがなぁ」
「そう上手くは行かないよ」
バレットブレット。
朝食代わりに食わされた弾丸の味は『吐き出したくなる』程に不味いらしい。悲しいことだ。だが折角だから軽く他の部分も『吐いて』貰おう。そう考え、えずくチビのフードを取る。予想通りに尖った耳が見えた。だが――
「っ! はは、やべぇな。……特大の地雷じゃねぇか」
その『顔』を見てケイジは乾いた笑いを零す羽目になった。
男と女では骨が違う。
大人と子供では骨が違う。
骨が違えば、肉の付き方が違い、顔つきが変わる。
解体屋にて変異生物を、暴走機械を、そして――亜人をバラバラにしていたケイジはそのことを経験で知っている。
だからソレが子供では無くて大人であると認識できた。
だからその耳が尖った小さな人物が子供のエルフでは無く、そのサイズで大人であると判断が出来た。
尖った耳はエルフの身体的特徴だ。
だが、エルフ『だけ』の身体的特徴ではない。
ソレは大人でも人と呼ばれる種の子供ほどの身長しかない。
だがその体格差に起因する身体能力未熟さを補う、深い知を持って居る。
緑色の髪を持つ彼等は
その種族は――
「ノームかよ」
ありったけの嫌悪を込めた声でケイジが言う。ガララも鼻に皺を寄せて不快そうだ。
言葉が通じない。
文化が違い過ぎる。
だから混ざることが出来なかったのがゴブリンやオークなどの亜人だ。
では言葉も通じて、文化も理解できる範囲のもので、姿形すらも似通って居るにも関わらず混ざることが出来なかった真性の
例えばノーム。
小さき賢人。そう自称する彼等は良く回る頭と、良く回る舌を持って居る。そして、根本的に、根源的に、種族ではなく、民族として――嘘つきだ。
行動の根本に嘘があり、そして結果がある。
根本が嘘であり、不正であるから、その結果には綻びが出来てくる。だからその綻びを取り繕うためにまた嘘を吐く。
――ノームは全ての種族で最も賢く、寛大な種である。
――それ故、旧時代が崩壊した際、人間にも、エルフにも、ドワーフにも、リザードマンにも、獣人にも、魔女にも住める土地を、生きる為の技術を『くれてやった』。
――にも関わらず、貴殿等は我々に感謝を示さない。
――だから我々はもうそれらを返してもらうことにした。
これはノームが実際に言った言葉だ。
民間人ではない。
ノームと言う種族の長がコレを宣言し、宣戦布告をし、他の亜人を入れて戦争を始めた。
嘘で嘘を固める。その嘘を守るために集団の頭が嘘を吐く。だがそれは所詮嘘なので、民の間に不満がたまる。不満が溜まったので、それを解消するためにまた嘘を吐く。吐いて、吐いて、吐いて――どうしようもなくなったから、武力でごちゃごちゃにしようとした。
それがノームと言う民族が
遠い昔の話だから、ケイジとして、この出来事に対する感想は『へぇー。馬鹿じゃねぇの?』位だ。だが、ノームはその姿から今もこちら側に潜ってはセコセコと喧嘩を売ったり、きゃんきゃんと被害者面で鳴いているので、その悪辣ぶりは、ケイジとガララも、しっかりと認識している。
「レサト、腕と足の腱切っとけ。止血は要らねぇ。死んだら死んだでそれで良い」
「声はガララがやっておくよ」
「おー、適当に何か噛ましとけ。面倒なら圧し折っても構わねぇぜ?」
「まっ、待てっ! 話を――」
子供の様な声。だが、それを聞く気は無い。
何かを言おうとしたノームへの返事は砂鉄入りグローブを握り込んでの右ストレート。押さえつけられたノームの頭上から降り落とし、石畳に叩きつける。
「聞く気はねぇ。喋らせる気はねぇ。テメェが何を言うのか、語るのかに全く興味がねぇし、仲良くする気もねぇ。
ケイジの言葉の終わりに合わせて、猿轡が噛まされる。声を封じてからレサトが先ずは足から行った。くぐもった悲鳴。アキレス腱が、ブチン、と音を立てて切れた。
時間は無い。
それでも少し考える時間が欲しい。
制圧してある地下への階段へ引き返し、ケイジは階段に座り込んだ。
「それで――」
どうするの?
壁に体重を預けながらのガララの問い掛けに、足元に転がしてあるノームを見る。正真正銘の
だが、それでは――
「ガララ、知ってるか? 俺達のパーティ――いや、俺とお前はかなり強ぇ……っーか、センスがある」
「うん。そうだろうね」
あっさりと肯定が返ってくる。
だが、そうで無ければ二人がかりで、不意を突いたとしても“あがり”を迎えたタカハシを一度でも瀕死に追い込むことは出来ない。
無論、“あがり”を迎えた後も先はある。タカハシとキティ比べれば、百回やれば九十回以上はキティが勝つ。“あがり”同士でも、それ位の差はある。それでも、駆け出しが“あたり”を倒すには経験と呪印の深度を補う『何か』が必要だ。金だったり、作戦だったり、それこそセンスだったりだ。
「コレをヴァッヘンの上に突き出せば、ブラーゼン協同組合の面目は丸つぶれだ。『敵性亜人を領地に入れた』これは民意を煽るには十分なネタだからな。ヴァッヘンからは撤退。他の開拓街とかでも行動がしにくくなるだろうよ」
「そしてガララ達はブラーゼン協同組合に目を付けられる?」
「そう言うこった。……だかよ、俺とテメェならそのままブラーゼン協同組合に狙われ続けても多分、損害を与え続けて落し所まで生き延びられる」
――俺とテメェはな。
とんとん、と膝を人差し指で叩きながら強調する様にケイジ。
「うん。順番はアンナ、リコ、ロイって所だね」
「どうかな。俺ならロイ、アンナ、リコの順番にする」
女子供に手を出すとほぼアウトだ。引っ込みがつかなくなる。だが、男ならまだ引ける可能性が残る。そして十分に本気は伝わる。そうすれば早い段階で交渉の席に座ることも在り得るだろう。
「それで、リーダーとしてケイジはどうするの?」
「……逃げるの止めてお買い物でもしようかと思ってる」
「へぇ、お代は?」
「足元のコレで買えねぇかなぁー」
「良いね。ガララは素敵だと思うよ。何と言っても、コレはタダで手に入れたものだからね」
「……ケー。そんじゃ、そう言うことで行こうぜ。俺とレサトで行くからテメェは――」
「うん。影に潜るね」
あとがき
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