運は悪い
レサトの側面には紐を引っ掛ける為のフックが幾つか付いている。
中々に器用な彼はそのフックを使って背中に背負った物資を自分で固定したりもできるのだ。
さて、ケイジを助けた際、丸腰では当然困る。
そこでガララはケイジが落として行ったSGを回収し、弾薬と共にレサトに持たせていた。
「……」
そんな訳で、ケイジの前にはちょっと前に稼ぎを全部突っ込んでかったBラック社のランナーシリーズ最新作のスプリンター五〇がある。
さて、またレサトの機能説明になってしまうのだが、
静穏性に重きを置き、極めて高い
無論、武器庫とかにも入れる。
そこで例えば捕虜から奪って売却或いは単純な処分を見つけた場合、彼はどうするだろうか? まして、それが自身のパーティメンバーのモノだったらどうするだろうか?
答え:回収する。
「……」
そんな訳でケイジの前には砂鉄入りの指ぬきグローブ、ゴブルガン入りガンベルト、鉢がね、ブーツがある。野戦服とジャケットは既に再利用されたようで、無かったらしい。
レサトが、くるっと回って、しゃっきーん、と右鋏を掲げて見せた。すごいだろー、そんな感じだ。
ケイジは取り敢えずそんなレサトを放置してブーツを履き、ガンベルトを身に付け、鉢がねを巻いた。ショットガンシェル用の弾倉はゴツイ。ジャケットが無いので、量が持てない。取り敢えず一つをポケットに突っ込んだ。不格好だが、言って居られない。
「なぁ、ブーツって蒸れるよな?」
「そうだね。蒸れると思うよ。それがどうかしたの?」
「……俺、今足の爪ねぇんだけどさ、バイキンとか入りそうじゃね?」
「そこは諦めるしかないと思うよ」
「だよなぁー」
きゅ、と紐を結ぶケイジ。顔を上げると――レサトが凄く接近していた。「……」。ケイジの二つの眼と、レサトの九つの眼が見つめ合う。ぴっ、とレサトが床に置かれたSGを指差す。続いて、ガンベルト、ブーツ、鉢がね、そしてグローブを指差して――
再びくるっと回って、しゃっきーん、と右鋏を掲げて見せた。
多分お礼の催促だろう。
「……ありがとよ」
ケイジがそう言うと満足したのか、しゃかしゃかと入り口の見張りに戻って行った。
「さて、ケイジ。武器が揃ったね?」
「あぁ、そうだな――」
一息。大きく吸い込んで――
「さっさと逃げ帰ろうぜ」
満面の笑顔でケイジは言い放った。
「武器が有るんだから『お礼』をするんじゃないの?」
「手土産がねぇと失礼だろ? 戻って取りにいくぞ」
「敵わないから逃げるって言えば良いのに……」
「ヘイ、ガララ。そこはよ、はっきり言うのを止めておくのが優しさってもんだと思うぜ?」
「落としちゃったんだ。見つけたら拾っておいて」
「……ヤァ。通りで体温が低いわけだぜ、
中指おったて「おら、さっさとずらかるぜ」。ケイジがドアを開ける。「……」。そこには一人のエルフが居た。手にはここの所のケイジの主食である点滴が有った。「え?」。何が起きたか分からない。そんな表情のエルフに対し、ケイジの反応は早かった。喉目掛けてSGの銃身を横にして突き飛ばし、壁と銃で鋏ながら力任せに持ち上げる。首が絞められ、苦しそうに足が宙を掻く中、追撃の膝を腹にぶち込む。「がはっ」と更に空気を吐き出させた所で、解放。咳き込み、声が出ない内に頭を割った。
ケイジの動きは滑らかだった。
銃声は鳴ってしまったが、元よりここ、地下の拷問部屋に近づくモノは少ない。運が良ければ問題無く逃げられただろう。
運が、良ければ。
「……ヘェイ、ガララぁ?」
「大丈夫、出てないよ」
「ケー。そのまま隠れて影から頼むぜ。レサトは出ろ、相手に姿を見せてテメェが俺を助けた様に印象付けてくれや」
ケイジのその言葉にレサトが天井から降ってくる。そうして威嚇する様に鋏と尾を向ける先には――団体様。
「まるで映画みたいなタイミングだね。ケイジ、BGMはどうする?」
「あ? んなもん、派手に撃ちゃそれっぽくなんだろーが」
「うん。それじゃあ、ハードに行こうか」
「あぁ、ショータイムって奴だ。踊ろうぜ」
ケイジのその言葉の終わりが戦闘開始の合図だった。
あちらは通路の角に、ケイジとレサトは柱の陰に隠れながら射撃戦を開始する。
レサトの鋏に仕込まれた二丁の機関銃が角から頭を出そうとする敵を撃つ。嫌がり、引っ込めた所にケイジが走り寄る。それを許さない為だろう。白銀の鎧を着た奴が前に出た。鎧エルフは
鎧は重い。
ガトリングガンは重い。
重いと言うことは強いと言うことだ。
右手で相手のヘルムを掴む。バイザーの隙間に良い感じに指が掛かった。ケイジはそのまま足を掛け、体重を乗せ、
勢いそのままにケイジが走り抜ける。
「っ! ばっ、馬鹿! 止めろ! 止めろってぇぇ――!」
その後方、倒れた騎士エルフにレサトが覆いかぶさり、鋏で両手を抑えながら尻尾を伸ばし、バイザーの隙間に差し込み、絶叫を挙げさせる。
その叫びに思わず、と言った感じで一人のエルフが顔を出した。出したので撃った。距離が近かったのか、相手が弱かったのか、散弾は呪印の防御を食い破り、眼を潰した。
手ごろな盾に丁度良さそうだったので、ケイジはソイツの首根っこを捕まえ、前面に押し出しながら角から飛び出――すと、危なそうだったので、ソイツを蹴り出し、自身は壁に背を預けて止まる。銃声が連続して響く。蹴り出した職業不明エルフに孔が開いて血が噴き出し、終わる。ケイジが顔を出して確認すると『見るな』とでも言う様に銃弾が飛んできた。
それは良い。
「ガララ、
問題は二人の護衛に守られ、掲げた枝の様な細い杖の先に何やら巨大な雷を溜めている
戦場の移動砲台。
言葉で、或いは空に書いた魔術文字で『意味』を付け足して行くことから、使えるモノを撃つには準備に時間が掛かるが、時間さえあれば兎に角高火力な
撃とうにも、護衛二人に阻まれて撃てないし、L字に曲がった通路の先に引いて構えているのが何より最悪だ。
ケイジのSGは距離を取られると弱い。
かと言って待てば、更に悲惨なことになるだろう。あの電気玉に
『ケイジ、スモーク焚いて派手に出て』
「……ヘェーイ、俺、死んじゃうんだけど?」
『スモーク焚けば大丈夫だよ。多分。でも派手に出て、注意を引いてね』
「今、多分っつただろ、テメェ?」
『……気のせいだとガララは言うよ』
「いーや、確かに言ったと俺は主張するぜ」
『とにかく、派手に出てね』
――その間にガララとレサトが後ろを取るよ。
そんな何でもないような言葉。
この一本道の通路だ。回り道をして背後を取ると言うわけではないだろう。レサトは天井を行くのだろうが、ガララはどうする気なんだ?
色々なことが聞きたいが、残念ながら時間が無い。突き当りの通路にある柱の影。あそこ迄逃げ切れば行けるかもしれねぇ。そんな訳で「……カウントスリー」。自分を追い込む為の宣言。心の中で数を減らしていき、ゼロと同時に飛び出す。背中の呪印が熱を持つ。彫り込まれた『鬼の髑髏』がケイジの身体能力を跳ね上げる。撃たれる。当然だ。ガードが削られる。知っていた。だからケイジは必死で走りながら
「ッ!
ローブを着てないし、ARを撃って来たので、完全に騙された。アレか?
だが、ケイジは相手が見えるし、相手もケイジが見えている。
だから彼等三人の背後が見えた。一足早く階段に逃げ込んだレサトが見える。電気玉を掲げる
――見捨てられたか。
一瞬、そう思った。
つまりは絶望した。
そのケイジの表情に魔術師Aがにやりと笑い、手の杖を大きく振りかぶり――
「え?」
そっ、と背後のガララにその杖を奪われた。
それは余りに見事な盗賊技能のピックポケットだった。
状況を理解出来ていない魔術師Aの上で電気玉が、ぶぶ、とぶれる。
「あ、コレ駄目な奴っすわー」
どこか軽く聞こえるケイジの呟き。
準備をしていたガララは直ぐに走って階段に逃げた。
見ていたケイジも同様に慌てて柱に身を隠した。
さて、言葉と杖で制御されていた神秘からその内の片方が抜けると、どうなるのだろう?
これが答えだと言わんばかりに、状況を把握していない三人のエルフの上で行き場を失った雷が轟を挙げて爆ぜた。
あとがき
話題のドラマ:トクサツガガガ
ポチ吉の現状:ストックガガガ
そろそろヤバい。
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